ラインの向こう側

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15話 ※

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 絶対に待てる、と生智は翌日改めて自分に頷いたはずだった。
 卒業まで一年もない。
 相変わらず衛二はその辺生智をちっとも信用してくれていないのか「多感な時期だし、きっと他に好きな人ができる」などとんでもないことを言ってくれるが、生智は絶対にそれはないと言い切れた。どうせ口にするたびに「絶対、なんてことはないんだぞ」と言われるのがオチではあるが。
 もう一旦恋人という関係ではなくなってしまったが、衛二は「好きだ」とは言ってくれた。

 だからきっと大丈夫。
 きっと――

 翌日以降、本当に衛二はただの先生になった。最近少し変わってきたと思っていた関係性すらなくなった気がする。最後の日に、特に何かをする訳でもないまま抱き合い触れ合ったことなどなかったかのようだった。
 待てる、と言ったのは嘘じゃない。ずっと好きでいられる。それは本当に絶対で……だけれども、なにもなかったかのようにされるのがこんなに抉られるものとは思っていなかった。日が経てば経つほど、どんどんと気持ちが塞いでくる。
 気を紛らわせようと将や他の友だちらと騒いだり、女子と遊びへは行かないが休み時間には喋って過ごしたりしてみても、その時は楽しいのだがその後でまた衛二のことを考えてしまう。
 だが連絡すら取れない。教えてもらった番号やアドレスは「卒業したらまた」と消されてしまった。まさかすぐ消されるとは思っていなかったので「消さなくてもいーだろ。そりゃその気にならなかったら消す約束だったけど、付き合わないっつっても先生、好きになってくれたのに!」と文句を言うと、衛二はただ「悪いな」と静かに笑っていた。
 生智がこうしてすぐに不安になり、連絡を取りたがることを見越していたのだろうか。

 ……だよな。先生は大人で……俺は子どもだもんな。

 実際、今こうして内心落ち込んでいるのも子どもだからなのだろうと生智は思った。現に衛二はなんともなさそうだ。生智のように不安になったりすることもなさそうだ。自分はこんなに気になっているのにと思った後で生智は情けなくなった。
 これでは期間限定で恋人になってもらう前よりも酷い。前なら決してこんな風には考えなかった。元々興味を持ってくれていない前提で接していた頃の方が楽だった。
 そしてそう思った後さらに情けなくなり、自己嫌悪に陥る。

 女々しいクソだな俺。

 衛二の立場を把握しているつもりだし、好きだと言って貰えたのは本当に嬉しかった。絶対に待てると今も思っている。自分の気持ちに揺らぎはない。それこそ衛二はさほど信じてくれていないようだったが、生智は本当に衛二が好きなのだ。
 だがあまりに衛二が何でもないようにしか見えなくて不安になる。
 挙句、自分を追い払うために好きだけど無理だと嘘を吐いたのではないかとさえ頭の片隅に過ってしまい、衛二がそんなことをするはずない上にあの時の言葉は本物だった、とすぐに否定しつつもどこか落ち着かないでいた。
 そんなある日の放課後、衛二が担任の教師と仲よく話しているところを見かけた。
 別におかしな光景ではない。基一は生智たちの担任教師であり、衛二は副担任だ。口も利かない仲のほうが違和感がある。

 それでも仲夜よすぎじゃねぇのあれ?

 思わず隠れつつも生智はイライラと思った。
 基一は「昨夜は大丈夫だったのかよ」などと言いながら衛二の首に腕を回している。衛二もいつもの素っ気なさは見当たらず「ああ、ありがとう」と礼まで言っている。
 最近ずっと落ち込んだりイラついていたせいで、生智はこの様子に激しく憤りを感じてしまった。自分がこんなに気にしながらも、触れたいのを我慢して衛二に合わせているのに、いとも簡単に他の教師は衛二に触れられる。
 もちろん馬鹿馬鹿しい考えだとは心のどこかでわかっている。子供じみた嫉妬だとわかっている。
 だがわかっていても、どうしようもない。

「好きになってくれてありがとうな。あと俺の気持ち、優先してくれてありがとう……」
「ごめんな。そんで、明日から卒業するまでは、ただの先生と生徒でいさせてくれ」

 最後の日に衛二が言ってくれた言葉が過る。だが生智の気持ちは収まらなかった。衛二が基一と離れたところを見計らい、生智は衛二の腕をつかんだ。

「っ正条?」

 驚いている衛二に何も言わず、生智は今いる三年のフロアではなく一つしたの二年のフロアへ移動した。そして誰もいない廊下を歩き、使われていない教室へ連れ込む。衛二は唖然としているからか、抵抗することもなかった。

「正条、何のつもりだ」
「森永と何の話してたんだよ……」
「え?」
「さっき……」
「さっき? ああ! いや、別に何っていう訳は……」

 生智が何の話をしているかわかった様子の衛二は、何故か言葉を濁してくる。それは生智をさらにイライラとさせることに関しては成功していた。

「っくそ!」

 思い切り衛二を押すと、衛二は簡単に倒れてくれた。まだ唖然としている衛二に生智はキスをする。それでようやくハッとしたのか、衛二は抵抗を見せ始めた。

「よせ……っやめろ!」
「やめねぇ……」

 ずっと衛二と付き合うことを想像してひたすら男同士のことだって色々調べてきた。それをこんなことで役に立たせる予定なんてなかった。
 生智は衛二のネクタイを外すと、それで衛二の両手首を合わせて縛り、そばにある机の脚に括り付けた。

「先生、抵抗して暴れたら机、すげーガタガタ煩いよ。誰か気づいて来るかもな。そしたら生徒にこんなことされてんの、見られちゃうよ」

 さらに抵抗しようとしてきた衛二に囁くと、衛二は目を見開いて生智を見てきた。思わず生智は目を逸らす。

 今ならまだ止めて謝れば何とかなる。

 心の片隅で自分の理性が囁く。だが気づけば言葉が出ていた。

「俺がずっとずっと我慢してんのに、何であんたは他のヤツなら触れさせるんだよ……! 俺のことは知らないフリみたいにしてくのに……!」
「違う、俺は……」
「また違う、かよ……! 何だってんだ……!」

 目を見開いていた衛二が生智と違って落ち着いた様子で諭そうとしてくるのを感じ、生智はむしろ苛立ちが強まった。初めてキスした時に見せてきたなんでもない余裕の表情を思い出す。
 衛二の表情を崩したくて堪らない上に冷静さを欠いている生智は、自分を見て欲しいがために無理やり衛二を抱いた。
 コンドームは持っている。だが専用のローションなど持っているはずもなく、いつの間にか投げ出していた鞄からコンドームと共にハンドクリームを出した。
 衛二はずっと「止めろ」と抵抗していた。だが最初に強く動いた時に机が大きな音を立ててからはあまり動かなくなった。
 夢中になって抱きながら、生智の心臓が痛んだ。
 ハンドクリームをたっぷりと、脱がせて露わになった衛二の後ろの穴に塗り込む。コンドームが劣化するから油分は駄目だとかそんな内容も見かけたことはあったが、そんなことは今はどうでもよかった。
 頭の中がごちゃごちゃとする。
 つけたコンドームにもクリームを塗りつけて自分のものをぐぐ、っと無理やり挿入させた。クリームを塗りながら解しはしていても、そこはとてつもなくキツかった。
 唇を噛みしめた衛二から唸るような声が漏れ聞こえてきたが、頭や心の中に入ってこない。ただひたすら「俺の……俺の……っ」と心の中でうわ言のように繰り返しながら生智は息を乱し、必死になって突き上げていた。
 途中からは衛二の唸り声すら聞こえてこなくなった。
 経験自体は何度もあるが、男相手は初めてで、そして後ろでの締め付け具合と妙な興奮により、生智はあっという間に達してしまった。
 コンドームを付けているとはいえ、衛二の中で射精したところで、ようやくジワジワと我に返り始めた。頭がさっと冷たくなる。

 俺は、何をやった?
 怒りと焦りに任せて、何を、やった……っ?

 衛二がちゃんと向き合ってくれなかったとしても仕方がないことは明確でしかない。子ども以下だ。
 生智は慌てて自身を抜く。

「っご、ごめ、ごめ、なさ……」

 謝っても許されないことを、自分は今してしまった。超えてはいけない線を越えてしまった。
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