98 / 203
4Thursday
6
しおりを挟む
翌日、三里が風紀室へ入ろうとしていると、その前に「……ちょっと、失礼します……」と地を這うような声が聞こえてきた。何ごとかと振り向くと、ただでさえ冷たい永久の目が今にも三里を虫けらのように踏みつぶさんといったばかりに睨みつけてきていた。
「な、何だよ」
ギョッとしつつ言い返すも「……顔を、貸せ……いえ、貸してください……」とますます不穏な様子を永久は隠そうともしない。
あ、何か俺これ死んだ?
三里の脳内で、なぜか永久から日本刀で切りつけられ倒れる自分が容易に想像できてしまい、微妙になる。
「か、貸したくねぇ」
「ふざけてるんです……? 生憎アンタに対して冗談言い合うほどの好意は何一つ持ち合わせてませんので」
「るせぇな、わかってんよ! だから嫌だっつってんだろ、俺の顔は俺のもんだ!」
「は? 俺には貸せと言うくせに何なんです? ふざけんなです、却下します」
凍りつきそうな冷たい目で三里を見てきた永久は、そのまま三里の腕を背後から捻り上げてきた。明らかに自分より小柄で下手すれば華奢そうにも見えかねない永久だというのに、それはとてつもなく痛い。そして逃れられない。
「わかった! わかったから離せクソ!」
結局三里は大人しく言うこと聞いてついて行かざるを得なくなった。
どこへ行くのかと思えば風紀室隣の空き教室で、少しだけ拍子抜けする。そしてこの間わざわざ別校舎へ回ってまで気を使った自分を少し恥ずかしくも思う。
「で、何だよ!」
「……そんなに声を荒げなくとも聞こえます、鬱陶しい」
「ぁあっ?」
鬱陶しいと言われイラッとして三里の口からまた叫ぶようについ声が出ると、今度は軽く舌打ちされた。
「……アンタ、昨日俺の妹と会いました?」
「え? ……あ、あ。おぅ。お前にあんなかわいい妹が……」
何を言われるのかと思っていたら拍子抜けするようなことを言われた。ポカンとしつつも三里が言いかけると、遮るようにして「かわいい?」と永久が睨みつけてくる。
「アンタ、俺の妹に何もしてないでしょうね……」
「はっ? ちょ、待て。お前の妹って、千代ちゃんのことであってんだよな?」
「……っ人の妹を馴れ馴れしく呼ばないでいただけます?」
また舌打ちしながら、永久はさらに三里を睨みつけてくる。
「え、いやだって……じゃあ何て呼べばいーんだよ!」
「一ノ倉さんでいいでしょう……? そもそも俺に対しても呼び捨てになんてされて欲しくないですが」
「るせぇな、いちいちめんどくせぇ……! 他に対しても基本名前で呼んでんだよ俺は! むしろお前らだけなんで名字にさん、つけなくちゃなんねぇんだよ、意識しなきゃだろがうぜぇ!」
イライラ三里が言い返すと、また舌打ちが返ってきた。いつか永久の舌か上顎かその辺が擦り切れるのではないかとさえ思う。
「アンタの頭の弱さを思うとなぜ学校の成績がいいのか謎ですし、そもそも生徒会にいること自体理解しがたいです」
しかもため息つかれながらろくでもないことを言われる。
「んだとっ。つか、何なんだよ! 俺を馬鹿にするために呼びつけたのかよざけんな」
「いえ、違います。そんな暇じゃありません。アンタが俺の妹に邪なことをしたり思ったりしたんじゃないかと心配しているだけです」
永久はとてつもなく嫌そうな顔しながらそっぽを向いてきた。その言葉を聞いて、三里は一瞬の間の後で「はっ?」と呟く。
「待て。ほんとにあの千代ちゃんのこと言ってんだろうな? 俺を何だと思ってんだよ! 千代ちゃんこないだまで小学生だっただろうが! そんな子に対してどう思えと……!」
「かわいいと言いましたよね?」
「言うだろそれくらい……! テメェだって自分の妹のことかわいいと思ってるからこうやって馬鹿みてぇに心配してんだろが。つか心配しすぎてキメェけどな」
へっと笑って三里が永久を指差すと「……人に指差すのがマナーだとでも思ってるんです?」と凍りつきそうな声で言われた。ムッとしながらも、年下にまるで説教されたような気分になったのがどうにも微妙で、三里はふいと顔をそらしながら呟く。
「んだよ、お前の態度がわりぃからだろ」
「アンタが俺の妹にちょっかいかけるからです」
「……は? だからかけてねぇっつってんだろが! いやそう言ったのは今が初めてだけどよ、年考えろよ……! 俺がそんな年下というより子どもに何かやらかすわけねぇだろが」
「……千代をその辺の子どもと一緒にしないでください」
「……っめんどくせぇ……! なんかお前すげぇめんどくせぇんだけどっ? どうしろっつーんだよ! 子ども扱いすんなとかちょっかいかけんなとか。いや、かけてねぇけど! だいたい何でちょっと喋ったくらいで、んなこと言われなきゃなんだよ」
呆れたように言うも永久の表情は変わらない。だが質問には答える気があるようで、ため息ついた後に口を開いてきた。
「アンタがろくでもないのは知ってますし」
答える気というか、ただ貶してきただけだった、と三里は口を引きつらせる。
「んだよそれ! 俺がいつろくでもねぇことしたっつーんだよ。つかろくでもねぇことってなんだよ!」
「好きでもない女性と寝ますよね?」
返答を求めてはいたが、予想以上にズバリと言われて三里は言葉に詰まる。その様子を永久はまた虫けらを見るような目で見てきた。
「な、んだよそれ……。そ、それに別に俺から好んで、は……」
「はい? 女性に手をかけておきながら最低ですね、今の言い方は」
「……。だ、だいたいそれをどこで」
三里はたまに愚痴を良紀に言うことはあっても、はっきり女と寝たと口にしたことない。とはいえそれは思いやりや気配りから口にしないのではなく、情けないからだ。
実際自分からせまったことない。むしろ自らそんな気になったこともない。向こうからあの手この手でせまられ断れず、気づけば高級ホテルの一室だったなんてことはざらだった気がする。
もちろん自分にその気がないならちゃんと断れ、だろう。その気がないと言いつつ、実際行為に及んでいるわけなので、永久に今言われたことは三里にグサリと刺さっていた。
「最初はただの噂で聞いただけでしたが、千代もアンタが何度か女性と一緒のところを見たことがあると言ってました。千代が見かけたってだけでも苛立たしいです」
「……えっと、何かそれは、ごめん。どーゆーとこ見かけられたんかは知んねぇけどよ……」
昨日話していい子だなとは思っていたので、三里は素直に謝る。
っていうか女といるとこ何度か見かけて、まだ俺に憧れてくれてんの?
「……それでもアンタに憧れてるらしくて、俺としては本当に腹立たしいんです」
「あ、え、そ、その、ごめん」
いい子だなと思った千代を出されると、素直に謝らざるを得ない。今まだ中学一年生だけに余計だ。そんなつもりなくても、恐らく永久が懸念しているであろう悪影響をもし与えてしまっていたらと思うと、さすがに自分主体に考えがちの三里であっても申し訳なく思う。
そしてあれだ。永久がとてつもなく自分を嫌っている理由がようやくちゃんとわかったような気がした。
だからといってどうしようもないとも思う。千代に対しては悪いとは思うが、それでも正直やはり自分から行っているわけでもないし、ろくでもないことしている自覚もない。その気がないなら断ればいいと思われているのだろうが、三里も「興味ない」「やめとく」「断る」と全く口にしていないのではない。
確かに最初の頃は好奇心もあったし、実際行為そのものは悪いものでもない。そこは男なのだから仕方ないじゃないかとさえ思ってしまう。
「で、でもよ、お前だって顔だけはいいんだし、向こうから来ることもあんだろ?」
顔だけは、と言った後でその言葉が何となくブーメランな気もしないでもないと三里は内心微妙な気持ちで思う。
「ありません」
「ねぇの? あー書道の世界だとそーなの? いやでもあれだろ、お前がそういう場に出てねえだけじゃねえの? それにもし来られたらお前だって断りきれねぇんじゃね?」
「……俺はそういうの好きじゃないんで」
「そーゆーのって? エッチのこと? え、待ってお前童貞とか?」
「だったらどうなんです?」
もし三里が童貞だったとして誰かに指摘されたら「そんなことない」などと言って見栄を張りたくなっていたと思う。別に悪いことじゃないくらいはわかっているが、恰好よくない気がして恥ずかしくなるからだ。
だというのに永久は淡々と頷いてきた。いや、むしろ鼻で笑われた。
「あの、何ていうか、すみません」
思わず三里は謝ってしまうくらい、堂々と言われた気がした。
「……とりあえず千代には近づかないでください」
「いやでもな? そうは言うけどよ、千代ちゃんから来たんだし。だいたい俺マジで妙な気も考えも千代ちゃんに持ってねえっつーの。それを歪んで捉えちゃってさ? お前のが邪じゃね? だいたいお前兄のくせに妹の交友関係にいちいち口出しすんの? 嫌われんぞ、そーゆーの。ウゼェしな」
さすがに「近づくな」と言われるとムッとなるため言い返すと、また舌打ちされた。永久が自分を嫌っている理由は判明したとは思うが、やはりだからといってそれを改善するには三里の社交性のなさだと難しい。対女性適応能力というか、上手くあしらう方法はむしろ三里こそ喉から手が出るほど欲しい。
永久に対しても適当に「わかった」とでも言えばよかったのだろうが、それだとまるで千代に対してよくない考えを持っていると認めているような気分にさせられて嫌だった。
「……わかりました」
「あ、マジ? わかってくれた?」
「アンタに言っても無駄ってことが」
「は? いやちょ、だって」
「俺が警戒すればいい気もしますし、アンタのことはますます嫌いですが、様子はうかがわせてもらいます」
永久は冷たく言い放つと、さっさと教室から出ていった。
何それ。
残された三里は妙な理不尽さを抱えつつ、今後さらに居たたまれない思いになる予感しかしなかった。
「な、何だよ」
ギョッとしつつ言い返すも「……顔を、貸せ……いえ、貸してください……」とますます不穏な様子を永久は隠そうともしない。
あ、何か俺これ死んだ?
三里の脳内で、なぜか永久から日本刀で切りつけられ倒れる自分が容易に想像できてしまい、微妙になる。
「か、貸したくねぇ」
「ふざけてるんです……? 生憎アンタに対して冗談言い合うほどの好意は何一つ持ち合わせてませんので」
「るせぇな、わかってんよ! だから嫌だっつってんだろ、俺の顔は俺のもんだ!」
「は? 俺には貸せと言うくせに何なんです? ふざけんなです、却下します」
凍りつきそうな冷たい目で三里を見てきた永久は、そのまま三里の腕を背後から捻り上げてきた。明らかに自分より小柄で下手すれば華奢そうにも見えかねない永久だというのに、それはとてつもなく痛い。そして逃れられない。
「わかった! わかったから離せクソ!」
結局三里は大人しく言うこと聞いてついて行かざるを得なくなった。
どこへ行くのかと思えば風紀室隣の空き教室で、少しだけ拍子抜けする。そしてこの間わざわざ別校舎へ回ってまで気を使った自分を少し恥ずかしくも思う。
「で、何だよ!」
「……そんなに声を荒げなくとも聞こえます、鬱陶しい」
「ぁあっ?」
鬱陶しいと言われイラッとして三里の口からまた叫ぶようについ声が出ると、今度は軽く舌打ちされた。
「……アンタ、昨日俺の妹と会いました?」
「え? ……あ、あ。おぅ。お前にあんなかわいい妹が……」
何を言われるのかと思っていたら拍子抜けするようなことを言われた。ポカンとしつつも三里が言いかけると、遮るようにして「かわいい?」と永久が睨みつけてくる。
「アンタ、俺の妹に何もしてないでしょうね……」
「はっ? ちょ、待て。お前の妹って、千代ちゃんのことであってんだよな?」
「……っ人の妹を馴れ馴れしく呼ばないでいただけます?」
また舌打ちしながら、永久はさらに三里を睨みつけてくる。
「え、いやだって……じゃあ何て呼べばいーんだよ!」
「一ノ倉さんでいいでしょう……? そもそも俺に対しても呼び捨てになんてされて欲しくないですが」
「るせぇな、いちいちめんどくせぇ……! 他に対しても基本名前で呼んでんだよ俺は! むしろお前らだけなんで名字にさん、つけなくちゃなんねぇんだよ、意識しなきゃだろがうぜぇ!」
イライラ三里が言い返すと、また舌打ちが返ってきた。いつか永久の舌か上顎かその辺が擦り切れるのではないかとさえ思う。
「アンタの頭の弱さを思うとなぜ学校の成績がいいのか謎ですし、そもそも生徒会にいること自体理解しがたいです」
しかもため息つかれながらろくでもないことを言われる。
「んだとっ。つか、何なんだよ! 俺を馬鹿にするために呼びつけたのかよざけんな」
「いえ、違います。そんな暇じゃありません。アンタが俺の妹に邪なことをしたり思ったりしたんじゃないかと心配しているだけです」
永久はとてつもなく嫌そうな顔しながらそっぽを向いてきた。その言葉を聞いて、三里は一瞬の間の後で「はっ?」と呟く。
「待て。ほんとにあの千代ちゃんのこと言ってんだろうな? 俺を何だと思ってんだよ! 千代ちゃんこないだまで小学生だっただろうが! そんな子に対してどう思えと……!」
「かわいいと言いましたよね?」
「言うだろそれくらい……! テメェだって自分の妹のことかわいいと思ってるからこうやって馬鹿みてぇに心配してんだろが。つか心配しすぎてキメェけどな」
へっと笑って三里が永久を指差すと「……人に指差すのがマナーだとでも思ってるんです?」と凍りつきそうな声で言われた。ムッとしながらも、年下にまるで説教されたような気分になったのがどうにも微妙で、三里はふいと顔をそらしながら呟く。
「んだよ、お前の態度がわりぃからだろ」
「アンタが俺の妹にちょっかいかけるからです」
「……は? だからかけてねぇっつってんだろが! いやそう言ったのは今が初めてだけどよ、年考えろよ……! 俺がそんな年下というより子どもに何かやらかすわけねぇだろが」
「……千代をその辺の子どもと一緒にしないでください」
「……っめんどくせぇ……! なんかお前すげぇめんどくせぇんだけどっ? どうしろっつーんだよ! 子ども扱いすんなとかちょっかいかけんなとか。いや、かけてねぇけど! だいたい何でちょっと喋ったくらいで、んなこと言われなきゃなんだよ」
呆れたように言うも永久の表情は変わらない。だが質問には答える気があるようで、ため息ついた後に口を開いてきた。
「アンタがろくでもないのは知ってますし」
答える気というか、ただ貶してきただけだった、と三里は口を引きつらせる。
「んだよそれ! 俺がいつろくでもねぇことしたっつーんだよ。つかろくでもねぇことってなんだよ!」
「好きでもない女性と寝ますよね?」
返答を求めてはいたが、予想以上にズバリと言われて三里は言葉に詰まる。その様子を永久はまた虫けらを見るような目で見てきた。
「な、んだよそれ……。そ、それに別に俺から好んで、は……」
「はい? 女性に手をかけておきながら最低ですね、今の言い方は」
「……。だ、だいたいそれをどこで」
三里はたまに愚痴を良紀に言うことはあっても、はっきり女と寝たと口にしたことない。とはいえそれは思いやりや気配りから口にしないのではなく、情けないからだ。
実際自分からせまったことない。むしろ自らそんな気になったこともない。向こうからあの手この手でせまられ断れず、気づけば高級ホテルの一室だったなんてことはざらだった気がする。
もちろん自分にその気がないならちゃんと断れ、だろう。その気がないと言いつつ、実際行為に及んでいるわけなので、永久に今言われたことは三里にグサリと刺さっていた。
「最初はただの噂で聞いただけでしたが、千代もアンタが何度か女性と一緒のところを見たことがあると言ってました。千代が見かけたってだけでも苛立たしいです」
「……えっと、何かそれは、ごめん。どーゆーとこ見かけられたんかは知んねぇけどよ……」
昨日話していい子だなとは思っていたので、三里は素直に謝る。
っていうか女といるとこ何度か見かけて、まだ俺に憧れてくれてんの?
「……それでもアンタに憧れてるらしくて、俺としては本当に腹立たしいんです」
「あ、え、そ、その、ごめん」
いい子だなと思った千代を出されると、素直に謝らざるを得ない。今まだ中学一年生だけに余計だ。そんなつもりなくても、恐らく永久が懸念しているであろう悪影響をもし与えてしまっていたらと思うと、さすがに自分主体に考えがちの三里であっても申し訳なく思う。
そしてあれだ。永久がとてつもなく自分を嫌っている理由がようやくちゃんとわかったような気がした。
だからといってどうしようもないとも思う。千代に対しては悪いとは思うが、それでも正直やはり自分から行っているわけでもないし、ろくでもないことしている自覚もない。その気がないなら断ればいいと思われているのだろうが、三里も「興味ない」「やめとく」「断る」と全く口にしていないのではない。
確かに最初の頃は好奇心もあったし、実際行為そのものは悪いものでもない。そこは男なのだから仕方ないじゃないかとさえ思ってしまう。
「で、でもよ、お前だって顔だけはいいんだし、向こうから来ることもあんだろ?」
顔だけは、と言った後でその言葉が何となくブーメランな気もしないでもないと三里は内心微妙な気持ちで思う。
「ありません」
「ねぇの? あー書道の世界だとそーなの? いやでもあれだろ、お前がそういう場に出てねえだけじゃねえの? それにもし来られたらお前だって断りきれねぇんじゃね?」
「……俺はそういうの好きじゃないんで」
「そーゆーのって? エッチのこと? え、待ってお前童貞とか?」
「だったらどうなんです?」
もし三里が童貞だったとして誰かに指摘されたら「そんなことない」などと言って見栄を張りたくなっていたと思う。別に悪いことじゃないくらいはわかっているが、恰好よくない気がして恥ずかしくなるからだ。
だというのに永久は淡々と頷いてきた。いや、むしろ鼻で笑われた。
「あの、何ていうか、すみません」
思わず三里は謝ってしまうくらい、堂々と言われた気がした。
「……とりあえず千代には近づかないでください」
「いやでもな? そうは言うけどよ、千代ちゃんから来たんだし。だいたい俺マジで妙な気も考えも千代ちゃんに持ってねえっつーの。それを歪んで捉えちゃってさ? お前のが邪じゃね? だいたいお前兄のくせに妹の交友関係にいちいち口出しすんの? 嫌われんぞ、そーゆーの。ウゼェしな」
さすがに「近づくな」と言われるとムッとなるため言い返すと、また舌打ちされた。永久が自分を嫌っている理由は判明したとは思うが、やはりだからといってそれを改善するには三里の社交性のなさだと難しい。対女性適応能力というか、上手くあしらう方法はむしろ三里こそ喉から手が出るほど欲しい。
永久に対しても適当に「わかった」とでも言えばよかったのだろうが、それだとまるで千代に対してよくない考えを持っていると認めているような気分にさせられて嫌だった。
「……わかりました」
「あ、マジ? わかってくれた?」
「アンタに言っても無駄ってことが」
「は? いやちょ、だって」
「俺が警戒すればいい気もしますし、アンタのことはますます嫌いですが、様子はうかがわせてもらいます」
永久は冷たく言い放つと、さっさと教室から出ていった。
何それ。
残された三里は妙な理不尽さを抱えつつ、今後さらに居たたまれない思いになる予感しかしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる