金の鈴

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2話

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 リン、と音がした。
 その日、今井 寿也(いまい としや)は一匹の猫を拾った。

「で、その猫ちゃん、息はあったのか」

 大学の食堂で昼ご飯を話ながら食べている時、一緒にいた友人の松山 奏流(まつやま かなる)が心配そうに聞き返してきた。寿也は頷く。

「うん。生きてる。ひどい怪我負ってたけど何とか無事みたい。しばらくは何度か診てもらわないとかもだけど。とりあえず連れて行った動物病院に預けてるんだ。今日の帰りに迎えに行く予定」

 今朝、大学へ行く途中に道端で黒い塊がカラスに襲われていた。何だろうとよく見ると傷だらけの猫だった。身を怯ませつつもカラスに対して必死に威嚇しているようだがすでにボロボロの状態で、抵抗も空しく襲われているようだった。寿也としてもあまりカラスに喧嘩は売りたくないが、そんな状態の猫を無視するほうが自分にとってきつい。鞄で何とかカラスを追い払うと、そのまま放置することもできずに猫を病院へ連れて行くことにした。先生にとりあえず事情を話し、また学校が終わったら来るのでと預けていた。

「俺も一緒に行っていい? その猫ちゃんが気になる」

 奏流が動物好きなことは寿也も前から知っている。寿也と同じく一人暮らしをしているのだが、猫と犬を飼っているようでたまに撮った画像や動画を見せてもらっていた。預けている黒猫はとりあえず一旦寿也が引き取ることになるものの、猫を飼ったことがないので奏流から色々教えてもらえればありがたいだろう。

「うん、そのほうが俺も助かるよ。一旦引き取るにしてもその後どうしたものかと思ってて」
「ああ、飼うかどうかってこと?」
「ううん。その子、鈴付きの首輪をしてたんだ。だから飼い猫かなって思ってて。だから飼わないよ。迷い猫のチラシでも作ろうかなとかは考えているけど、飼い主が見つかるまでは俺が預かる形になるだろ。でも俺、飼ったことないからさ」
「なるほど」
「……少し気になるのは首輪が変にボロボロだったんだよな。名前もそこに書いてあるように見えたんだけど、妙に古いのか掠れて読めなくて。あの子ちゃんと可愛がられてたのかな……いやでもカラスに襲われてる時にボロボロになったのかもだしな」
「ふぅん。にしても迷い猫ってのはかわいそうに」

 自分の猫を思い出したのか、奏流はため息をついてきた。

「とりあえず必要なものとか調達するの、悪いけど手伝ってくれないか? 何がいるとかさ、ほぼわからなくて。餌と猫のトイレくらいは浮かぶけど餌だって何がいいのかさっぱり。猫の飼い主が見つかるまで預かるわけだしな。幸い俺も一人暮らしだし住んでるマンションはペット可だし一時的に預かるのは問題ないんだけど、そういうとこがさ。……とりあえずあの子には早く元気になって欲しいな。そんで早く飼い主探してやらないとな」
「俺は構わないよ。午後の講義終わったら必要なもの用意して猫ちゃん迎えに行こうぜ」

 奏流は楽しげに笑った。



 その後、警察に念のため迷い猫の届け出をして、保健所や動物愛護管理センターなどに問い合わせもした。黒猫の写真も撮って迷い猫を預かっている旨のチラシを作り、貼れる範囲に貼った。アルバイト先やSNSなどでも協力してもらったりもした。だが数か月経っても飼い主は見つからなかった。

「すずちゃんどう? 元気?」

 家に遊びに来た奏流が撫でようとすると、すずと呼ばれた黒猫はふいっと奏流から顔を逸らして寿也の足元に来る。寿也は苦笑した。

「なあ、俺ってもしかしなくても嫌われてるよな。何で? これでも動物から好かれやすいのに。それにせっかく俺が名付け親になってやったのにさぁ」

 奏流は切なげに寿也の足元を見てくる。寿也は笑いながらすずを抱き上げた。その際にすずは可愛い声でニャーと鳴く。
 数か月待ってみても飼い主が現れなかったので、結局寿也が保護主から飼い主になることにした。いつまでも「猫」呼びはかわいそうだからと奏流が「すず」と名付けてくれた。寿也も名付けたい気持ちはあったが「すず」という名前があまりにぴったり、しっくり来るためその名前にすることにした。多分古い首輪に鈴がついていたのと、カラスに襲われているところを見つけたきっかけというのだろうか、あの時鈴の音を聞いた気がしたのもあるからかもしれない。ちなみに首輪は新しいのを買ってすずにつけた。
 すずはとても寿也に懐いてくれた。もしかしたら自分を助けてくれた人だと猫なりに判断してくれているのかもしれない。ネットで調べたら黒猫は慣れると甘えてくれるらしいが最初警戒心がとても強いとあった。現に名付け親の奏流には未だに警戒しているように見える。だが寿也には最初から懐いてくれていたのが何だか妙に嬉しい。
 数か月前までは一人暮らしだった寿也の部屋に、まさかの家族が一匹増えた。
 高校までずっと実家暮らしだった寿也は一人暮らしに憧れていたものの、実際してみると少し寂しさも感じていた。とはいえペットを飼うことは考えたことなかった。

「なのにすずと暮らすことになるなんてね」

 笑いかけるとすずが綺麗な青色のまんまるな目で見上げてきてニャーと鳴いた。
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