金の鈴

Guidepost

文字の大きさ
6 / 53

6話

しおりを挟む
 アルバイト先で寿也が鈴と仕事をしながら話していると、奏流が客として入ってきた。

「よ。がんばってる?」

 ニコニコと楽しそうな様子で、チョコレート味の棒アイスをレジへ持ってくる。

「温めますか」
「はい、……って、いやいやいやおかしいだろ。アイス温めてどうしろと。啜れってか」

 突っ込んでくる奏流を流しながらバーコードを読ませたアイスの袋にテープをはり、寿也は何気に隣のレジを見ると鈴はいつの間にかそこからいなくなっていた。どうやら陳列棚で何か作業をしているようだ。あまりにさりげなく奏流の目から逃れている鈴に、寿也は苦笑した。大人しい性格のようだから騒がしそうに見える奏流が苦手なのかもしれない。
 その鈴に気づいた奏流がアイスの袋を受け取ると「彼が浅見くん?」と聞いてきた。

「うん。めちゃくちゃいい子だよ」

 奏流には先日一緒に宅飲みした話もしていた。

「へぇ。がんばってるんだな」

 呟いた奏流の言葉に少々違和感を覚えつつも寿也は頷いた。

「うん、まだ入ってきてからそんなに経ってないけどがんばってるよ。っていうかおい。何普通に封開けてんの? アイスここで食うな」

 中身を取り出して食べようとした奏流を、寿也は「出ていけ」と追い出した。
 ちなみにすずはよく出かけるようになった。家に来たばかりだった頃はずっと引きこもってくれていたというのに少々寂しく思う。

「やっぱり猫は気ままなんだな。すず、最近よく外へ行くようになったんだ。ほんとどこ行ってるんだろね最近のお前は。気になるんだけど」

 奏流が寿也の家に来た時に言えばすずが「ニャー」と鳴いてくる。寿也はすずを仰向けにしてその腹に顔を埋めた。ふわふわしてすずの匂いがして温かい。すずは嫌がることもなくされるがままだった。顔を上げると奏流が笑いながら起き上がったすずの頭を撫でてきた。

「猫ってそういうもんだろ。なぁすずちゃん。ていうか、外で恋人とか子ども作ってたりしてねー」
「うちの子はそんな無責任なことしない」

 ムッとして奏流を睨むと「死ねばいいのに的な目で見てくんのやめて」と苦笑された。すずは頭を撫でる奏流の手を引っかくと威嚇するように「シャーッ」と鳴きながらこの場を離れていく。

「ほら、怒られた。そんなことしてないってさ。すずに謝れ」
「冗談なのに。ねえすずちゃん。……でもほんとさ、それくらい気楽に生きたほうが楽なのに……」
「何の話だよ」

 最後ぼそりと呟くように言ってきた奏流に怪訝な顔を向けると笑ってきた。

「いや、俺も気楽に生きたいなあって話」
「お前はいつだって気楽そうだけど」
「えー、そっかなあ」

 何故か照れたように笑う奏流に「別に褒めてないぞ」と寿也は呆れた顔を向けておいた。すずは珍しく出かけないようで、奏流から離れたところでしきりに奏流に撫でられた頭のあたりを舐めた手で撫でつけている。どうやら綺麗にしているらしいとわかり、寿也はつい笑ってしまった。その後すずは丸くなって眠ったかと思っていたが、時折ふと青い目で寿也たちを見ているようだった。
 まるでそんなすずのように奏流を苦手としているらしい鈴とはちょくちょく宅飲みをしたり遊びに出かけたりするようになった。出かける先は、何か面白そうな映画の話題に鈴も興味を持っているようなら誘って一緒に行くとか、気分を変えて外で飲むとか、そんな感じだろうか。

 いつものように宅飲みをしたとある翌朝、寿也が目を覚ますと鈴が初めて宅飲みをした日のように寿也の足元に丸くなって眠っていた。寿也よりも高い身長だというのに器用に丸くなっている。もしやこれが鈴の睡眠スタイルなのかとつい思ってしまう。癒されつつも変な寝方だなと寿也は苦笑した。寝苦しくないのだろうか。
 布団を被せ直しながら、寝苦しいと言えば変な夢を見たなと寿也は思い出した。
 鈴が泣いている夢だ。何故泣いているのか全然わからなくて、寿也は身動きもできずただ見ていた。だが見ている内に自分まで悲しくなってきた。
 そもそも何故自分は身動きができなかったのかもわからない。ただわかるのは、夢の中で自分はこの光景を以前どこかで見たことがある気がしたということだ。
 もちろんそんなはずはない。鈴が泣いているところなど夢以外で見たことはなかった。
 とにかく不思議な夢だった。そして寝苦しいわけではないが、悲しんでいる鈴を見て自分も悲しかったからだろうか。体がというよりは妙に心が苦しかった。
 そんな夢を見たからか、アルバイト先でも鈴がどうも視界に入ってくる。気になるというか、何が気になるというわけでもないのだが、視界に入る。なんだろうか、泣いてないか気にしているのだろうか。それこそ、そんなはずはないというのに。
 それを大学で奏流に言えば「夢じゃなかったりしてねー」などと返してくる。

「俺、わりと真面目に話したのに。そりゃまあ答えようのない内容だろうけど。だいたい夢じゃないってどういう意味だよ」

 寿也が聞き返しても奏流は笑っているだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜

草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、 毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。 ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。 「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると…… 生えてきたのは植物ではなく、人間!? 咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。 人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、 家族、別れ、再生。 ほんのり不思議で、少しだけ怖く、 それでも最後には、どこかあたたかい。 人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。 あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか? またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...