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10話
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あと数日もしたら寿也は「ジッカ」というところへ帰るらしい。この間「その時はすずも一緒に帰ろうね」と言いながら教えてくれた。よくわからないが、寿也と一緒に行くなら当然喜んでついていくので「ニャー」と返事すればニコニコしながら頭や背中を撫でてくれた。速攻で喉が鳴った。
「実家っていうのはその人間が生まれ育ったところや家だよ」
そわそわしたので近所に住んでいる白猫の「ユキ」に話せば教えてくれた。ユキは最近、と言ってもここ百年ほど前らしいが中国からやってきた化け猫だ。すずと違い、はっきり言って存在そのものは怖い。だが親しくなったすずには優しい。そして最近の人間のこともよく知っている。
中国ではその昔まだ普通の猫だった頃に妹妹(メイメイ)と呼ばれていたそうだが、教えてくれた時に「皮肉でしかない」と鼻で笑っていた。だからメイメイとは呼ばず、すずもユキと呼んでいる。たまに冗談でユキ姐(ユキジェ)と呼ぶこともある。ユキの出身地の言葉で「ユキ姉さん」と親しい目上の女性に対しての呼び方だと知ってから使ったりしているが、基本はユキと呼び捨てにさせてもらっている。ちなみに妹妹は猫の名前以外に小さくて可愛い女の子にも使うのだと聞いた。
ユキは初めて日本に来た時飼ってくれた主人がつけてくれた名前だそうで、その後主人が変わっても妖力を使ってユキとつけさせているらしい。日本での初めての主人に対して名前で敬意を払っていると以前ユキは言っていた。それくらいで、後はどの主に対しても特に執着していないようだ。莉津子に執着しているすずのほうが珍しいのかもしれないが、猫は拗らせたらそういうものでもあるとすずは自負している。
もちろん性格は人間と同じで多種多様だ。すずのようにずっと執着している猫もいればユキのように人間に拘らない猫もいる。また、元の飼い主に恩返しをするような穏やかな猫又もいれば、恨みに恨んで仕返しする狂暴な猫又もいる。
莉津子がいた時代では猫を可愛い存在として愛でるだけでなく、一方で死者にまつわる存在だとも言われていた。おそらく肉食である猫は腐臭を嗅ぎわける能力に長けており、死体に近づく習性もあったからかもしれない。そのため、死体を奪う妖怪などと同一視されることもあったようだ。
ところで実際に存在は怖いユキは日本の猫ではないので猫又でもない。猫鬼(びょうき)という化け猫だ。
中国では元々白い猫は容易に人を騙す能力に長けた魔物になりやすいと言われていたようだ。日本の黒猫のようなものだろうか。すずのような黒猫は本来日本では幸運の象徴だと言われていたが、ヨーロッパなどでは魔女の使いなどと不吉の象徴のように言われていたらしい。その影響でか、日本でも今では黒猫は不吉だと一部で思われてしまっている。
そして猫鬼は猫又のようにそこそこ存在するわけではない。何らかの心残りなどがあって長生きした猫が猫又になることが多いのに対し、猫鬼は呪いの媒体として人間によって作られた存在だからだろうか。
複数の生き物を閉じ込め共食いさせ、生き残った一匹を使う呪法である蠱毒の一種であるとも言われている。同じように数匹の猫を一つのカメに閉じ込めて餌を与えずに共食いさせる。生き残った一匹を首だけ出して地面に埋めるのだそうだ。そして目の前に餌を置き、届かず食べられない餌を求めてもがく猫の首を切り落とし、その首を呪いたい相手の家の地面に埋める。そうすると猫の怨念が猫鬼となってその家の人間を呪い殺すのだという。
「むしろ呪うならその呪法をした本人を呪いたいよね、そんなの」
話を聞いてドン引きするすずに、ユキはさらりと言っていた。実際ユキはそのようにして作られたのではないようだ。もう一つ、猫鬼を作るやり方があるらしい。
一歳前後で亡くなった赤子の遺体が眠る墓に、術者は飼い慣らしている猫を抱いて赴く。そして遺体を掘り起こし、陰陽師の禹歩とは違う中国独自の呪術的歩行を行いながら呪文を唱え、遺体の首を切り落とすのだそうだ。その首を猫の腹に埋め込み、さらに呪文を唱えることでその猫は人面猫となり蘇る。蘇った猫は術者の命令に絶対服従する存在となるのだそうだ。
「じゃ、じゃあユキのお腹には赤子の首が入ってるのか?」
黒い顔を真っ青にしながらすずが聞けばユキはおかしそうに笑っただけだった。だから結局のところそれが本当なのかどうかすらわかっていない。すずを怖がらせようとしてユキが話してきた冗談かもしれないし、もし本当なのだとしても、では絶対服従の術者はどうしたのかといったこともわからない。
「寿也の生まれ育ったところか。それはオレも行ってみたいな。余計楽しみになってきた」
「ふふ。でも結構田舎なんだろう?」
「知らないけど、ここから遠いし周り山だよって言ってた。山には阿保狐のせいであまりいい記憶しかないけど寿也と一緒なら楽しみ」
「そういうとこには土地神とか面倒なものがいるかもだね。気をつけなよ」
「……またユキ姐が怖がらせようとしてるんだろ?」
ユキの言葉により、あまりいい記憶しかない原因とも言える存在が頭に過る。
「さあ、どうだかね。お土産は生きた鶏でいいよ」
「無理だよ……」
「冗談だよ」
「もう、ユキはそんな冗談ばっかり……」
「死にたての人間でいい」
「だから……!」
すずを見ながら、ユキは楽しそうに笑ってきた。
「実家っていうのはその人間が生まれ育ったところや家だよ」
そわそわしたので近所に住んでいる白猫の「ユキ」に話せば教えてくれた。ユキは最近、と言ってもここ百年ほど前らしいが中国からやってきた化け猫だ。すずと違い、はっきり言って存在そのものは怖い。だが親しくなったすずには優しい。そして最近の人間のこともよく知っている。
中国ではその昔まだ普通の猫だった頃に妹妹(メイメイ)と呼ばれていたそうだが、教えてくれた時に「皮肉でしかない」と鼻で笑っていた。だからメイメイとは呼ばず、すずもユキと呼んでいる。たまに冗談でユキ姐(ユキジェ)と呼ぶこともある。ユキの出身地の言葉で「ユキ姉さん」と親しい目上の女性に対しての呼び方だと知ってから使ったりしているが、基本はユキと呼び捨てにさせてもらっている。ちなみに妹妹は猫の名前以外に小さくて可愛い女の子にも使うのだと聞いた。
ユキは初めて日本に来た時飼ってくれた主人がつけてくれた名前だそうで、その後主人が変わっても妖力を使ってユキとつけさせているらしい。日本での初めての主人に対して名前で敬意を払っていると以前ユキは言っていた。それくらいで、後はどの主に対しても特に執着していないようだ。莉津子に執着しているすずのほうが珍しいのかもしれないが、猫は拗らせたらそういうものでもあるとすずは自負している。
もちろん性格は人間と同じで多種多様だ。すずのようにずっと執着している猫もいればユキのように人間に拘らない猫もいる。また、元の飼い主に恩返しをするような穏やかな猫又もいれば、恨みに恨んで仕返しする狂暴な猫又もいる。
莉津子がいた時代では猫を可愛い存在として愛でるだけでなく、一方で死者にまつわる存在だとも言われていた。おそらく肉食である猫は腐臭を嗅ぎわける能力に長けており、死体に近づく習性もあったからかもしれない。そのため、死体を奪う妖怪などと同一視されることもあったようだ。
ところで実際に存在は怖いユキは日本の猫ではないので猫又でもない。猫鬼(びょうき)という化け猫だ。
中国では元々白い猫は容易に人を騙す能力に長けた魔物になりやすいと言われていたようだ。日本の黒猫のようなものだろうか。すずのような黒猫は本来日本では幸運の象徴だと言われていたが、ヨーロッパなどでは魔女の使いなどと不吉の象徴のように言われていたらしい。その影響でか、日本でも今では黒猫は不吉だと一部で思われてしまっている。
そして猫鬼は猫又のようにそこそこ存在するわけではない。何らかの心残りなどがあって長生きした猫が猫又になることが多いのに対し、猫鬼は呪いの媒体として人間によって作られた存在だからだろうか。
複数の生き物を閉じ込め共食いさせ、生き残った一匹を使う呪法である蠱毒の一種であるとも言われている。同じように数匹の猫を一つのカメに閉じ込めて餌を与えずに共食いさせる。生き残った一匹を首だけ出して地面に埋めるのだそうだ。そして目の前に餌を置き、届かず食べられない餌を求めてもがく猫の首を切り落とし、その首を呪いたい相手の家の地面に埋める。そうすると猫の怨念が猫鬼となってその家の人間を呪い殺すのだという。
「むしろ呪うならその呪法をした本人を呪いたいよね、そんなの」
話を聞いてドン引きするすずに、ユキはさらりと言っていた。実際ユキはそのようにして作られたのではないようだ。もう一つ、猫鬼を作るやり方があるらしい。
一歳前後で亡くなった赤子の遺体が眠る墓に、術者は飼い慣らしている猫を抱いて赴く。そして遺体を掘り起こし、陰陽師の禹歩とは違う中国独自の呪術的歩行を行いながら呪文を唱え、遺体の首を切り落とすのだそうだ。その首を猫の腹に埋め込み、さらに呪文を唱えることでその猫は人面猫となり蘇る。蘇った猫は術者の命令に絶対服従する存在となるのだそうだ。
「じゃ、じゃあユキのお腹には赤子の首が入ってるのか?」
黒い顔を真っ青にしながらすずが聞けばユキはおかしそうに笑っただけだった。だから結局のところそれが本当なのかどうかすらわかっていない。すずを怖がらせようとしてユキが話してきた冗談かもしれないし、もし本当なのだとしても、では絶対服従の術者はどうしたのかといったこともわからない。
「寿也の生まれ育ったところか。それはオレも行ってみたいな。余計楽しみになってきた」
「ふふ。でも結構田舎なんだろう?」
「知らないけど、ここから遠いし周り山だよって言ってた。山には阿保狐のせいであまりいい記憶しかないけど寿也と一緒なら楽しみ」
「そういうとこには土地神とか面倒なものがいるかもだね。気をつけなよ」
「……またユキ姐が怖がらせようとしてるんだろ?」
ユキの言葉により、あまりいい記憶しかない原因とも言える存在が頭に過る。
「さあ、どうだかね。お土産は生きた鶏でいいよ」
「無理だよ……」
「冗談だよ」
「もう、ユキはそんな冗談ばっかり……」
「死にたての人間でいい」
「だから……!」
すずを見ながら、ユキは楽しそうに笑ってきた。
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