金の鈴

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11話

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 延々と狭い移動用ゲージの中ですずは緩やかに揺られていた。前回莉津子の魂に出会ったのはいつだったかはっきり覚えていないがそこそこ前だったのもあり、電車という乗り物に今初めて乗っている。
 最初は好奇心でドキドキしていたが次第に慣れてきて、はっきり言って退屈だ。寿也が膝に乗せて抱えてくれているおかげで窓の外も一応見えるが、移動速度が驚くほど速すぎてゆっくり堪能するどころではない。あれは何だと思った瞬間にそれはもう視界からなくなっているのだ。ただ、空を見上げるとずっと変わらず薄い水色のままだ。空を見上げて時間をつぶしてもいいかもしれない。
 こんなことならいっそ鈴はすずだと正体をばらしていたらよかっただろうか。受け入れてもらえるかどうかわからないが、もし受け入れてもらえていたら今も人間の姿で寿也と会話しながら風景や電車内を楽しめたかもしれないのにとつい思ってしまう。人間の姿なら一緒に食事だって楽しめただろう。すずを大事にしてくれているからか、寿也は人間の食べ物を基本的にすずには与えてくれない。先ほども弁当を食べていた寿也は、移動用ゲージの中にはドライフードを入れてくれていた。

「オレは猫又だから人間の食べ物も体、壊さないよ。大丈夫だから一緒にお弁当食べたい」

 そう言ってもニャーとしか聞こえないのだろう。ニコニコしながら「いい子だからなるべく静かにね」と言われただけだった。もちろん静かにしながらドライフードは完食した。
 退屈だが、こういう時間も考え方によっては悪くないのかもしれない。と思うことにした。どうせなら直接寿也の膝の上に乗りたいが、ゲージに阻まれつつも寿也のそばで一緒に揺られている。最初は煩いなと思っていた電車の音も慣れてきたら何だか単調で心地良い。揺れに合っているからだろうか。気づけばすずは夢の中だった。

「着いたよ」

 寿也の声でハッと目を覚ました時には既にどんな夢を見ていたのかほぼ覚えていない。だが断片的に覚えている内容はあまり楽しいものではなかった。山と聞くといい記憶がない原因となった相手が出てきた気がする。
 いつのことだったか、何度目の莉津子の魂だったか。多分人間の世界では明治だか大正だか言われていた時代だったとは思う。今から思えば、莉津子のいた文政の時代から大きく変わった時代ではあっただろうか。どこぞの山から珍しく出てきたというろくでもないあやかしに多少関わったことがある。本来の姿だと伸びて二つに分かれるすずの尻尾を見て笑ってきた九尾狐野郎だ。よくからかわれた。本人曰く「俺は山の神だからね、もっと敬意示してくれていいんだよ」らしいが、あんな軽い神などあってたまるかと思った記憶しかない。だいたいもし本当に山の神ならその山から離れるなと言いたい。
 ちなみに気に食わない奏流も基本的に軽いタイプだし、多分すずはそういう生き物との相性が最悪なのだと思う。ユキのように頼れる系の落ち着いた格好がいいあやかしが好きだ。ユキも時折怖い話ですずを多分からかってくるが、あの狐や奏流のような苛つく軽さがないところが大きい。あとユキは怖いけれどもキリッとした顔立ちのお姉さんで、とても綺麗だ。目の色もそれぞれ違って美しく、それを本人に言えば「オッドアイって言うんだよ」と教えてくれた。
 ゲージの中でため息をつき、着いたのなら早くゲージから出して寿也に癒されたいと思いつつ、すずは何気に風景を見た。
 山だ。すごく、山だ。
 ほぼ山しかない気がする。莉津子の頃からあの辺りをほぼ出たことのないすずからしたら、山は相当遠いところに薄っすらと見えるものというイメージしかなかった。山だらけの風景は初めて見る。大きな木の塊たちにすごいなと純粋に見惚れつつも、すずの中でもやもやとしたものが感じられた。

「寿也、オレね、何だか嫌な予感しかしないんだけど」
「うんうん、ゲージの中は嫌だよね。でももう少し待ってね。今からバスに乗って俺の家に向かうからね」

 相変わらず通じてない上に、どうやらまだ何かに乗るらしい。別に乗り物が嫌いではないが、今日はもう十二分に乗った気がする。とはいえ仕方がないのですずは大人しくしていた。ただ、どんどんもやもやとしたものが広がっていく。猫のシックスセンスとでも言うのだろうか。嫌な予感しかしない。

「……でも別に寿也に何か悪いことが起きるとかそういう感じじゃないしなあ。一応警戒しておけばいいか。きっとさっき見た夢のせいだ」

 内容はほぼ覚えていないが、どこぞの山の神だとのたまう性格の悪い阿保狐の夢を見たせいだろう。その上来てみれば「周り山だよ」どころか山しかない。だからきっと落ち着かないのだろう。
 気のせいだ、気のせいだと自分に言い聞かせた。
 バスを降りてからも少し寿也は歩いたが、その後ようやく着いたらしい。知らない匂いの家で、すずはゲージから出してもらえた。

「す、すず? 知らないとこだから緊張してるのかな……毛が逆立ってる」
「知らないとこだけど寿也がいるから大丈夫。毛が逆立つのは違う意味でだよ」

 伝わらないとわかっていても言い返し、すずは気を張り巡らせた。
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