金の鈴

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12話

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 しばらく警戒していたが、特に何も起きなかった。ただの気のせいというか考えすぎだったのだろうか。
 ようやく気持ちを落ち着かせると、すずは知らない匂いの家を探ることにした。辺りを探りながら歩く。最初に思ったのは、静かなところだなということだ。すずや寿也が住んでいる場所はいつも何らかの音が聞こえている。車のクラクション音やサイレンの音、人の声や物が落ちたり何かする音。だがここはシンとしている。すずの耳には風に揺れる木の葉などの音が聞こえてはくるが、それくらいだろうか。
 家の中は広かった。寿也の家は一つの部屋にあとは風呂や便所、調理する場所のくっついた廊下があるくらいだが、ここはたくさんの部屋がある。しかもあらゆるところに入り込める隙間がある。少し楽しくなってきた。
 そろそろ階段も上ってみようかとすずが思ったところで、だが邪魔が入った。

「わあ、てげ可愛いっちゃが!」

 そんな声がしたかと思うとすずは簡単に背後から抱き上げられてしまった。寿也以外に背後を許すなどと、家の様子に夢中で油断していたようだ。おもわず「ギニャッ」と変な声が出たが、すずを抱き上げた者はおかまいなしにすずを抱っこしたまま「お兄ちゃん、お兄ちゃん帰ってきちょるんやろ? どこっ」などと騒がしい。静かなのは幻だったようだ。

「寿花。ここだよ。久しぶりだな」
「そうっちゃよ。全然帰ってこんからもぅ。で、この子、何?」
「俺が飼ってる子。すずって言うんだ」
「お兄ちゃんが? わあ、すずって言うんやなあ? 私と似てる! 私のすずか、から取ったの?」
「まさか。俺の友だちがつけてくれたんだ」
「何や、そっかぁ。でもそっくりやかぃ、運命感じる」

 オレは感じてないぞ。

 寿花と呼ばれた者が寿也の元へ走ったことで一旦すずも大人しくしていたがハッとなり、もがいてようやく寿花の手から逃れた。

「あ、逃げてしもうた」
「猫に無理やり何かしちゃ駄目だよ寿花」
「えー。だって可愛いっちゃ」

 寿也の言葉に対して、だって可愛い?
 文法としておかしくないか?

 人間の言葉に対してすずは微妙になりながら寿也の背後へ隠れた。

「わあ、その子お兄ちゃんに懐いちょる」
「うん、まあ」

 苦笑しながら、今度は寿也が「ごめんね、すず」とすずを抱き上げてきた。とはいえ相手は寿也だ。抵抗する理由がないのですずは大人しく抱かれるがままでいる。

「何でお兄ちゃんが抱っこするとすずは大人しいん」

 当たり前だろう、とすずは改めて目線が近い状態で寿花を見た。お兄ちゃんと呼んでいるということはおそらく寿也の妹なのだろう。そういえば人間の顔はわからないながらもどことなく雰囲気は似ているかもしれない。だが魂が全然違うからか、寿花には当然ながら莉津子の面影はない。

「すず。この子は俺の妹。今中学一年生だよ」
「寿也の妹なら多少仲良くしてもいいけど、この子ちょっと煩いよ」

 そう返事はしたが、単に「ニャー」としか聞こえていないのはわかっている。わかっているが、寿也となら会話が成立しなくても会話したい。

「ねーねー、お兄ちゃん。私、今日この子と寝たい」
「嫌だよ」

 寿也が返事する前に返事しながらすずは「シャーッ」と威嚇しておいた。

「え、怒ってる?」
「すずはわりと人見知りするみたいなんだ。俺の友だちにも懐かないんだよな。まあ、一緒に寝るのは諦めたほうがいいかも。じゃないと引っかかれるかもだよ」
「えー。そんなぁ。じゃあ一緒にお風呂入るのは?」
「猫は風呂、入らないよ」
「えー」

 妹と話している寿也は苦笑しながらも楽しそうだ。きっと久しぶりの家族だからなのだろう。すずは気をきかせることにした。寿也の腕からも下りる。

「あ、どっか行ってしまうよ」
「大丈夫だよ」

 そう、大丈夫だよ寿也。オレは普通の猫じゃないからね。

 そう言い残すと、すずは家の探索をまた続けた。家の中をそれなりに把握すると、今度は家の周りを見る。時折少し離れたところから動物の気配を感じる。多分すずのようなペットというより家畜だろうか。そちらのほうへも行ってみたいが、あまり離れると寿也が心配するかもしれない。どうしようかなと思っていると、ようやく消えていた嫌なもやもやしたものがまたずずの中で広がってきた。しかも先ほどは気のせいで済んだが、今度は実際に肌で感じる。間違いなく気のせいではない。
 思い切り警戒して辺りの様子を探っていると「俺のこと、感じ取ってんの?」という声とともに、嫌な気配が近づいてきた。ますます警戒を強める。

「ちょっとちょっと。警戒し過ぎだろ。ここはむしろ歓迎するとこじゃないの」
「阿保狐……」

 今にも牙をむいてやるといった様子ですずは絞り出すように呟く。すずの目の前には光っているせいで金色とも銀色ともつかない毛色をした狐が現れた。尻尾が九つに分かれている。

「おいおい、聞こえたぞ。阿保狐とはひどいな。山の神だよ俺? もっと敬意を払うべきだろ」
「煩い阿保狐。何しに来た」
「やだなあ。何しに来たも何も、俺、ここの山の神」

 嫌な予感はやはり当たるらしい。

「……っち」
「今、神様に舌打ちした?」
「煩い。大体いつも思うことだけど山の神なら山から離れんな! 今もわざわざ下りてきただろ……」
「楽しそうな気配したから下りよって思って」

 軽い。

 すずはイライラと狐を見た。
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