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13話
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別に何か明確にひどいことをされた訳ではない。ただ昔出会った時に阿保狐は顔を見せるたびにすずをからかってきた。それが結構忌々しかったため、すずは未だに目の前の狐が嫌いだ。
「っていうかもうずいぶん前の話じゃないか」
「オレよりずっと長生きしてるだろお前。ずいぶん前なんて感覚じゃないくせに。だいたいオレは明確に覚えてる」
「あーヤダヤダ。これだから猫は人間から執念深いなんて言われるんだろ」
「別にオレは言われてない」
実際動物は自分の身を守るため様々な能力を持っている。猫もそうだ。その中に「記憶力が高い」という能力もある。犬などに比べて記憶中枢が発達している猫は長期にわたって色んな記憶を覚えていられる。要は危険回避するために記憶にある場所や存在を長く覚えておくことで身を守るのだ。敵に出会った、楽に獲物を仕留められたといった場所などを匂いや風景を覚えることで自分が生き残る要素を高める。先ほどのように知らない場所でも匂いをかいだりして把握しようとするのもそのためだ。
「言われていないって誰から? ああ、お前の大事な人からか」
九尾狐がニヤリと笑った。途端、すずは全身の毛を逆立てた。
「おっと、何でそんな警戒するかなあ。記憶いいなら覚えてるだろ? 俺、お前に対してひどいこと、実際はしたことないって」
「でもお前が性格の悪い阿保狐だとも覚えてる」
「散々な言われようだなあ。ていうか、お前、最初俺に会った時からツンケンしてたよ? 何? ツンデレなの?」
「つん……? 何言ってんのかわからないけど、そもそも猫と狐はこんなもんだろ」
狐は犬系だ。元々一緒に育ったとかならまだしも、一般的に合うはずがない。それに性格云々を置いておいたとして何が腹立たしいかというと、目がいいことだ。聴覚や嗅覚は猫も負けていないが、視覚はあまりよくないようだ。猫のままだったならば特に気づいていなかったが、人間のような色の判別などがどうやらできていないことに人間の姿になれてから知った。だが狐は色の判別すらできるらしい。どういうことかというと、同じように猫や狐の姿のままであってもすずはあまり色鮮やかに寿也を見ることができないというのに阿保狐はできるということだ。何よりも忌々しい。
「お前らのことは捕食対象にしてないのに何がそんなに気に食わないんだろうな」
「どのみち狐がってより、お前の場合は主に性格が気に食わない」
「俺、いい子なのに」
「……」
心底あり得ないという顔で見れば何故か笑われた。
「猫と似てるとこもあんだろ、狐。むしろ犬より似てる。群れないとことか。お互い単独行動だろ。あ、ほら、木登りだってできるし? ジャンプ力だってある。夜行性ってとこもだよな。見た目で言うなら明るいとこでは縦長の瞳孔になるとことか舌がざらざらしてるとことか。ああそうそう、髭でバランスを取ってるとことかさあ。まあ、頭は断然狐のがいいけどな」
「そういうとこだよ……!」
忌々しげに言い放つとすずは無視して歩き出そうとした。だがそれを阻んでくる。
「っていうかお前、俺の名前覚えてる?」
「覚えてない」
「えー、うっそだあ。執念深いんだから絶対覚えてるだろ」
「そこは記憶力がいいって言え」
実際、覚えている。鳴宮 九郎(なるみや くろう)と昔、名乗っていた。狐の分際で人間のように名字を名乗ってきてウザいなと思ったことすら覚えている。
「ほら、その顔は覚えてる顔だ」
「……ウザい」
「いやぁ、ほんとお前、山の神に対していい性格してるな」
「そういうお前は山の神とは思えないほど軽くて阿保だよ」
「ふーん? そういうこと言う? まあいいけどな。俺はいい子だからお前の暴言も無視してやるよ、祟らずに」
「これくらいで祟られてたまるか」
「まあさあ、せっかくの再会だ。俺の家へおいでよ。酒と美味いサカナでパーリィナイトだ」
「お前ほんっと山の神なの……。あと行かないからな」
ドン引きしながら睨みつけるも、九郎は気にすることもなく続けてくる。
「ここからすぐの山のさ、上のほうに大きな御神木が特徴の神社があるんだ。そこが俺の家、鳴宮神社。どうだ、すごいだろ?」
この阿保狐は本当に山の神なのか、とすずはさらにドン引きしながら内心驚いていた。まさか本当に神社の狐とは思っていなかった。だが余計に阿保狐だ、とも思う。九つも尾を持つ上に山の神なのだとしたら相当能力の高い存在なのだろうに、どこをどう見てもひたすら軽い。いくら頭がいいのだとしてもすずからしたらただの阿保でしかない。
すずはやはり無視して歩き出す。
「おいおい。つか御神木の由来とか気になんねえの? 大きな木だぞ。大抵威厳のある神社とかには絶対あんだろ、大きな木」
それこそせめて口調くらい威厳を保てないのかと呆れつつ、やはり無視して歩き続ける。
「昔大木に雷が直撃してな、でもその木は落雷しても無事だっただけでなく、たまたまそこにいた神主を守って……ちょ、聞いてる?」
「いいから山守ってろ」
「俺の分身が守ってるから問題ない。ああそうだ。せっかく旧友に会ったんだ。ちょっと旧友が世話になっている主人にも挨拶しておこう」
九郎の言葉に即、すずの足は止まった。
「は? 会うな」
「何で」
「会わせたくないから」
「なるほど。よし、会おう」
「この阿保狐……! つかオレの主人はオレの正体とか知らないんだぞ」
「なるほど。まあ人間に率先して正体バラすあやかしなんて多くないだろうな。よしわかった、安心しろ、おすず」
「そういう呼び方をするなと百年くらい前にも言ったはずだ。とはいえ、珍しいな、お前が配慮してくれるなん……」
「ちゃんと人間に化けて会ってやるよ」
ニヤリと笑うと九郎は一旦姿を消した。
「っていうかもうずいぶん前の話じゃないか」
「オレよりずっと長生きしてるだろお前。ずいぶん前なんて感覚じゃないくせに。だいたいオレは明確に覚えてる」
「あーヤダヤダ。これだから猫は人間から執念深いなんて言われるんだろ」
「別にオレは言われてない」
実際動物は自分の身を守るため様々な能力を持っている。猫もそうだ。その中に「記憶力が高い」という能力もある。犬などに比べて記憶中枢が発達している猫は長期にわたって色んな記憶を覚えていられる。要は危険回避するために記憶にある場所や存在を長く覚えておくことで身を守るのだ。敵に出会った、楽に獲物を仕留められたといった場所などを匂いや風景を覚えることで自分が生き残る要素を高める。先ほどのように知らない場所でも匂いをかいだりして把握しようとするのもそのためだ。
「言われていないって誰から? ああ、お前の大事な人からか」
九尾狐がニヤリと笑った。途端、すずは全身の毛を逆立てた。
「おっと、何でそんな警戒するかなあ。記憶いいなら覚えてるだろ? 俺、お前に対してひどいこと、実際はしたことないって」
「でもお前が性格の悪い阿保狐だとも覚えてる」
「散々な言われようだなあ。ていうか、お前、最初俺に会った時からツンケンしてたよ? 何? ツンデレなの?」
「つん……? 何言ってんのかわからないけど、そもそも猫と狐はこんなもんだろ」
狐は犬系だ。元々一緒に育ったとかならまだしも、一般的に合うはずがない。それに性格云々を置いておいたとして何が腹立たしいかというと、目がいいことだ。聴覚や嗅覚は猫も負けていないが、視覚はあまりよくないようだ。猫のままだったならば特に気づいていなかったが、人間のような色の判別などがどうやらできていないことに人間の姿になれてから知った。だが狐は色の判別すらできるらしい。どういうことかというと、同じように猫や狐の姿のままであってもすずはあまり色鮮やかに寿也を見ることができないというのに阿保狐はできるということだ。何よりも忌々しい。
「お前らのことは捕食対象にしてないのに何がそんなに気に食わないんだろうな」
「どのみち狐がってより、お前の場合は主に性格が気に食わない」
「俺、いい子なのに」
「……」
心底あり得ないという顔で見れば何故か笑われた。
「猫と似てるとこもあんだろ、狐。むしろ犬より似てる。群れないとことか。お互い単独行動だろ。あ、ほら、木登りだってできるし? ジャンプ力だってある。夜行性ってとこもだよな。見た目で言うなら明るいとこでは縦長の瞳孔になるとことか舌がざらざらしてるとことか。ああそうそう、髭でバランスを取ってるとことかさあ。まあ、頭は断然狐のがいいけどな」
「そういうとこだよ……!」
忌々しげに言い放つとすずは無視して歩き出そうとした。だがそれを阻んでくる。
「っていうかお前、俺の名前覚えてる?」
「覚えてない」
「えー、うっそだあ。執念深いんだから絶対覚えてるだろ」
「そこは記憶力がいいって言え」
実際、覚えている。鳴宮 九郎(なるみや くろう)と昔、名乗っていた。狐の分際で人間のように名字を名乗ってきてウザいなと思ったことすら覚えている。
「ほら、その顔は覚えてる顔だ」
「……ウザい」
「いやぁ、ほんとお前、山の神に対していい性格してるな」
「そういうお前は山の神とは思えないほど軽くて阿保だよ」
「ふーん? そういうこと言う? まあいいけどな。俺はいい子だからお前の暴言も無視してやるよ、祟らずに」
「これくらいで祟られてたまるか」
「まあさあ、せっかくの再会だ。俺の家へおいでよ。酒と美味いサカナでパーリィナイトだ」
「お前ほんっと山の神なの……。あと行かないからな」
ドン引きしながら睨みつけるも、九郎は気にすることもなく続けてくる。
「ここからすぐの山のさ、上のほうに大きな御神木が特徴の神社があるんだ。そこが俺の家、鳴宮神社。どうだ、すごいだろ?」
この阿保狐は本当に山の神なのか、とすずはさらにドン引きしながら内心驚いていた。まさか本当に神社の狐とは思っていなかった。だが余計に阿保狐だ、とも思う。九つも尾を持つ上に山の神なのだとしたら相当能力の高い存在なのだろうに、どこをどう見てもひたすら軽い。いくら頭がいいのだとしてもすずからしたらただの阿保でしかない。
すずはやはり無視して歩き出す。
「おいおい。つか御神木の由来とか気になんねえの? 大きな木だぞ。大抵威厳のある神社とかには絶対あんだろ、大きな木」
それこそせめて口調くらい威厳を保てないのかと呆れつつ、やはり無視して歩き続ける。
「昔大木に雷が直撃してな、でもその木は落雷しても無事だっただけでなく、たまたまそこにいた神主を守って……ちょ、聞いてる?」
「いいから山守ってろ」
「俺の分身が守ってるから問題ない。ああそうだ。せっかく旧友に会ったんだ。ちょっと旧友が世話になっている主人にも挨拶しておこう」
九郎の言葉に即、すずの足は止まった。
「は? 会うな」
「何で」
「会わせたくないから」
「なるほど。よし、会おう」
「この阿保狐……! つかオレの主人はオレの正体とか知らないんだぞ」
「なるほど。まあ人間に率先して正体バラすあやかしなんて多くないだろうな。よしわかった、安心しろ、おすず」
「そういう呼び方をするなと百年くらい前にも言ったはずだ。とはいえ、珍しいな、お前が配慮してくれるなん……」
「ちゃんと人間に化けて会ってやるよ」
ニヤリと笑うと九郎は一旦姿を消した。
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