金の鈴

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14話

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 またすずがどこかへ行ってしまったと、家の中を探していた寿也は外へ出た。
 普段の様子を見ていて、出かけても怪我せずいつも元気に帰ってくるすずに最近はようやくあまり心配することもなくなってきたが、やはり初めて連れてきた場所だけに家の中にいないとなると気になってしまう。
 とはいえこの辺は車も滅多に走っていないし猫にとっては普段住んでいる場所より安全なのかもしれない。人間と違って匂いなどで道に迷うことも多分ないだろう。だから本気で心配して探しているわけではないが、どのみち今特にすることもないので久しぶりに帰ってきての散歩がてら、だろうか。
 ただ、少し歩いたところで「まさかこのままこの山入ってないよな」と何となく思う。自分に懐いてくれているので帰ってこないなんてことはないと思うが、猫に時間の概念があるかどうかわからないのもあり、もし山に入り込んでいたらいつ戻ってくるやらと少し気になった。あと車の心配はなくても山なら猪などに出くわしたら大変だ。

「……そういえばこの先に神社あったっけ」

 すずを探すがてら参拝していってもいいかもしれないと思い、寿也はそのまま上へ登っていった。黒猫だから見つけにくいかもしれないが、すずの首輪には鈴がついている。元々の首輪についていたのもあり、新しく買った首輪も鈴がついているものを選んでいた。普段ならそれでも音に気づかないこともあるが、こんな中ならきっと近くにいれば鈴の音に気づくような気がする。
 だが神社に着いた時点ですずがいた様子はなかった。もしかしたら山には入っていないのかもしれない。

「むしろもう家に戻ってたりして……まあ、いいか。お参りして帰ろ」

 鳴宮神社は稲荷神社だ。稲荷神社は赤い鳥居と狛狐が特徴的な印象だが、ここの鳥居は白い。何でも元々昔いた神様は別の神様だったが、その後その神や神主に可愛がられていた野狐が年月を経て気狐、仙狐、天狐となっていき、神格化して稲荷神社となったからだと寿也は小さな頃祖母から聞いた。それもあり、主なご利益は五穀豊穣や商売繫盛だが、家内安全や学業成就、縁結びなどたくさんの願いを叶えてくれる身近な神様なのらしい。

 学業や縁結び、か。大学は今のところ問題ないし、恋人……はまあ、できたらいいなとは思うけど友だちと遊ぶのでも十分楽しいしな。家内安全かなあ。親や妹が元気でありますように、と、すずだな。すずが怪我しないで健康でありますように。

 賽銭して手を合わせ、寿也はそんなことを考え、願った。
 寿也が山を下りて家へ戻る途中、見知らぬ女性が不安そうにあたりを見回しながら歩いているところへ出くわした。荷物は大してなさそうだが、様子からして道に迷ったか何かだろうか。

「あの、どうかされましたか」

 さすがに無視するわけにもいかず、声をかけると女性はホッとしたように寿也を見上げてくる。その時初めて気づいたが、こんな田舎にいるのが違和感なほどとても綺麗な人だった。一瞬、芸能人かモデルが撮影に来て道に迷ったのかとさえ思った。

「その、役所へ行こうと思っていたんですが……気づけば木、ばかりになってて……」

 役所は反対側だ。初めて来たのだとしても結構な方向音痴なのかもしれない。

「ここと逆ですよ……」
「えっ」

 女性はこの世の終わりといった表情をした。ただでさえ綺麗な人だというのにそんな顔をされたら放っておけるはずもなかった。



「ただいまー」

 実家に戻ると誰かが顔を出すよりも早く、すずが飛び出してきた。

「すず。戻ってたんだな」

 戻っているとは思っていたが、実際こうして抱き上げると安心する。

「よしよし。……ってどうしたんだよ。何かえらい鳴いてるな。慣れない場所で寂しかったのか?」

 すずは普段大人しいほうだ。まるで会話するかのように寿也の言葉に「ニャー」と鳴き返してくれることはあるが、基本的に大人しい。だが今のすずは何かあったのかというくらい鳴いていた。とはいえ暴れるわけでもなく喉もゴロゴロ鳴っているので少なくとも具合が悪いわけでもなさそうだ。
 すずを抱き上げたまま元々自分の部屋だった現状母親の衣装部屋となっている部屋に移動し、寿也はとりあえず鞄から小分けされているドライフードの封を開け、手のひらに乗せた。

「お腹、空いてたとかかな」

 実際床に下ろしたすずはゴロゴロと喉を鳴らしながらカリカリ食べている。
 すずが食べ終わり、自分は風呂に入るための着替えを出しながら、寿也は「そうだ、すず。俺さっき、めちゃくちゃ綺麗な人に出会ったんだぞ」と話しかけた。すずが真ん丸な目で寿也を見てくる。

「ほんと綺麗でさ。こんな田舎にいるのが違和感なくらい。道に迷ってたんだ。案内したら喜んでくれて。名前教えてくれたよ。九郎丸 鳴、だったかな。くろうまる、なる。珍しい名前だよな」

 あはは、と笑いながら言った後、一旦大人しくなっていたすずが変な声を上げてきた。尻尾でも踏んでしまったのかと一瞬焦ったが、そうではない。どうしたんだろうと改めてすずを見ると、猫でもそんな驚いた顔をするのかとしみじみするくらい唖然とした顔をしていた。
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