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15話
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その夜は母親の衣装に囲まれるようにして眠ったからか、落ち着かずいい眠りにつけなかったのかもしれない。アルバイト先で友人となった鈴がまた寿也の近くで泣いている夢を見た。それを見ている自分もまた悲しくなってくる上に、遠い昔にもこんな光景を見たような気がしてくる夢だ。
悲しい。
ふと目が覚めた時もそんな気持ちが残っていた。夢で自分が泣いていたわけではないのに、少し目に涙がにじんでいる。
「……ニャー」
布団の中からすずが出てきた。
「この中に入ってたのか。どうりで暖かいなと思った」
囁くような小声で言えば、すずは寿也の頬にそっと前足を置いてくる。悲しい気持ちがじわりと上昇した。
「何だ、悲しい夢見た俺を励ましてくれてんの? 優しいな、すずは」
猫の仕草が可愛くて嬉しくて、寿也は小さく笑みを浮かべながら布団から手を出してすずの背中を撫でた。
「……何かやっぱり浅見くんってすずに似てる気がするなあ」
夢にすずは出てきていないのに何となく被るような妙な感覚がして、寿也は起き上がりながらすずを抱き上げつつ言う。
「何でだろね。すずは猫だし浅見くんは人間だしで、被るとこ全然ないのにな」
はは、と小さく笑う。その時閉まっているはずの窓からふわりと風を感じた。冬だというのに生温い風だ。怪訝に思っていると抱き上げているすずが「ニャァ」と一声鳴く。見上げると黒い毛に青い目だからだろうか。その目だけが目立ち、異様に光っているように見えた。おまけに抱き上げているすずを少し重く感じる。どこかホラーめいた雰囲気を感じたのは気のせいだろうかと寿也はすずを改めて見た。
「すず?」
その重さはじわじわと増していく。とうとう持っていられなくなり、寿也はすずを下ろした。怯える気持ちは湧かないものの唖然としながらすずを見ていると、今度はその黒い体がどんどん目に見えて大きくなっていく。その様子を微動だにできずに見ていると、それは猫ではなく人間のような形になっていた。俯いたような状態から少しそれが動いた時、耳元に見覚えのある鈴が見える。
「……あ、さみ……くん?」
いや、まさか。
そんなことあるはずがないというのに、寿也の口からはまた「浅見くんなのか?」と出ていた。しかし頭の中では全く理解できていない。猫が人間に変わった。すずが鈴になった。あり得ない。
だが顔を上げたその見た目は完全に人間の鈴だった。
「浅見く……ん。え? いや、待って。え、何で……何? 俺、まだ夢……?」
混乱していると鈴が近づいてきて手を寿也の頬にそっと触れてきた。先ほどすずが前足を置いてきたことが被る。
「す、ずは……浅見くん、なの、か?」
そんなことがあるはずない。
だが鈴はコクリと頷いてきた。そういえば、と今さら寿也は鈴の名前を思い出す。名札にも書いていたし初めて知った時もすずを思い出してほのぼのとしていた。浅見鈴。すずだ。
「鈴、はオレの名前から……。浅見、は浅見莉津子の浅見から」
「……あさみりつこ?」
「りつこはオレの……一番最初のご主人」
「そ、うなのか。ああ、あの首輪をつけてくれ、た……?」
ふとボロボロになっていたすずの首輪を寿也は思い出した。鈴はまたコクリと頷く。
「そのあさみりつこさんはどうしたの?」
「……もう、いない。……ううん、いる、けどいない」
鈴は切なそうな、夢で見たような泣きそうな顔で微笑んできた。
どういう意味だろう、と寿也は首を傾げた。人間は猫より長生きする。だからすずより先に亡くなるということは基本的にはないはずだ。病気か何かで亡くなったのだろうか。だがいるけどいない、ということは捨てられたのだろうか。だからすずの飼い主は待てど暮らせど現れなかったのだろうか。
「でも……何で猫が人間、に……」
「オレはね、もう二百年くらい生きてるんだ。気づいた時には異形になってた。人間が言うあやかし、ってやつ。猫又とかケット・シーとか人間が呼ぶ類の異形。オレは多分猫又、かな」
二百?
猫又?
異形?
「ちょ……どういう……いや、どういうも何もあやかし、か……でもいやもう……え? 俺の理解の範疇超えすぎて……キャパオーバー……」
そもそも普段から漫画とかアニメに興味があまりないし、映画でもファンタジー系はあまり見ない。頭から煙が出そうだ。あり得なさ過ぎて現実味を帯びていない。やはり夢を見ているのだろうかと自分の頬をつねったが痛かった。おまけにそこを鈴が撫でてくる。
「マジ……わかんない……」
思わず、誰か助けてと小さな呟き声が漏れつつ頭を抱えた。
「オレ以外に助けなんか求めないで……。寿也、いい。理解、しなくて。オレは猫のすずだと知ってくれたらそれで、いい」
鈴は寿也に近づき、じっと見てくる。その様子は猫のすずそのものといった感じだった。
鈴は、すず……。
理解、しなくて、いい……。
訳はわからないままだが、何故か何となく落ち着いてきた。そしてふと気づいて微妙な顔になった。
「……なら、とりあえず、すず。服、着ようか。もしくは猫に戻って」
人間の鈴となったすずは何も着ていない。寒そうだし、いくら同性だろうが素っ裸の人間がそばにいるのは落ち着かない。
一旦布団を鈴に被せると、寿也は鞄から自分の服を取りに行った。五センチほど身長差はあるが、ジャージなら多少小さくても着られるだろう。
案の定少し小さいジャージ姿の鈴を微妙な気持ちで見ていると「寿也は……オレが怖くなった? 嫌いになった?」とおずおずした様子で聞かれた。
「り、かいが追いつかないだけで、嫌いじゃないよ。それに意味がわからなくても中身がすずなら怖くも、ない……」
多分。
寿也の言葉に、鈴はホッとしたように口元を緩めてきた。
悲しい。
ふと目が覚めた時もそんな気持ちが残っていた。夢で自分が泣いていたわけではないのに、少し目に涙がにじんでいる。
「……ニャー」
布団の中からすずが出てきた。
「この中に入ってたのか。どうりで暖かいなと思った」
囁くような小声で言えば、すずは寿也の頬にそっと前足を置いてくる。悲しい気持ちがじわりと上昇した。
「何だ、悲しい夢見た俺を励ましてくれてんの? 優しいな、すずは」
猫の仕草が可愛くて嬉しくて、寿也は小さく笑みを浮かべながら布団から手を出してすずの背中を撫でた。
「……何かやっぱり浅見くんってすずに似てる気がするなあ」
夢にすずは出てきていないのに何となく被るような妙な感覚がして、寿也は起き上がりながらすずを抱き上げつつ言う。
「何でだろね。すずは猫だし浅見くんは人間だしで、被るとこ全然ないのにな」
はは、と小さく笑う。その時閉まっているはずの窓からふわりと風を感じた。冬だというのに生温い風だ。怪訝に思っていると抱き上げているすずが「ニャァ」と一声鳴く。見上げると黒い毛に青い目だからだろうか。その目だけが目立ち、異様に光っているように見えた。おまけに抱き上げているすずを少し重く感じる。どこかホラーめいた雰囲気を感じたのは気のせいだろうかと寿也はすずを改めて見た。
「すず?」
その重さはじわじわと増していく。とうとう持っていられなくなり、寿也はすずを下ろした。怯える気持ちは湧かないものの唖然としながらすずを見ていると、今度はその黒い体がどんどん目に見えて大きくなっていく。その様子を微動だにできずに見ていると、それは猫ではなく人間のような形になっていた。俯いたような状態から少しそれが動いた時、耳元に見覚えのある鈴が見える。
「……あ、さみ……くん?」
いや、まさか。
そんなことあるはずがないというのに、寿也の口からはまた「浅見くんなのか?」と出ていた。しかし頭の中では全く理解できていない。猫が人間に変わった。すずが鈴になった。あり得ない。
だが顔を上げたその見た目は完全に人間の鈴だった。
「浅見く……ん。え? いや、待って。え、何で……何? 俺、まだ夢……?」
混乱していると鈴が近づいてきて手を寿也の頬にそっと触れてきた。先ほどすずが前足を置いてきたことが被る。
「す、ずは……浅見くん、なの、か?」
そんなことがあるはずない。
だが鈴はコクリと頷いてきた。そういえば、と今さら寿也は鈴の名前を思い出す。名札にも書いていたし初めて知った時もすずを思い出してほのぼのとしていた。浅見鈴。すずだ。
「鈴、はオレの名前から……。浅見、は浅見莉津子の浅見から」
「……あさみりつこ?」
「りつこはオレの……一番最初のご主人」
「そ、うなのか。ああ、あの首輪をつけてくれ、た……?」
ふとボロボロになっていたすずの首輪を寿也は思い出した。鈴はまたコクリと頷く。
「そのあさみりつこさんはどうしたの?」
「……もう、いない。……ううん、いる、けどいない」
鈴は切なそうな、夢で見たような泣きそうな顔で微笑んできた。
どういう意味だろう、と寿也は首を傾げた。人間は猫より長生きする。だからすずより先に亡くなるということは基本的にはないはずだ。病気か何かで亡くなったのだろうか。だがいるけどいない、ということは捨てられたのだろうか。だからすずの飼い主は待てど暮らせど現れなかったのだろうか。
「でも……何で猫が人間、に……」
「オレはね、もう二百年くらい生きてるんだ。気づいた時には異形になってた。人間が言うあやかし、ってやつ。猫又とかケット・シーとか人間が呼ぶ類の異形。オレは多分猫又、かな」
二百?
猫又?
異形?
「ちょ……どういう……いや、どういうも何もあやかし、か……でもいやもう……え? 俺の理解の範疇超えすぎて……キャパオーバー……」
そもそも普段から漫画とかアニメに興味があまりないし、映画でもファンタジー系はあまり見ない。頭から煙が出そうだ。あり得なさ過ぎて現実味を帯びていない。やはり夢を見ているのだろうかと自分の頬をつねったが痛かった。おまけにそこを鈴が撫でてくる。
「マジ……わかんない……」
思わず、誰か助けてと小さな呟き声が漏れつつ頭を抱えた。
「オレ以外に助けなんか求めないで……。寿也、いい。理解、しなくて。オレは猫のすずだと知ってくれたらそれで、いい」
鈴は寿也に近づき、じっと見てくる。その様子は猫のすずそのものといった感じだった。
鈴は、すず……。
理解、しなくて、いい……。
訳はわからないままだが、何故か何となく落ち着いてきた。そしてふと気づいて微妙な顔になった。
「……なら、とりあえず、すず。服、着ようか。もしくは猫に戻って」
人間の鈴となったすずは何も着ていない。寒そうだし、いくら同性だろうが素っ裸の人間がそばにいるのは落ち着かない。
一旦布団を鈴に被せると、寿也は鞄から自分の服を取りに行った。五センチほど身長差はあるが、ジャージなら多少小さくても着られるだろう。
案の定少し小さいジャージ姿の鈴を微妙な気持ちで見ていると「寿也は……オレが怖くなった? 嫌いになった?」とおずおずした様子で聞かれた。
「り、かいが追いつかないだけで、嫌いじゃないよ。それに意味がわからなくても中身がすずなら怖くも、ない……」
多分。
寿也の言葉に、鈴はホッとしたように口元を緩めてきた。
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