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18話
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玄関まで向かう間、すずが珍しくニャーニャー煩く鳴きながらついてきた。その様子に改めて「やっぱり九郎丸さんかな……」と思っていたにも関わらず、実際古い玄関口に違和感を感じるほどに見目のいい女性、もとい、狐が化けた者が立っているのを目の当たりにすると寿也はますます落ち着かない気持ちになった。
「寿也さん」
「……あの、どういったご用でしょうか」
「昨日は本当に助かりました。お礼をしたいと申してましたでしょ?」
「ですが、それは結構ですよ、と俺、言ったかと」
その時はもちろん人間だと疑いもしていなかったしとてつもなく綺麗な女性だけに目を奪われそうになっていたが、実際お礼をしてもらうほどのことはしていないため普通に断っていた。多分そういうところでガツガツ行かないのが今も彼女がいない敗因の一つだとは思うが、鳴の正体を知っている今となっては断ってしまう性格でよかったなとも思う。とはいえ断ったにも関わらずこうして押しかけられているが。
「それでは私の気が済みません」
ニッコリと微笑んでくる様は、中身があやかしだと聞かされていても見惚れてしまいそうだ。しかし足元ですずが先ほどからひたすら煩いのでポーッとなることは避けられた。
「いえ、本当に結構ですので」
「……寿也さんは私がお嫌いですか?」
普通の人に言われていたら「いや、嫌いも何も、ほぼ知り合いですらないですよね?」と口に出そうだが、外見の影響力というのは本当に凄まじいなと寿也は微妙な気持ちで思った。というか自分が美人に弱いだけかもしれない。美人から悲しそうに「嫌いですか?」などと言われると心が揺れに揺れる。
しっかりしろよ俺。美人だけど中身は狐らしいんだぞ。それも妖怪だぞ。
「そ、ういうわけじゃありません。ただ俺は道に迷っている人に道を教えただけで、わざわざお礼をされるようなことはしてないです」
「私はでもとても助かりましたし嬉しかったんですよ。せめてお茶だけでもお付き合いくださいませんか?」
喜んで、と言いたいところだが寿也はグッと堪えた。
「遠慮しておきます。それにこの辺でお茶を飲めるような店はありませんよ」
「私の家で」
美人の家で二人きり。
「シャーッ」
思わず寿也の時が止まりそうになっていると足元からすずが威嚇する声が聞こえてきた。
「と、とにかく結構です。お気持ちだけ頂いておきますので。では」
ハッとなり、寿也は慌てて鳴を玄関の外へ押しやると「失礼します」とそのままガラス戸を閉めた。ため息をついてから足元を見るとすずが恨めしそうな顔でじっと寿也を見上げている。とはいえ猫の表情はわからないので恨めしそうというのは寿也の主観かもしれない。というか主観かもしれない、と思いたいだけかもしれない。
「ごめんて。わざわざすずが正体ばらしてまで教えてくれたんだもんな。気をつけろって。でも仕方ないくらい、美人だからつい。でもちゃんと断っただろ?」
「ニャー」
何やら返ってきたが、幸い何を言っているのかわからない。
ちょうど出かけようとしていたらしい寿花とすれ違う時に「あの綺麗な人、何やったん?」と目をキラキラさせながら聞かれたが「何でもないよ。もう済んだ」とだけ返しておいた。寿花はもっと突っ込んで聞きたそうにしていたが、どうやら友人との約束に遅れそうらしく「また聞かせてくんない」と言い残すと慌てて家を出て行った。
とりあえず一旦気持ちを落ち着かせるために仮の寿也部屋という名の、母親の衣裳部屋へ向かった。すずは何故かまたやたら鳴き始める。部屋に入った途端、何故すずがまた鳴きだしたのか寿也は理解した。
「っ九郎丸さんっ?」
どうやってここに入ったのか、どうやって寿也の部屋を知ったのか、鳴が寛いだ様子で座っていた。たくさんの服がいくつものハンガーラックにぶら下がっている狭い部屋で、そこだけが光り輝いているかのようだった。
「はーい。来ちゃった」
「き、来ちゃった、じゃありませんよ……! 何で……」
「えー? 何でって、多分さっきの様子だと寿也ってばおすずに私の正体聞いてそうなんですもの。ならもういっかぁって思って」
何が?
何がいいの?
唖然としている寿也のそばですずがまた「シャーッ」と威嚇音を出している。
「ねえ、寿也って私の顔、好きそうじゃない。なのに何で据え膳食べないの? 美人の家で二人きりになるチャンス、みすみす逃すの? もしかしてヘタレ?」
「は?」
「何ならここで、いい思いさせてあげましょうか」
「い、や、ちょ、何言ってるんです……?」
途端、寿也の隣で猫の体が大きく膨れ上がった。まさか人間の鈴に? と慌てて隣を見れば、人間ではなく尻尾が二手に分かれた大きな化け猫が思い切り鳴を睨みつけていた。
「す、ずっ?」
『お前ほんとに神? 神のくせに何て下品なんだ。最低だな! オレの寿也に色仕掛けとかしてくるなんて!』
化け猫は寿也にもわかる言葉を話した。とはいえ人が話す言葉とはどこか、何かが違う。発される音だろうか。だというのにちゃんと日本語に聞こえる。
「やだなぁ、下品だなんて。とても上品に話していたでしょ」
『中身が下品って言ったんだよ!』
「ほんの軽い冗談だろ。むしろまさか本気で山の神である俺が人間と交わるとか思った? 生贄としてなら貰ってもいいけど、それでもできたら女のほうがいいなあ。味わいやすい」
鳴は美しい笑顔でとんでもないことをすらすらと口にしており、すずがまたそれに対して文句を返す。
気づけば寿也そっちのけで一人と一匹と言えばいいのだろうか、は片や楽しげに、片やイライラと言い合っていた。
「寿也さん」
「……あの、どういったご用でしょうか」
「昨日は本当に助かりました。お礼をしたいと申してましたでしょ?」
「ですが、それは結構ですよ、と俺、言ったかと」
その時はもちろん人間だと疑いもしていなかったしとてつもなく綺麗な女性だけに目を奪われそうになっていたが、実際お礼をしてもらうほどのことはしていないため普通に断っていた。多分そういうところでガツガツ行かないのが今も彼女がいない敗因の一つだとは思うが、鳴の正体を知っている今となっては断ってしまう性格でよかったなとも思う。とはいえ断ったにも関わらずこうして押しかけられているが。
「それでは私の気が済みません」
ニッコリと微笑んでくる様は、中身があやかしだと聞かされていても見惚れてしまいそうだ。しかし足元ですずが先ほどからひたすら煩いのでポーッとなることは避けられた。
「いえ、本当に結構ですので」
「……寿也さんは私がお嫌いですか?」
普通の人に言われていたら「いや、嫌いも何も、ほぼ知り合いですらないですよね?」と口に出そうだが、外見の影響力というのは本当に凄まじいなと寿也は微妙な気持ちで思った。というか自分が美人に弱いだけかもしれない。美人から悲しそうに「嫌いですか?」などと言われると心が揺れに揺れる。
しっかりしろよ俺。美人だけど中身は狐らしいんだぞ。それも妖怪だぞ。
「そ、ういうわけじゃありません。ただ俺は道に迷っている人に道を教えただけで、わざわざお礼をされるようなことはしてないです」
「私はでもとても助かりましたし嬉しかったんですよ。せめてお茶だけでもお付き合いくださいませんか?」
喜んで、と言いたいところだが寿也はグッと堪えた。
「遠慮しておきます。それにこの辺でお茶を飲めるような店はありませんよ」
「私の家で」
美人の家で二人きり。
「シャーッ」
思わず寿也の時が止まりそうになっていると足元からすずが威嚇する声が聞こえてきた。
「と、とにかく結構です。お気持ちだけ頂いておきますので。では」
ハッとなり、寿也は慌てて鳴を玄関の外へ押しやると「失礼します」とそのままガラス戸を閉めた。ため息をついてから足元を見るとすずが恨めしそうな顔でじっと寿也を見上げている。とはいえ猫の表情はわからないので恨めしそうというのは寿也の主観かもしれない。というか主観かもしれない、と思いたいだけかもしれない。
「ごめんて。わざわざすずが正体ばらしてまで教えてくれたんだもんな。気をつけろって。でも仕方ないくらい、美人だからつい。でもちゃんと断っただろ?」
「ニャー」
何やら返ってきたが、幸い何を言っているのかわからない。
ちょうど出かけようとしていたらしい寿花とすれ違う時に「あの綺麗な人、何やったん?」と目をキラキラさせながら聞かれたが「何でもないよ。もう済んだ」とだけ返しておいた。寿花はもっと突っ込んで聞きたそうにしていたが、どうやら友人との約束に遅れそうらしく「また聞かせてくんない」と言い残すと慌てて家を出て行った。
とりあえず一旦気持ちを落ち着かせるために仮の寿也部屋という名の、母親の衣裳部屋へ向かった。すずは何故かまたやたら鳴き始める。部屋に入った途端、何故すずがまた鳴きだしたのか寿也は理解した。
「っ九郎丸さんっ?」
どうやってここに入ったのか、どうやって寿也の部屋を知ったのか、鳴が寛いだ様子で座っていた。たくさんの服がいくつものハンガーラックにぶら下がっている狭い部屋で、そこだけが光り輝いているかのようだった。
「はーい。来ちゃった」
「き、来ちゃった、じゃありませんよ……! 何で……」
「えー? 何でって、多分さっきの様子だと寿也ってばおすずに私の正体聞いてそうなんですもの。ならもういっかぁって思って」
何が?
何がいいの?
唖然としている寿也のそばですずがまた「シャーッ」と威嚇音を出している。
「ねえ、寿也って私の顔、好きそうじゃない。なのに何で据え膳食べないの? 美人の家で二人きりになるチャンス、みすみす逃すの? もしかしてヘタレ?」
「は?」
「何ならここで、いい思いさせてあげましょうか」
「い、や、ちょ、何言ってるんです……?」
途端、寿也の隣で猫の体が大きく膨れ上がった。まさか人間の鈴に? と慌てて隣を見れば、人間ではなく尻尾が二手に分かれた大きな化け猫が思い切り鳴を睨みつけていた。
「す、ずっ?」
『お前ほんとに神? 神のくせに何て下品なんだ。最低だな! オレの寿也に色仕掛けとかしてくるなんて!』
化け猫は寿也にもわかる言葉を話した。とはいえ人が話す言葉とはどこか、何かが違う。発される音だろうか。だというのにちゃんと日本語に聞こえる。
「やだなぁ、下品だなんて。とても上品に話していたでしょ」
『中身が下品って言ったんだよ!』
「ほんの軽い冗談だろ。むしろまさか本気で山の神である俺が人間と交わるとか思った? 生贄としてなら貰ってもいいけど、それでもできたら女のほうがいいなあ。味わいやすい」
鳴は美しい笑顔でとんでもないことをすらすらと口にしており、すずがまたそれに対して文句を返す。
気づけば寿也そっちのけで一人と一匹と言えばいいのだろうか、は片や楽しげに、片やイライラと言い合っていた。
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