金の鈴

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19話

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 しばらく唖然とその様子を眺めてしまったが、ここは母親の衣裳部屋だ。寿也が実家にいる間は寿也の部屋らしいがいつ何時入ってこられるかわからない。一応母親も牛の世話などで昼過ぎくらいまでは家にいないが油断はできない。

「ちょ、ちょっと。すずも九郎丸さんも静かにして。あとそんな姿誰かに見られたらまずいんじゃないのか……?」

 二本に分かれた尻尾の大きな化け猫とだけでなく、今やあの美人も九本の尻尾を生やした狐になっていた。まるで妖怪の見本市だ。一度にありえない生き物を二匹も見る羽目になって、すずが鈴だと知った後でもまだあやかしに対して懐疑的というか頭の整理が全くできていなかった寿也としても完全に「あやかしは存在するもの」と完全に理解せざるを得ない。

『だって鈴に化けても寿也、動揺するかなって』

 いや、そっちのが動揺しないか?

 内心即思ったが、すずなりの配慮なのだろうと寿也は苦笑しながらすずの背中を撫でた。大きな体になっても手触りはすずのそれだ。

「俺は女に化けるの面倒になったからかな」

 そして九郎丸もとい、九郎は配慮もへったくれもない。というか本当に山の神なのだろうかと、あやかしを疑わしく思う百倍は疑わしく寿也は微妙な顔を九郎へ向けた。

「というかあなたは狐の姿でも人間の言葉、話せるんですか」
「まあ、俺ってばすごい力持ってる神様だからな」
「……」
『ただの阿保狐だよ寿也! 耳貸さなくていいよ!」
「おすずは神様に対して辛辣すぎだな」
『オレをおすずって呼ぶな阿保狐』
「……はぁ。とにかくすずは普通の猫に戻って。もしくは人間の鈴でもいいから……。あと神様はすごい力をお持ちなんでしたらせめて尻尾を一本にしてもらえませんか」

 いくら一見普通の狐に見えても、いや、こんなとてつもなく輝かしい毛色の狐がいるのかどうか知らないが、とにかく尻尾が九本生えている時点で人間からすればあやかしでしかない。

『寿也、尻尾どうでもいい。帰れって言ってやって』

 すずが体をほんの少し縮めながらそんなことを言う。寿也としても言いたいのは山々だが、目の前の狐が鳴宮神社の狐なのだとしたら寿也としては普通に怖い。下手な対応をして祟られでもしたらと、どうしても思ってしまう。神社の狐に対しての偏見かもしれないが、神様というより祟る存在というイメージが半端ない。

「この俺に尻尾を隠せだと? 人間のくせに偉そうだな」

 そして既に下手な対応をしてしまったらしい。

「も、申し訳ありませんが、正体がばれるよりはそちらのほうがいいか、と……」
「寿也、こんなやつの戯言なんて無視していい」

 化け猫から今度は人間に化けたすずが、まるで汚らわしいものを見るかのような目で狐を見ながら言ってきた。ちなみに鈴は集中したのか最初から服を着ている。ホッとしかけた寿也は頭を振ってから「鈴……そんな言いかた」と顔を青ざめさせたが、九郎は楽しげに笑ってきた。

「蔑んだような目で見てくんなよ、おすず。ほんとお前は山の神に対しての態度がなってなさ過ぎ」
「お前は山の神とは思えない口調過ぎ。威厳なさ過ぎ」
「えー。俺は親しみやすさを出してるだけ。なあ、寿也。俺、親しみやすいだろ?」
「そ、そう、で、すね」

 まだ青ざめたまま答えると、寿也の様子を見た鈴が思い切りポカンと口を開けた後に「むしろ寿也怯えてるだろ!」と九郎に言い返した。

「何で怯えられんだよ。そういや俺の誘惑にもへっぴり腰だったし、やっぱり寿也はヘタレか」
「オレの寿也を馬鹿にすんな。お前の誘惑なんて屁でもないだけ」
「はあ? 俺の美しさがわからないなんてどっかおかしいだろ、人間として。九尾狐だぞ? 人間の物語の中でも美女として有名だろうが。中国殷王朝の妲己や日本平安時代の玉藻前とか、美女に変化して人間の世を惑わしたって有名だろうが」
「何だよ、全然神様じゃないじゃないか。オレの知ってる限り、そういうのはただのあやかしって言うんだからな」

 また二人、というか二匹というかなんというか、が言い合いだした。猫と狐だからだろうか、どうにも相性がよくないようだ。

 ……というか神様のほうは楽しんでそうだけど。

「だから山の神だっつってんだろ。神だけど九尾狐だからそういう能力も持ってるすごい存在っつってんだよ。よし、ならヘタレの寿也がここにいる間に、この俺が落としてやろう。そしたら俺の勝ちだ。おすず、お前俺の言うこと一つ聞けよ」

 神様が言うことか。

「寿也がお前なんかに誘惑されるわけない。だったら落とせなかったら阿保狐がオレの言うこと一つ聞け」
「いいだろう」
「妖術使って無理やり落とすのはなしだからな」
「は? それも能力の一つだろうが」
「駄目。オレの寿也に変な妖術使ったらその時点でお前の負けだから」

 やめて。
 俺を差し置いて何ろくでもない賭けしてんの……?

 思い切り文句を言いたいところだったが、実際は口をパクパクするくらいしかできなかった。
 久しぶりに実家へ帰ってきて、すずと戯れつつのんびりしようと思っていただけなのにと寿也は唖然とする。何なら今すぐ家に帰りたくなった。だがそんなことをしたらそれはそれで祟られそうな気がしてしまい「もしかして俺は神様が言うように本当にヘタレなんだろうか」と寿也は思い切りため息をついた。
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