金の鈴

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20話

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 その夜、夕食の後に家族とのんびりテレビを見て過ごしてから寿也は風呂へ向かった。脱衣所までついてくるすずにそして笑いかける。

「ここ、風呂だよ。すずは風呂、嫌いだろ」
「ニャー」

 昼前に九郎とろくでもない賭けをしてくれたすずは、九郎がどこかへ行ってしまってからも寿也から離れようとはしなかった。寿也としては心配なのだとしたらそもそも賭け自体やめてくれと思うが、今さら言っても詮無きことだろう。
 そのまま服を脱いでいるとすずが人間の姿になってきた。相変わらず素っ裸だが、脱衣所だけにそこはまあ、いい。とはいえ何度か見ているもののやはりまだ当たり前という感覚はない。

「……あまり不用意に化けないほうがいいんじゃないの」

 風呂場に入りながら言えば、鈴はついてきながら「他の人間の気配は気にしてる」と返してきた。

「気配、な。確かにそれは俺にはわからないことだし、大丈夫ならいいけど……」

 風呂場が居間から離れているとはいえ声が響くのもあり、寿也は小声で話す。鈴もすぐに理解したのか、同じように抑えた声で話してきた。あやかしというのは頭がいいのかもしれない。

「うん、大丈夫。だから寿也は阿保狐だけ注意してて」
「さすがに夜だし、それもこんなところに来ないだろ」
「そんなのわからない。阿保だから」
「いや、神様だろ……」
「オレからしたらただの阿保狐」

 ふるふると頭を振る鈴は隅のほうでただ立っている。いくら頭がよさそうでも、どう見ても人間でも、この絵面は違和感しかない。

「鈴はその姿でも風呂、苦手なのか?」
「……好きじゃない」
「でも気持ちいいぞ。いきなりかけたりしないからこっちおいで。少しずつ慣れてみたら? 人間の姿ならまだ慣れやすいかもだろ」

 笑って言えば、鈴は恐る恐る近づいてきた。人間の姿なのに猫っぽい。

「ほら、洗面器に手をつけて」

 鈴は手、というより指を伸ばしてそっと浸けた。そして少し考えてから手のひらを浸ける。

「人間の体だったらお湯、気持ちよくない?」
「……どうだろ」
「どのみち寒いだろ、裸で立ってるだけじゃ」
「湯気で寒くない」
「だいたい湯気は嫌じゃないの」
「……そういえば猫の時は湯気も好きじゃなかった」

 ハッとなった鈴は恐る恐る腕を湯船に浸ける。そして少しそわそわした顔を寿也に向けてきた。寿也よりも大きな男が腕だけ湯船に浸けてキラキラした目を向けてくる様子に微妙な気持ちになりそうだが、中身はすずなので寿也としては少し可愛くもある。

「入れそう?」
「……やってみる」
「じゃあ先にかけ湯しないとな」
「かけゆ?」
「体に湯をかけるんだよ。全身にまんべんなく湯をかけて、その湯の温度に体を慣らすのと、浴槽の湯を汚さないためでもある。なんかほら、お清め的な」
「へえ」
「やってみて。この洗面器に湯をすくって体にかけるんだけど、そうだな、鈴は慣れてないし年寄りと同じように足先からかけるといいよ」
「年寄りは何で足先からかけるの? オレみたいに湯が苦手なの?」
「いや。心臓が驚いて麻痺する場合もあるからかな」

 寿也が言えば、じっと湯を見ていた鈴が唖然とした顔を向けてきた。

「湯だけでも人間は死ぬのか? こんな湯だけで?」
「い、いや……まあ、ちょっとそれは語弊があるけど……そういう場合もあるってこと、かな」

 何故鈴がそんなに唖然とするのかわからなくて困惑する。しかもその後少し悲しそうな顔をしてきた。

「どうかしたのか?」
「……ううん。とりあえず足からかけてみる」

 その後どうやら湯に慣れたらしい鈴は悲しそうだった顔を少しまたキラキラとさせながら湯の中で肩まで浸かったり潜ったり手のひらでバシャバシャと湯を叩いたりと満喫しているようだった。これも成人している男の行為としては少々どうかと思いそうだが、中身がすずだと知っている寿也からすれば微笑ましい。
 ただ限度がわからなかったようで逆上せてしまい、風呂から出た鈴は気づけば猫のすずの姿になって転がっていた。少し焦ったが本気でぐったりしているほどでもなさそうで、バスタオルで体を拭いてやった後にドライヤーをかけると驚いたのか珍しく寿也に対しても「シャーッ」と威嚇音を出してきた。

「ごめんごめん。大丈夫、濡れた毛を乾かすだけだから。たまに俺が使ってるの見たことあるだろ? ほら、こんな感じ」

 苦笑しながら寿也は自分の髪にドライヤーをあてて乾かしていく。それを見たすずは大人しく乾かされるままでいてくれた。
 乾かした後まだぐったりしているすずを抱き上げて一旦台所へ向かい、水を与えた。その後母親の衣裳部屋もとい、自分の部屋へ向かう。だらんとした猫を抱く状況に少し心配になりつつ部屋に入ると「おかえりなさい」と布団の上に美人が薄い浴衣姿で横たわっている。

「……神様。年頃の男にそういうことするの、やめてもらえませんか……」
「あら、むしろそれが狙いでやってるんだけど」

 逆上せたせいで九尾狐の存在をあらかじめ察知できなかったらしいすずが少し元気のない様子で唸っていた。
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