金の鈴

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21話

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 はっきり言って目のやり場に困る。それこそすずならば人間の鈴になっていても同じ男なのでそういった困惑はないのだが、九郎が化けているのは女だ。それもかなり綺麗な容姿の女。中身は狐だとわかっているのできちんとブレーキはかかるものの、どうしても目のやり場には困る。

「狙われても困ります。狐の姿に戻ってください」
「……お前さあ、こんな状況なら普通頂きますってなるだろ、普通。俺のこの色気溢れる体や拝みたくなる顔見て何ともならないのか。……あ、もしかして」
「……もしかして、とか言いながら憐れんだ顔して俺の股間見るのやめてください。俺は一応正常です。不能とかそういうんじゃないんで」
「だってつい思うだろ。この俺見てなんともならないんじゃ」

 九郎は体を起こして浴衣をぐいっとはだけさせた。寿也は慌てて目をそらし、すずは「シャーッ」と威嚇する。

「あなた本当に神様ですか……」
「何百年以上も前からな」
「……神様ってどうなってんだ……」

 すずの言っていた「神なんて自分勝手でろくでもないの、いっぱいいるぞ」という言葉が鮮明に過る。

「というか、あなたって男と女、どっちなんですか。女の姿に化けてるようですけど口調は男ですよね」
「おいおい。神様にそんな概念求めるなよ」

 九郎は楽しげに笑っているが寿也としてはちっとも楽しくない。あと、だから結局どっちだよと微妙な顔になる。

「寿也、入るちゃよ。誰かおるん?」

 その時部屋の外から母親の声がした。

「えっ、ちょ……」

 待ってと言いかけているところで母親が入ってきた。声をかけたなら是非こちらの反応を待って欲しいと心から思いつつ、寿也はむしろ身動きすらできず固まった。すずは猫のままだからいいとして、あられもない薄着の九郎をどう説明すればいいというのか。

「おらんね。気のせいちゃね。明日ん服を取りとうてね。って、寿也……」

 明日は出かけるから、とニコニコしていた母親が敷かれている布団をじっと見ている。それはそうだろう。寿也は片手で目を覆った。上手い言い訳など全く思いつかない。

「山ん鳴宮様に参拝してきたんね」
「え?」

 何の話だ、と寿也は手を目から放して顔を上げた。

「それ。鳴宮様んお守りやろう」

 またニコニコしながら母親が布団を指差す。寿也は恐る恐る指先に視線を移した。

「あ」

 布団の上には陶器でできた狐の置物だけが転がっていた。

「そ、そうなんだ。行ってきた」

 実際すずを探しがてらに参拝はした。お守りは見てもいなかったが。

「にしてもなして布団ん上に置いちょるん」
「あ、ちょっとどんなか見てて」

 あはは、と寿也は置物を手に取った。母親はその後いくつか服を寿也にも選ばせてから結局寿也が選んだものとは違う服を手に部屋を出て行った。選ばせた意味は、と少し思ったが昔から母親はこんなだったので流すことにする。とりあえず大事にならなくてよかったとため息をついていると「俺を抱えて、その気にでもなったか?」という声がして、まだ持ったままだった手のひらの置物が人間の姿へと変わった。もちろん手のひらでは抱えられず、気づけば九郎を抱き抱えるような状態になる。

「少しは情熱的になったか」
「……あなたが落ちないよう抱えただけです」

 改めて思い切りため息をつき、寿也は慌てて九郎を離した。

「寿也はいいやつだけど、ヘタレだな」

 楽しげに言う九郎に、母親がいる間大人しかったすずがまた威嚇している。

「もうヘタレでいいですから、俺を誘惑するとかいった馬鹿な賭け、やめてもらえませんか」
「その願いをきけば、お前は何をしてくれるんだ?」
「はい?」
「おいおい。まさかお供えもなしに一方的に祈祷だけするつもりか? 初穂料寄越せ」
「なんっ、って勝手でわがままな神様なんだ……!」

 さすがの寿也も思わずそう口に出ていた。すずがよく言ったとばかりにゴロゴロ喉を鳴らしながら顔を寿也に擦りつけてくる。

「山の神に対してずいぶんな言いようだな」
「……呪いが怖くて今まで遠慮してましたが、あんたちょっと勝手すぎます。いくら俺でも、もう呪うなら呪えってなりますよ」
「はは。そんなことで呪うわけないだろ。ほんと俺を何だと思っているんだ」

 また九郎が楽しげに笑ってきた。少し拍子抜けする。

「呪わないんですか」
「俺のその辺の低能なあやかしと一緒にするな。神様だぞ」

 いや、神様ならそれこそ低能な賭けするのやめてくれないか。

「は、ぁ」
「おすずの主は中々楽しいやつだな」

 九郎がすずに言うも、すずは相変わらずシャーシャーと威嚇している。人間の姿や猫又の姿にならないのは風呂で体力やら何やらを奪われたからだろうか。

「まあ、いい。とりあえず今日のところはこの辺にしといてやろう」
「今日のところは?」
「おやすみ、寿也。おすず」

 笑みを浮かべ、九郎は寿也の手に先ほど九郎が化けていた狐の置物を置いてきた。

「小動物をプレゼントする代わりだ」
「いや、いらないですけど」
「この俺の霊験あらたかな置物だぞ。いいから持っておけ」

 今度はじろりと見てきた後、九郎は人間の女から九尾狐の姿となり窓から身を滑らせるように出ていった。寿也はとりあえず狐の置物を床に置くと力が抜けたようにため息をつく。すずが「ニャー」と鳴きながらそんな寿也に顔を擦りつけてきた。
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