金の鈴

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22話

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 九郎に貰った狐の置物を捨ててしまうわけにもいかず、翌朝に改めてそれを目の当たりにした寿也はため息をつきながら鞄の中に突っ込んだ。

「何で捨てないの」
「っいつの間に鈴になってたの……」

 目を覚ました時には布団の中で寿也にくっつくようにして眠っていたはずのすずが鈴になっていた。素っ裸が寒いのか布団とともに寿也に巻きつくように背後からくっついてくる。猫の姿なら可愛かっただろうなとわりと遠い目で思う。

「さっき。……昨日は風呂で力吸われたみたいに化けられなかったから」

 やはりずっと猫のままだったのはそういう理由らしい。今人間になったのは試しにだろうかと思いつつ、寿也は微妙な顔をした。

「……人間になる時に服もセットできないの」
「無理」

 鈴は淡々と返してきた。猫の姿が基本であるなら服を着ない状態が普通なのかもしれないが、人間の姿に化けるならせめてその瞬間に服も込みで化けて欲しいと思う。しかし無理というなら仕方ない。ため息をつきながら寿也は自分のジャージなどを鈴に差し出す。

「服をセットにするのが無理ならいつもアルバイトの時はどうしてるんだ?」

 だがふと普通に疑問に思って聞けば、鈴は一度寿也を見た後顔をそらし、そしてまた見てきた。何だと寿也は怪訝な顔になる。

「……服込みで化けてる」

 できるんじゃないか……!

 唖然として鈴を見ると、鈴は少ししゅんとした顔で寿也を見てきた。

「服来た状態は集中力いるから……」
「……悪かった、いいよそれなら」

 普段淡々としている鈴が悲しそうな様子で言ってきたら、そう返す他ない。寿也が言うと鈴はどこか嬉しそうに多少苦労しつつズボンを履いていた。本人いわくまだ着物のほうが着やすいらしい。

「で、何で捨てないの?」

 服を着終えると鈴がじっと寿也を見ながら先ほどの言葉を繰り返してきた。

「ああ……、いやだって捨てて祟られたら怖いし」

 別に元々神様やあやかしを信じているタイプではなかったが、かといって神やあやかしの存在を完全に無視できるかと言えば、そうでもない。大抵の日本人はそうではないだろうかと寿也は思う。

「阿保狐になんか、オレが寿也を呪わせないよ」
「ありがとう、鈴」

 どうやら鈴なりに守ろうとしてくれているらしいと寿也は微笑んだ。微笑ましい気持ちになり、ついまた鈴の頭を撫でてしまう。鈴は嫌がる様子もなく、基本冷めてそうな顔を嬉しそうに綻ばせてきた。
 その後二人でのんびり朝御飯を食べていると寿花があくびをしながら台所に入ってきた。だが寿也たちを見ると慌てて出ていった。鈴のことは単に「友人」と説明するつもりだった寿也が何だろうと少し怪訝に思っていると、顔を洗ってきただけでなく髪を整え、何故かわざわざ服を着替えた寿花が改めて入ってくる。

「……寿花、お前何やってるんだ?」
「お兄ちゃんこそ教えちょってくんないっ?」
「何を」
「そ、そんなカッコいい人来ちょったなんて私聞いちょらんもん」
「は?」

 ぽかんとした後で気づいた。鈴のことだ。

「……いや、わざわざ言うことじゃないし」

 猫だし。

「カッコいいって言ってもお前……」

 猫だし。

 少し動揺している寿也の横で鈴はわかっていないようで、ご飯の上に大根おろしと醤油であえたじゃこをかけたものを幸せそうに食べている。
 ちなみに鈴がすずだと知ったので朝食にドライフードを出そうとして「今までみたいに普通でいい」と少し微妙な顔で言われた。でも猫にはあまりよくないのでは、と心配げに言えば「猫又なので」とだけ返された。鈴がすずだと知る前から鈴のことは無口タイプだなと思ってはいたが、改めて口下手なんだろうなと寿也はそっと思う。
 猫又なら人間の食べ物が主食なのだろうか。それとも単に猫よりも体に悪影響がないという意味だろうか。もしくはあやかしなので何を食べても問題ないということか。
 聞き返したいところだったが、ちょうどその時に母親が通りかかったので聞けていない。いつ他の家族が来るかわからない場所で口にする話じゃないなと思い、そのままにしていた。

「あの、はじめまして……私、妹の寿花ちゅう……じゃなくて、寿花といいます。お兄さんは?」

 ぼさぼさの髪と寝巻代わりのジャージ姿は恥ずかしいようだが、自己紹介は積極的にしていくスタイルらしい。猫の姿の時に無理やり抱き上げられていた鈴としては「はじめまして」も何もないからか「えっ」と少し驚いた顔を寿花に向けている。

「……あ、ああ、えっと……浅見鈴、です」
「えっ、お兄さん名前すずって言うの? わあ! 私と似てるね」
「そ、そう、ですね」

 ガンガン来る寿花に鈴は少々タジタジとしている。

「……っていうかお兄ちゃんの猫ちゃんと一緒だ」
「そ、そう、ですね」
「……寿花、ナンパもいいけど飯食うなら早く食べてしまえ」
「ちょっとお兄ちゃん! ナンパじゃねーもん、ただの挨拶やろ!」

 まだ中学生の寿花は思い切り頬を膨らませながら味噌汁を温めにガスコンロへ向かった。それを機に、鈴が一気に食べ終えている。苦笑しながら寿也は自分と鈴の分の食器をシンクへ運んだ。

「寿花、後で一緒に洗ってて」
「はあ? お兄ちゃんひどい。私をこき使うなんて高うつくかぃね!」
「お年玉期待してて」

 寿也がそう言うと、寿花は途端機嫌がよくなり「仕方ないなあ」と温まった味噌汁を椀へ入れている。

「じゃあ頼むな」

 苦笑しながら鈴を促し、寿也はそのまま台所から出て一旦上着を取りに部屋へ向かった。
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