金の鈴

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23話

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 外出していれば九郎に変な絡まれ方をされることもないだろうと考えた寿也は頭がいい、と鈴は一人頷きながらしみじみ思っていた。確かにいくら九郎でも外であまり妙なことはできないだろう。さすがにそこまで阿保ではないはずだ。
 と思っていたらいつの間にか現れて九郎は堂々と寿也の腕に自分の腕を絡ませている。鈴はいっそ猫のままでいればよかったと思った。人間の姿だと威嚇音さえ出せないし爪でひっかくことも飛びかかることもできない。とはいえ寿也にもわかるよう文句を言うことはできる。

「寿也に近寄るな」
「えー。ならおすずが寿也と腕を組むか? はっきり言ってでかい男が腕を組んでいる姿はこんな田舎じゃ浮くぞ?」
「いや、何で腕を組むが前提なんだ……」

 男同士だと腕を組むのはおかしいのかと鈴がグッと喉を詰まらせていると寿也がため息をつきながら九郎に言い返している。

「何故だ。いい仲の男女なら腕くらい組むものだろう?」
「俺とあなたはいい仲でもなんでもありませんし、あなたそもそも男か女かすらはっきりしないじゃないですか。だいたい手を繋ぐならまだしも、腕を組むのはちょっとお年寄りっぽいような」

 お年寄り、という寿也の言葉に鈴はわざと吹き出して九郎を見た。九郎はまさかそんなことを言われるとはといった様子で唖然としている。人間の顔はわからないが寿也いわく「綺麗な顔」らしいだけに鈴からすれば滑稽だ。

「まあお前はめちゃくちゃ年寄りだもんな」
「は? ならおすずだってそうだろうが」
「オレはまだ二百年ちょっとくらい。お前は何年生きてる? 千年? 三千年? 半端ない年寄りだろ?」
「……ほぉ? 山の神に対していい度胸だな?」
「何だよ、それこそ山の神がこんなことで祟るとでも言うのか? 小さいな?」
「神は自分勝手なんだろう? お前が言ったよな?」

 お互い思い切り相手に挑むような顔で見合っていたら「俺を挟んでやめてくれないか」と寿也が呆れたように鈴と九郎から離れながら言ってきた。
 結局その後も寿也とゆっくり散歩もままならないまま家に帰る羽目になった。それはとても残念だが、年寄りっぽいと言われてとてつもなく唖然としていた九郎の顔が見られたのは中々に悪くなかった。
 家に戻る前に鈴は猫のすずに姿を戻しておく。人間のほうが言葉が通じて便利だとは思うが、人間の姿だと寿也を上手く守れなさそうだ。あと寿花にまたばったり会った時、下手に話しかけられると困るというのもある。猫の姿でやたら抱っこされたり触られたりするのも困惑するが、それは逃げたり最悪爪で自分の意志を伝えればいい話だ。猫なら許される。しかし人間の姿だとあまり下手なことはできない。多分猫のように逃げるのはおかしいだろうし、寿也の妹に対して人間の男が爪を立てるのはかなり駄目な気がする。それにすずが慕っている白猫のユキが「猫や他の野生動物なら雄が雌に力を示すのは普通だろうけどね、人間は違うよ」と言っていた。ユキが言うなら間違いない。だから人間の姿の時は女に対しては気を遣わないといけない。
 ただし人間の女の姿をしている九郎なら話は別だ。あの阿保狐相手になら人間の男と女の姿であっても、猫のようにひっかくことはできないにしても爪を立てていい気がする。ただ猫の姿に戻る前に寿也にそう言えば「まぁ、うん、でもやめておいたほうがいいよ……」と微妙な顔をされた。首を傾げていると頭を少し撫でられる。

「鈴は元々猫だろうから考えがまた違うんだろうけどね、男はむしろ極力暴力に訴えちゃ駄目なんだよ」
「何故?」
「そういうものなんだ。多分存在する世界が違うから根本的に違うんだろうな。人間もきっと野生動物のままだったらまた違うと思うけどね」
「なるほど」

 全然なるほどではないが、寿也が言うのならばそうなのだろうと鈴は頷いた。だから結局猫に戻っている。人間の姿だと寿也と話はできるものの、寿也を上手く守るなら猫の姿がやりやすそうだ。猫の姿なら寿花から上手く逃げられる上に多少なりとも九郎から寿也を守りやすい。
 寿也が人間の女に化けている九郎に強く出ないのも、もしかしたら人間の男だからだろうか。寿也は「祟られるのが怖いからだ」などと言ってはいるが寿也は怖がりじゃないはずだ。
 ずる賢い九郎のことだから、そういうことも込みで女に化けているのかもしれない。九郎が男の姿になっているのも過去にすずは見たことがある。その姿で人間の女を何人も口説いていた。間違いない。
 忌々しいが、人間の姿になった九郎の見目はいいのだろう。すずからしたらちっともわからない。女の姿だって断然莉津子のほうが美人だったと思っている。ついでに狐姿の九郎は尻尾が腹立たしいながらも確かに格好いいとは思うが、狐顔はひたすら憎たらしいようにしか見えない。

「どうした、すず。散歩して腹でも減ったか?」

 そんなことなどを考えながら寿也の周りをうろうろとしていたら寿也にニッコリと言われた。九郎に狙われているというのにどうも寿也は緊張感にかけるとすずは思う。いや、そう仕向けてきた九郎に上手く乗せられたすずが悪いのだが、寿也はもう少し緊張感を持って警戒してもいいと思う。

「ニャー」
「ん? やっぱり腹、減ったか? よし、カリカリあげような」
「違うよ、そんなこと言ってない。でもまあ、仕方ないから食べてあげるよ」

 すずは寿也の足元に顔と体を擦りつけながら答えた。
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