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24話
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「行きたくない」
「そう言わず」
寿也が苦笑しながら宥めてくる。結局鈴は拗ねたような顔のまま渋々了承した。
どこへ行くかというとあの忌々しい鳴宮神社だ。今日は大晦日で、あと少ししたら年が明けるらしい。二百年以上生きている鈴からすれば一年が終わろうが始まろうが正直どうでもいいが、人間はやはり違うようだ。
「とは言っても海外はまた違うかもだよ」
寿也が言うには年末年始の過ごし方は国それぞれらしい。ただ日本では大抵クリスマスが終わると今度は年越しを祝い、年始を祝うらしい。宗教観もへったくれもない。
せっかくだからと鈴の姿にさせられて他の家族たちに改めて「友人」だと紹介され、共に年越しそばなるものを幸せな気持ちで食べた後、鳴宮神社へ参拝に行くと聞いて速攻すずに戻ろうとしたところで寿也に説得された。説得というほどではないが大好きな寿也から「すずのままなら置いていかないとだし、せっかく人間になれるのなら一緒に年を越そう」などと言われたら嫌だと言えなくなる。
何が悲しくて阿保狐を拝まなければならないのかと心底思うが、人間はそうするものだと言うのならそれに倣うのだけは悪くないのかもしれない。決して人間にはなれないけれども、人間のように過ごすことで人間のことが少しわかるかもしれない。
だが真っ暗な外へ出たとたんに速攻で後悔した。寒すぎる。こんなに寒い中わざわざ阿保狐のところまで登って参るなど正気の沙汰ではない。正解はこたつの中で丸くなって眠ること一択ではないだろうか。
「オレ、帰りたい」
「まだ参拝してもないよ?」
寿也が苦笑している。貸してくれたマフラーや分厚い上着、手袋をもってしても寒くて鈴は笑い返すどころではない。
「浅見さん、寒がりなんじゃな。あの、カイロあるから使うてくんない」
母親と一緒に歩いていた寿花が振り返り、おずおずと近づいてきて鈴に何かを渡してきた。思わず受け取るとそれはとても温かい。
「あ、たたか、い。……ありがとうございます、寿花、さん」
「い、いえ」
すずを強引に抱き上げたりしてきた寿花は何故か妙に大人しい様子でまた母親のそばへ走っていってしまった。怪訝に思い、貰ったカイロを握りしめながら鈴は寿也を見る。
「はは。寿花のやつ、緊張してるんだよ」
「……え? まさかオレがあやかしだって……?」
「まさか。そうじゃなくて鈴がカッコいいから照れてるんだと思う」
「オレ、カッコいいの?」
「そんな見た目でも自分じゃわからないもんなんだな」
「うーん、というより、オレ、人間の見た目いまいちわからなくて」
カイロはとても温かい。ありがたくそれを上着のポケットに入れて同じく手を突っ込んだ。ますます温かい。歩きながら「猫ならわかるんだけど」と付け足す。
「そういうもの? あー、まあ確かに俺も猫の顔、自分が好きかどうかならわかるけど美醜まではちゃんとはわからないのかもな……」
「あ、でも最初の主だったりつこはめちゃくちゃ美人だったよ。それはわかる」
「そうなの?」
寿也がおかしそうに笑ってきた。
「何で笑うの?」
「ああ、ごめん。でも鈴が何か可愛くて。りつこさんのこと、好きだったんだな」
「うん。大好きだった。今でもきっと好きだよ。だから寿也も大好き」
コクコクと頷きながら言えば、寿也は複雑そうな顔をしながら「ありがとう」と頭を撫でてくれた。
「だから、ってのはちょっとわからないけど……」
確かに。だって寿也、りつこの生まれ変わりだって知らないもんな。人間にそういう生まれ変わりの理を言っていいのかオレ、わからないから言わないつもりなのに、つい当たり前みたいに言っちゃった。
「俺もすずが大好きだから、そう言ってもらえて飼い主としてすごく嬉しいけど……人間の姿で言われると何かこう、複雑な気持ちになるな」
おかしそうに言う寿也に「でも猫の姿だと伝えられないから」と鈴は笑いかけた。
莉津子の時にも伝えられていたらなと少し思ったりはする。だがこうして伝えられる今がある。十分幸せなことだと思う。
神社に到着すると、結構人がいた。今までどこにこんなに隠れていたんだと鈴は少し驚く。普段寿也と住んでいるところはたくさん人を見かけるし家らしき建物もたくさんあるが、この辺りは人を滅多に見かけない上に家もあるにはあるが密集していない。
「後で屋台回ろう」
「屋台?」
「うん。食べ物色々あるよ。向こうと違ってたくさんのテキ屋が来るんじゃなくて、地元の人らや会社が出してくれてる屋台だけどね」
「見てみたい」
「先に参拝してからね」
「……オレも行かないとダメ?」
「せっかくだからね」
寿也がまた苦笑した。多分寿也も九郎のことを思っての苦笑だろう。
渋々境内へ向かうと、チリッと何か嫌な気を感じた。慌てて周りを見るが、特に何も感じない。気のせいだろうかと歩き続けると、また少ししてから嫌な気に気づく。九郎は嫌な奴過ぎるが、これはそういったものではない。もっと悪意を感じる何かだ。
……猫又の姿は無理でも、せめて猫の姿に戻れたら。
人間の姿だとどうしても能力が低くなる。嫌な気に関しても猫の姿だったらもっと察知できるだろう。だが人がたくさんいる場所で猫に戻る訳にもいかなかった。
「そう言わず」
寿也が苦笑しながら宥めてくる。結局鈴は拗ねたような顔のまま渋々了承した。
どこへ行くかというとあの忌々しい鳴宮神社だ。今日は大晦日で、あと少ししたら年が明けるらしい。二百年以上生きている鈴からすれば一年が終わろうが始まろうが正直どうでもいいが、人間はやはり違うようだ。
「とは言っても海外はまた違うかもだよ」
寿也が言うには年末年始の過ごし方は国それぞれらしい。ただ日本では大抵クリスマスが終わると今度は年越しを祝い、年始を祝うらしい。宗教観もへったくれもない。
せっかくだからと鈴の姿にさせられて他の家族たちに改めて「友人」だと紹介され、共に年越しそばなるものを幸せな気持ちで食べた後、鳴宮神社へ参拝に行くと聞いて速攻すずに戻ろうとしたところで寿也に説得された。説得というほどではないが大好きな寿也から「すずのままなら置いていかないとだし、せっかく人間になれるのなら一緒に年を越そう」などと言われたら嫌だと言えなくなる。
何が悲しくて阿保狐を拝まなければならないのかと心底思うが、人間はそうするものだと言うのならそれに倣うのだけは悪くないのかもしれない。決して人間にはなれないけれども、人間のように過ごすことで人間のことが少しわかるかもしれない。
だが真っ暗な外へ出たとたんに速攻で後悔した。寒すぎる。こんなに寒い中わざわざ阿保狐のところまで登って参るなど正気の沙汰ではない。正解はこたつの中で丸くなって眠ること一択ではないだろうか。
「オレ、帰りたい」
「まだ参拝してもないよ?」
寿也が苦笑している。貸してくれたマフラーや分厚い上着、手袋をもってしても寒くて鈴は笑い返すどころではない。
「浅見さん、寒がりなんじゃな。あの、カイロあるから使うてくんない」
母親と一緒に歩いていた寿花が振り返り、おずおずと近づいてきて鈴に何かを渡してきた。思わず受け取るとそれはとても温かい。
「あ、たたか、い。……ありがとうございます、寿花、さん」
「い、いえ」
すずを強引に抱き上げたりしてきた寿花は何故か妙に大人しい様子でまた母親のそばへ走っていってしまった。怪訝に思い、貰ったカイロを握りしめながら鈴は寿也を見る。
「はは。寿花のやつ、緊張してるんだよ」
「……え? まさかオレがあやかしだって……?」
「まさか。そうじゃなくて鈴がカッコいいから照れてるんだと思う」
「オレ、カッコいいの?」
「そんな見た目でも自分じゃわからないもんなんだな」
「うーん、というより、オレ、人間の見た目いまいちわからなくて」
カイロはとても温かい。ありがたくそれを上着のポケットに入れて同じく手を突っ込んだ。ますます温かい。歩きながら「猫ならわかるんだけど」と付け足す。
「そういうもの? あー、まあ確かに俺も猫の顔、自分が好きかどうかならわかるけど美醜まではちゃんとはわからないのかもな……」
「あ、でも最初の主だったりつこはめちゃくちゃ美人だったよ。それはわかる」
「そうなの?」
寿也がおかしそうに笑ってきた。
「何で笑うの?」
「ああ、ごめん。でも鈴が何か可愛くて。りつこさんのこと、好きだったんだな」
「うん。大好きだった。今でもきっと好きだよ。だから寿也も大好き」
コクコクと頷きながら言えば、寿也は複雑そうな顔をしながら「ありがとう」と頭を撫でてくれた。
「だから、ってのはちょっとわからないけど……」
確かに。だって寿也、りつこの生まれ変わりだって知らないもんな。人間にそういう生まれ変わりの理を言っていいのかオレ、わからないから言わないつもりなのに、つい当たり前みたいに言っちゃった。
「俺もすずが大好きだから、そう言ってもらえて飼い主としてすごく嬉しいけど……人間の姿で言われると何かこう、複雑な気持ちになるな」
おかしそうに言う寿也に「でも猫の姿だと伝えられないから」と鈴は笑いかけた。
莉津子の時にも伝えられていたらなと少し思ったりはする。だがこうして伝えられる今がある。十分幸せなことだと思う。
神社に到着すると、結構人がいた。今までどこにこんなに隠れていたんだと鈴は少し驚く。普段寿也と住んでいるところはたくさん人を見かけるし家らしき建物もたくさんあるが、この辺りは人を滅多に見かけない上に家もあるにはあるが密集していない。
「後で屋台回ろう」
「屋台?」
「うん。食べ物色々あるよ。向こうと違ってたくさんのテキ屋が来るんじゃなくて、地元の人らや会社が出してくれてる屋台だけどね」
「見てみたい」
「先に参拝してからね」
「……オレも行かないとダメ?」
「せっかくだからね」
寿也がまた苦笑した。多分寿也も九郎のことを思っての苦笑だろう。
渋々境内へ向かうと、チリッと何か嫌な気を感じた。慌てて周りを見るが、特に何も感じない。気のせいだろうかと歩き続けると、また少ししてから嫌な気に気づく。九郎は嫌な奴過ぎるが、これはそういったものではない。もっと悪意を感じる何かだ。
……猫又の姿は無理でも、せめて猫の姿に戻れたら。
人間の姿だとどうしても能力が低くなる。嫌な気に関しても猫の姿だったらもっと察知できるだろう。だが人がたくさんいる場所で猫に戻る訳にもいかなかった。
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