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25話
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結局姿を確認できないまま、参拝も終えて皆でぶらぶらと屋台に立ち寄りつつ初詣を終えた。せっかくの屋台も落ち着かないせいで鈴は堪能できなかった。
九郎は姿を現さなかった。寿也が家族と一緒にいるのを確認して、鈴は少し戻って境内近くにいた九郎の眷属であろう狐に聞くと「九郎様は忙しいのだ」という答えが返ってきた。
「お前、人間じゃないな」
狐は忌々しそうに鈴を見てくる。
「わかるのか?」
「人間らしくないからね。それにだいたい普通の人間は普段の私たちの姿は見えないよ。……もしかして化け猫か? 猫臭い」
「猫又」
「ふん。何にせよ猫の分際で私に気安く口利くでないよ」
「九郎の眷属ごときがオレに偉そうに言ってくるな」
思い切り睨み合っていると別の狐がやってきた。
「おい、この忙しい時にしなくていい喧嘩してんじゃないよ」
「だってこいつ、生意気」
「気をつけろ、こいつ多分九郎様のお気に入りの化け猫だよ。おいお前。九郎様は祈祷してくる人間の対応に忙しいんだ。とっととここから出ていくんだな」
「言われなくとも」
「あとお前も気をつけろ。こいつなんて可愛いもんだってくらい九郎様に懐いている野狐がいる。そいつはまだただのあやかしだからお前やトシヤって人間を祟ってくるぞ」
「……さっきの嫌な気はそいつか……どこにいるんだよ」
舌打ちしながら鈴が聞くも「知るか」と素っ気ない返事しかない。
「そいつのこと、知ってるんだろ」
「私たちもそいつとはあまり関わりたくないんだ。ここ最近どこからともなく迷い込んできたあやかしでね。九郎様の悪い癖だよ。面白そうだってだけでヤバそうなものすら受け入れる。懐が深いお方だから仕方ないんだろうけどあいつは人間のことも嫌いなんだよ。そんなやつをこの神社で受け入れられる訳ないだろう」
「……くそ」
「とりあえずこの神社に近づかないことだね」
言われなくとも、とまた言い返そうとして鈴は一旦言葉を飲み込んだ。最初に応対してきた狐と違って、もう一匹の狐はまだちゃんと教えてくれた。
「……教えてくれてありがとう」
「……いや。何だい、猫でもお礼言えるやつ、いるんだね」
鈴は歩き出したが後ろで最初の狐が「あんなの猫被りってだけだよ」などと言っているのか聞こえた。
寿也の匂いを辿って鈴が戻ると「いた! もう、心配しただろ」と寿也に優しく叱られた。
「ごめんなさい。寿也の家族は?」
「先に帰ってもらったよ。混雑してるし、いくら鈴でも迷ったらどうしようって心配したんだからな」
「うん。ありがとう、寿也。はぐれないよう、寿也の手、握ってていい?」
境内からは離れたが、まだ鳴宮神社の敷地内だ。鈴こそ心配なのでそばで守っていられるよう言えば何故か微妙な顔をされた。
「どうかした?」
「……人間はあまり大人の男同士で手は握らないんだよ、鈴」
「そうなの? じゃあ……」
「でもできれば鈴は女の子の姿にならないでね。余計俺が混乱するから」
「大丈夫、オレは自分の性別はっきりしてるし、どのみち今のところこの姿にしかなれないよ。そうじゃなくて、寿也の服つかむくらいならいい?」
「……まぁ、うん」
まだ少々微妙そうだったが頷いてくれたので、鈴は寿也の上着をつかんだ。とはいえ、たかだか二百年ほど生きているだけの猫のあやかしには大して特殊な力は使えない。おまけに人間の姿ではせいぜい自分や自分が触れているものなどに対して薄い結界を張るくらいしかできない。多分奏流も鈴と大して違わないだろう。だが九郎は違う。阿保狐のくせに何千年と生きている九尾狐がどれほどの力を持っているのかは計り知れないが、鈴と比べものにならないことくらいはわかるし、それがまた忌々しい。その忌々しい阿保狐に今だけは会いたかったと思わざるを得ないことも忌々しかった。
気を張りながら歩いていると、山の中というのもあり先ほどの賑わいが嘘のように人気がほぼない場所でまた先ほどの嫌な気を感じた。だが相変わらず気配の元を探ることすらできず、鈴は唇を噛みしめ、寿也の服を握る力を強めた。
次の瞬間、とてつもなく不快な何かを感じ、鈴は思い切り自分の持てる力を込めた。電流が体を流れたかのような痛みを感じ「ギャッ」と思わず叫んだ。
「っすずっ?」
寿也が驚いた様子で振り返ってきた。そして黒猫の姿に戻っているすずを見て心配そうに困惑している。
「大丈夫、何でもないよ。早く帰ろう」
そう放つ言葉は既に寿也にとっての「ニャー」としか言えない。鈴の姿に戻ろうにも力が出なかった。すずはとりあえず必死になって寿也のズボンの裾に噛みつき、思い切り引っ張る。すずの様子に違和感を覚えたのか、それとも何か察してくれたのか、寿也はズボンからすずを放すと抱え上げてきて、急ぎ足で山を下りてくれた。
嫌な気はしばらくまだ無くならなかったが、幸い手を出せるぎりぎりの距離だったのか、あの後は何もないままだった。
家に辿り着くと心底ホッとしたすずだったが、安心している場合ではなかった。夜中から寿也は高熱にうなされ出し、朝になっても熱は引くことがなかった。寿也の親は心配しつつも「寒かったし風邪もろうたんやろうねえ」などと言っていたがすずは絶対に違うと確信していた。
九郎は姿を現さなかった。寿也が家族と一緒にいるのを確認して、鈴は少し戻って境内近くにいた九郎の眷属であろう狐に聞くと「九郎様は忙しいのだ」という答えが返ってきた。
「お前、人間じゃないな」
狐は忌々しそうに鈴を見てくる。
「わかるのか?」
「人間らしくないからね。それにだいたい普通の人間は普段の私たちの姿は見えないよ。……もしかして化け猫か? 猫臭い」
「猫又」
「ふん。何にせよ猫の分際で私に気安く口利くでないよ」
「九郎の眷属ごときがオレに偉そうに言ってくるな」
思い切り睨み合っていると別の狐がやってきた。
「おい、この忙しい時にしなくていい喧嘩してんじゃないよ」
「だってこいつ、生意気」
「気をつけろ、こいつ多分九郎様のお気に入りの化け猫だよ。おいお前。九郎様は祈祷してくる人間の対応に忙しいんだ。とっととここから出ていくんだな」
「言われなくとも」
「あとお前も気をつけろ。こいつなんて可愛いもんだってくらい九郎様に懐いている野狐がいる。そいつはまだただのあやかしだからお前やトシヤって人間を祟ってくるぞ」
「……さっきの嫌な気はそいつか……どこにいるんだよ」
舌打ちしながら鈴が聞くも「知るか」と素っ気ない返事しかない。
「そいつのこと、知ってるんだろ」
「私たちもそいつとはあまり関わりたくないんだ。ここ最近どこからともなく迷い込んできたあやかしでね。九郎様の悪い癖だよ。面白そうだってだけでヤバそうなものすら受け入れる。懐が深いお方だから仕方ないんだろうけどあいつは人間のことも嫌いなんだよ。そんなやつをこの神社で受け入れられる訳ないだろう」
「……くそ」
「とりあえずこの神社に近づかないことだね」
言われなくとも、とまた言い返そうとして鈴は一旦言葉を飲み込んだ。最初に応対してきた狐と違って、もう一匹の狐はまだちゃんと教えてくれた。
「……教えてくれてありがとう」
「……いや。何だい、猫でもお礼言えるやつ、いるんだね」
鈴は歩き出したが後ろで最初の狐が「あんなの猫被りってだけだよ」などと言っているのか聞こえた。
寿也の匂いを辿って鈴が戻ると「いた! もう、心配しただろ」と寿也に優しく叱られた。
「ごめんなさい。寿也の家族は?」
「先に帰ってもらったよ。混雑してるし、いくら鈴でも迷ったらどうしようって心配したんだからな」
「うん。ありがとう、寿也。はぐれないよう、寿也の手、握ってていい?」
境内からは離れたが、まだ鳴宮神社の敷地内だ。鈴こそ心配なのでそばで守っていられるよう言えば何故か微妙な顔をされた。
「どうかした?」
「……人間はあまり大人の男同士で手は握らないんだよ、鈴」
「そうなの? じゃあ……」
「でもできれば鈴は女の子の姿にならないでね。余計俺が混乱するから」
「大丈夫、オレは自分の性別はっきりしてるし、どのみち今のところこの姿にしかなれないよ。そうじゃなくて、寿也の服つかむくらいならいい?」
「……まぁ、うん」
まだ少々微妙そうだったが頷いてくれたので、鈴は寿也の上着をつかんだ。とはいえ、たかだか二百年ほど生きているだけの猫のあやかしには大して特殊な力は使えない。おまけに人間の姿ではせいぜい自分や自分が触れているものなどに対して薄い結界を張るくらいしかできない。多分奏流も鈴と大して違わないだろう。だが九郎は違う。阿保狐のくせに何千年と生きている九尾狐がどれほどの力を持っているのかは計り知れないが、鈴と比べものにならないことくらいはわかるし、それがまた忌々しい。その忌々しい阿保狐に今だけは会いたかったと思わざるを得ないことも忌々しかった。
気を張りながら歩いていると、山の中というのもあり先ほどの賑わいが嘘のように人気がほぼない場所でまた先ほどの嫌な気を感じた。だが相変わらず気配の元を探ることすらできず、鈴は唇を噛みしめ、寿也の服を握る力を強めた。
次の瞬間、とてつもなく不快な何かを感じ、鈴は思い切り自分の持てる力を込めた。電流が体を流れたかのような痛みを感じ「ギャッ」と思わず叫んだ。
「っすずっ?」
寿也が驚いた様子で振り返ってきた。そして黒猫の姿に戻っているすずを見て心配そうに困惑している。
「大丈夫、何でもないよ。早く帰ろう」
そう放つ言葉は既に寿也にとっての「ニャー」としか言えない。鈴の姿に戻ろうにも力が出なかった。すずはとりあえず必死になって寿也のズボンの裾に噛みつき、思い切り引っ張る。すずの様子に違和感を覚えたのか、それとも何か察してくれたのか、寿也はズボンからすずを放すと抱え上げてきて、急ぎ足で山を下りてくれた。
嫌な気はしばらくまだ無くならなかったが、幸い手を出せるぎりぎりの距離だったのか、あの後は何もないままだった。
家に辿り着くと心底ホッとしたすずだったが、安心している場合ではなかった。夜中から寿也は高熱にうなされ出し、朝になっても熱は引くことがなかった。寿也の親は心配しつつも「寒かったし風邪もろうたんやろうねえ」などと言っていたがすずは絶対に違うと確信していた。
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