金の鈴

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41話

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 寿也は駄目だと思う。

 すずは心底不満げに目つきを悪くさせながらのそのそと歩いていた。時折どこかへ飛び乗るとリンッと首輪の鈴の音がする。人間の姿なら平淡な道を歩くが、猫の姿ならどこを歩こうが構わないと近道を行く。人間の姿でも本物の人間よりは身体能力は高いが、あの姿で塀の上や屋根などにジャンプして移動していたら通報されるか、よくて撮られて動画とやらに上げられる。
 以前奏流が寿也の家に鬱陶しくも遊びに来ていた時、奏流が持ってきたファーストフードのハンバーガー、それも奏流の分を勝手に猫の口と手で包み紙を破いて食ってやっていたら携帯電話とやらで見たくもないというのに見せてきた。そこでは何やら見知らぬ猫が小さいながらもテレビのように動いていた。

「これは可愛いものだけどさ、変なもの見つけたら今って即撮られてアップされるからすずちゃんも気をつけようねえ」

 そんなことを言ってきて、寿也に「変なものって言った後すずに気をつけろってどういう意味だよ失礼だな」と憤慨されていた。それに対して奏流は「いやぁ、すずちゃんが俺の分のハンバーガーだけ食い散らかしてきたから注意してみただけだよ」とニコニコする。ちなみに寿也がフィッシュバーガーで奏流はビーフパテのバーガーだ。前もそうだった。猫は魚が好きなどと、この国の人間は思っているようだがあいにくというか、少なくともすずは肉のほうがいい。

「行儀悪いし、そもそも猫の体にハンバーガーは駄目っぽいでしょ」
「その流れだと動画撮ってアップする犯人お前になるだろ」
「えぇ、俺はそんなことしないよーまあすずちゃんの愛くるしい姿を撮るくらいならいくらでもしてもいいけど」
「撮ってもいいけどアップするなよ」
「しないって。じゃあ撮ってあげようね、すずちゃん」
「シャーッ」

 奏流が撮ろうとしてきたのですずは威嚇しながら爪で奏流の手を攻撃しておいた。
 実際のところ、奏流がハンバーガー惜しさにそんなことを言ってきたのか、すずに正体がバレるようなとこを撮られないようにと教えてきたのかはわからない。だが一応心に留めておこうとはこっそり思った。
 それもあって人間の姿の時も猫の姿の時もらしくなさそうな言動はしないよう以前よりもさらに気をつけてはいる。今も本当ならもっと楽に素早く移動できるのを堪えて散歩中の猫らしく、のそのそ歩いていた。おかげで余計なことを考えてしまう暇だらけだ。

 寿也は駄目だと思う。

 そう思うのは何も今に始まったことではないし、寿也自身を駄目だと貶しているのでも完全否定しているのでもない。ただ油断し過ぎだし警戒心が今一つ、足りない。
 いくら正体がわからないにしても、あんなあからさまに怪しい男に対して、カフェで何度か見ている店員だとしても流されるだけ流されて友だちになる必要がどこにあるというのか。

 あのクソ犬猿。

 別に犬でも猿でもないが、人間でもない男に対してすずは悪態をつく。ついでに九郎に対しても悪態をつきたい。
 確かに多少なりとも危険であろう力を持つあやかしは九郎の存在を匂いで感じ、寿也に気づいても下手に近寄ってこないだろう。だが力の弱いあやかしはむしろ九郎の力に魅かれる可能性があるとあの男ではっきり実感した。
 ようやく例のカフェまで来るとすずは鼻息をふんと鳴らしながらこのままの姿でいるか人目につかなさそうなところで人間になるか考える。万が一見られてしまう危険を考慮すれば断然猫のままがいいのだが、店内それも飲食店に猫が入り込むのを人間はよしとしてくれない。猫だらけや犬だらけのカフェだってあるというのに理解できないが、もしかしたらいたるところにすずのような猫がいれば可愛さが気になって食事に集中できないからかもしれないなどと考えている。
 じっと出入り口の前で見上げながら考えていると「見て、あの猫ちゃん入りたいのかな」という声が聞こえてきた。あまり目立ちたくないのでちらりと振り返った後、すずはその場から少し移動した。せっかく寿也が大学へ行っている間に文句と警告、要は喧嘩を売りに来たというのに埒が明かない。どうしようかとまた考えていると「あ」っという声が聞こえた。また何やら人間がすずを見てきたのかと面倒くさげに振り返るとそこに例の男がいた。
 驚いた様子ですずを見ている男に、すずはすかさず走り寄り、まずは挨拶だと覚の足首あたりをズボンの上から噛みついてやった。

「っいた! ちょ、あの時の猫又だろ! 何するんだ!」
「公衆の面前で猫又とか言うな阿保覚」

 シャーッと威嚇すると覚は「と、とにかく俺は今から仕事なんだ。帰ってくれ」と言いながら慌てて先ほどの出入り口とは違うドアへ向かおうとした。

「お前に話があるんだよ。どうせオレが猫の姿でも何言ってんのかどころか何考えてんのかわかるんだろけど、オレが、お前に、話があるんだ。時間作れ」
「……なんて偉そうなチビ助なんだ……」
「は? チビ? 人間の姿見ただろうが。オレはチビどころか背、お前より高かったぞ。というかその辺の人間よりも高い!」
「でも今はちっちゃいだろ」
「猫の中でも別にチビってほどでもないんだよ! つか、それはどうでもいい」
「そうだな。じゃあ俺、仕事あるんで」

 改めてドアへ向かおうとした覚の足首辺りをすずはまたがぶりと噛む。

「だからいったぃ……! クソ、暴力反対」
「猫の姿だと手でつかまれないし仕方ないだろ」

 ふふん、と得意げに言ってやると忌々しそうに覚が見下ろしてきた。
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