金の鈴

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42話

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 人間と猫ではどうしたって見下ろされてしまうのは仕方ないが、覚に見下ろされるのは嬉しくないと思いながらすずは繰り返した。

「時間。作れ」

 すると覚がため息ついてから口を開く。

「……わかったよ。じゃあ俺、八時に終わるから、その後で……」
「その時間はオレ、寿也と一緒に過ごす時間だから」
「作れって言ってきたのそっちのくせにわがままだな……!」
「お前、どこに住んでんだ?」
「敵意むき出しの猫又に教えると思ってんのか?」
「それもそうだな。仕方ない、じゃあ夜中の二時にここで」
「とてつもなく丑三つ時だろ……! 嫌だよそんな時間。第一寝てる」
「というかあやかしのくせに丑三つ時にびびるなよヘタレ駄犬」
「だから犬扱いやめろ。どの扱いの中でも犬は何よりは最悪だから」

 その時、少し離れたところを通りかかった人間が「あの人……一人で喋ってる?」「いや、猫がいるよ。あの人に向かって鳴いてる気がする。猫と喋ってんじゃない?」「どっちにしてもヤバくない?」などとひそひそ話しているのが聞こえてきた。普通の人間ならば聞こえないだろうが、あいにくすずだけでなく覚にも聞こえたようだ。

「クソ。このままだと俺が変なヤツ扱い受ける。わかったよ。二時にここ、というか来る途中に小さな公園あっただろ」
「あった」
「そこのブランコ辺りに二時」
「お前と遊ぶ気はないぞ」
「俺だってないんだよ……!」
「何イライラしてんだよ。苛つきたいのはこっちなんだけど」
「猫又、あんたのせいだよ!」

 黒い髪は少し長めなせいもあり、すずを見下ろしてくると前髪で目が少々隠れ気味になる。その合間から見える顔色が少し赤いように見えるのは通りがかりの人間に揶揄されたからだろう。カフェの店員をしている時髪が気にならなかったのはまとめてたか留めていたのだろうが、はっきり言って覚には全然興味がないのでどんな髪型をしていたかなどすずは全く覚えていない。今たまたま気づいた。

「鬱陶しい髪と目で見下ろしてくるなよ」
「……あんた性格悪いだろ。としやはよくあんたみたいなの飼ってくれてるよな」
「お前がオレの寿也を名前で呼んでくるなんてふざけた真似をする辺りも含めてきっちり話す。絶対遅れるなよ」
「あんたこそ!」

 思い切りすずに指をさしてきた覚はその時見えた腕時計の時間にアワアワとなり、悪態をつきながら慌てて店に入っていった。
 ほんの少し、本当にほんの少しだけ、すっきりとしたすずはそのまま散歩しながら家へ帰った。アルバイトはすずも寿也も今日は休みなので安心してドライフードをカリカリと食べ、うとうとと昼寝をする。そうすると寿也が帰ってくる足音が聞こえたのでぴょんと起き上がり、玄関まで駆けつけた。しばらくしたら寿也が玄関を開けてくる。

「おかえり寿也!」

 ニャーと鳴くと寿也も嬉しそうに「ただいま」と言ってくれる。猫の時は決して何を言っているのか理解されないが、言葉というか気持ちは今のように通じたりもする。もしかしたら単に習慣的な流れというだけかもしれないが、気持ちが通じていると思ったほうがすず的に嬉しいのでそう思っておく。
 ゴロゴロと喉を鳴らしながら寿也の足元にすり寄ると屈んで頭を撫でてくれた。その後着替えたり夕食の準備をしたりしている寿也にまとわりついたり、こたつに入って寿也が立てる物音を聞きながらうとうとして過ごした。そして人間の姿になって一緒に夜ご飯を食べた。
 夕食などを作る寿也を手伝おうとしたことはあるが基本的に遠慮される。最初の時も最終的にこたつの上を拭いて終わった。

「──猫の手も借りたいとかいう言葉あるけど、大丈夫。鈴はそうだな、こたつの上、拭いてて。俺、すごく鈴が拭いた机の上で食べたい」
「わかった」

 多分見様見真似で何とか人間の食事を作ってみたのだが、寿也が青い顔色をしながら「とても嬉しいけど鈴はしなくて大丈夫だからな」と言っていたので、作る過程か作った結果に何か原因があったのではないだろうか。寿也の喜ぶ顔が見れなくて残念だし至らない自分が残念だしで、鈴はとてつもなくがっかりした。だが鈴の表情を見てきた寿也はそれこそ何ともいえない表情をしていた。その後どこが駄目だったのか聞いてもはぐらかされた。

「こういうのは得手不得手あるからな。あと慣れもあるけどほら、鈴は基本猫だろ? だから慣れなくていいんだよ。猫の手も借りたいとかいう言葉あるけど──」

 なので仕方なく机の上を念入りに拭いて終わった。それから何度か挑戦しようとしても遠慮されるので、どのみちどうしても料理がしたいわけでもないのもあり甘んじてのんびりさせてもらっている。
 人間の姿のまま寿也にくっついて寝ようとすると何故か困惑されるので、眠る時は基本的に猫に戻る。今の時期はくっついて眠るのにとても最適だとすずは思う。布団の中も寿也の体もぬくぬくとして気持ちがいい。約束の時間になるまでうとうとするくらいに留めておくつもりが、あまりの心地よさに結構しっかり眠ってしまった。

「あんた……! 自分から言っておきながら、しかも絶対遅れるなとまで言っておきながらよく遅れて来られたな……!」

 夜中の二時を十五分ほど回った頃に公園に着くと覚が声を潜めながら大いに文句を言ってきた。
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