金の鈴

Guidepost

文字の大きさ
44 / 53

44話

しおりを挟む
 夜中であってもすずは日中と変わらず見えている。寿也の家へ帰る時も障害物を気にすることなく一刻も早く帰宅するため走った。
 人間の姿になるとやはり多少夜目は効かなくなるが、それでも本物の人間よりは見えていると思う。ただ猫の姿と違ってさすがに目の反射板を光らせるわけにいかないのでほんのわずかな光の量で十分とは言えない。ただその分視力は人間の姿のほうが断然いい。猫の視力は人間の姿に比べて相当弱いようだ。色もほとんど識別できない。猫と人間の姿両方になってみてわかるが、人間が赤に見えている色は緑に見える勢いだ。多分光を余裕で取り込める分、色を判断する力が弱いのかもしれない。
 そういった視力の弱さを動体視力で補っているので獲物を狩るのに苦労はないが、対象物が止まっていると一瞬見逃してしまうこともある。今は獲物を狩ることは基本ないものの、寿也が動かしてくる猫じゃらしとやらがいい例だ。すずの前で動かされるとすかさず反応してしまうし獲物ではないとわかっているのにともすれば倒してやろうとしてしまう。だが動かすのを止められると一瞬どこへ行ったのかわからなくなってしまって戸惑ってしまう。それを寿也は楽しそうに見てくるのだが、寿也が楽しそうなのは嬉しいながらもからかわれているみたいで面白くない時もある。ただ、一瞬見失うこともあるとバレるのは猫の弱点のような気がして寿也にもあえて口にしない。猫の時も興味を失った振りをしたりする。
 ちなみに猫は夜行性と思われているようだがそれは違う。どちらかというと日中というか、朝方や夕方が一番活動的になる。その時間が一番狩りに向いているからかもしれない。例えば夜間は鳥なども眠ってしまっているが、早朝になると活動を始める。猫はそれを狩る。そういった習性が大昔から培ってきて今の猫を形成しているのだとすずは思う。家猫にとっては関係ないことだろうが、習性だけに仕方がない。よって大抵の猫は朝の早い時間から起きて飼い主に餌をねだる。すずは最悪人間になれば勝手に何か食べられる。しかし鈴が台所で何かするのを寿也は警戒しているようなところもあり、正体をばらした今も寿也と一緒にゆっくり食事する時や会話をしたい時以外は基本的に猫の姿でいる。
 あと、夕方はあやかしであるすずにとって好きな時間帯でもある。昼から夜へ変わる時間だ。物事が変わる時には不安定な状況になりやすい。季節の変わり目などもそうではないだろうか。昼から夜へと移り変わる時も同じで、そこには不安定な何かが漂う。そういった状況や雰囲気を、あやかしは好む。正直、すずも好きだ。また昔の人間は夜を恐れていた。大した灯りもなく闇しかないため獣やそれこそあやかしを恐れていたし、不安定だからか人目を気にしないせいか人間自身の犯罪も多くなった。それらもあやかしの好む雰囲気でしかない。今の人間があやかしなどをあまり信じていないのはあまり「夜」にならないせいかもしれない。昼と変わらない勢いで明るく人々は活動的だ。
 朝方や夕方が基本一番活動的とはいえ、都会での野良猫にとっては夜のほうが安全かもしれない。なのでもしかしたら夜行性になるかもしれない。
 どのみち今日は早朝よりはもう少し遅めに起きようとすずは思う。覚のせいで眠い。
 いつも眠っている印象を持たれやすいが猫がしっかり睡眠をとっている時間はさほど多くない。大抵はうとうとしたりして休息をとっているだけだ。そうして体を休めることでいざという時にすぐ動けるようにしている。すずもそれは変わらない。だが今は眠かった。
 しかし目を覚ますとすでに寿也はいなかった。ついていないことに今日は朝から学校がある日だったようだ。朝の寿也との時間がなくなってしまった。それもこれも覚のせいだとすずは不機嫌な顔つきで寿也が置いてくれている餌を食べた。
 覚も日本のあやかしだ。元々は中国から来たとも言われていたりユキに中国のあやかしの話を聞いたこともあるが、覚に対するその辺の由来ははすずにとってどうでもいいのであまり知らない。特に大きな力を使って何かするわけではないが、相手の心を見透かすことができる。その能力を使って人間に悪戯をしかけたり、隙を見て食べたりする。
 孕ませる云々は由来元と言われている中国のカク猿というあやかしの所業だったりする。猿に似た見た目で人間の女をさらい、犯すらしい。ただし趣味ではなく自分たちの種族に雌がいないからで繁殖目的だとユキは言っていた。

「でもそんなだったらどんどん血が薄くなるっていうか違う生き物になりそうじゃない?」
「あやかしの血が濃いからそうはならないみたいだな」
「ふーん。中国ってキャラの濃いやつ、多いよね」
「きゃら? あいつら意外に美味しいよ」
「食べたの?」

 さすがというかユキ恐るべしとすずが唖然としながらユキを見ると鼻で笑ってきた。

「人間ぽいし。人間に化けた私につられてさらい、犯そうとしてきたやつを襲って殺したんだけどね、意外にいけた。化けるのが面倒なので一度しかしてないけどね」

 ユキ恐るべし。
 もう一度思いつつも、尊敬度も上がった。
 もし万が一覚が寿也に何かしたらユキに食べてもらおう。カク猿がいけるならそれに似た覚もいけるだろう。どのみち人間の肉は好みらしいしとすずはその時のことを思い出し、カリカリと餌を食べながら頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜

草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、 毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。 ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。 「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると…… 生えてきたのは植物ではなく、人間!? 咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。 人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、 家族、別れ、再生。 ほんのり不思議で、少しだけ怖く、 それでも最後には、どこかあたたかい。 人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。 あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか? またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...