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第一章 銀髪の侯爵令嬢
11話
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望んで手にした完璧な人生設計のはずだった。第一王子と結婚するということはすなわちいずれは王妃になるということだ。これ以上の玉の輿などあるはずもない。
イルナは唇を噛みしめた。
滅多に会えないフォルスとは、婚約発表の時にようやく少しではあるがゆっくり過ごす時間ができた。以前から整った顔の持ち主だなとは思っていた。間近で見てそれが控えめな言い方だったと改めて思えた。目を奪われそうなほど見事な金髪に吸い込まれそうな青の目は以前見かけた時よりもさらに魅力的に見えた。身長はそもそもフィールズ家の男たちが皆高身長なのもありそこまで高くは見えなかったが、もちろんそれなりにあるだろう。何よりスタイルがいい。おまけに第一王子だからと調子に乗ったところもなく噂通り真面目そうだ。少し堅そうにも見えるが、軽い頭の悪そうな感じよりは全然いいだろう。二人で少し話した時もそれなりに気遣いもあった。まだまだ親しいとは言えなかったが、それはこれからなっていけばいい。
ただでさえ玉の輿に有頂天だったイルナはますます嬉しく思えていた。だというのにリフィルナがこっそり会っているなどと、もし本当なら許せるはずがない。
リフィルナはそもそも眷属を持つ者だ。国から特別な地位すら与えられている。面白くないことではあるが、国が重宝する存在ともいえる。そんなリフィルナをもしフォルスが気に入ってしまったら、間違いなくイルナとの婚約を破棄し、リフィルナと改めて婚約するだろう。通常ならいくら王族とはいえ簡単に婚約破棄はできないだろうが、相手が眷属を持つ者なら話は別だろう。
そんなの……絶対に許さない。
噛みしめていた唇をさらにぎゅっと噛みしめると、イルナはふと名案が浮かんだ。
確かにリフィルナは見た目もいい。腹立たしいことだが、イルナがいくら着飾っても真似できない何かがリフィルナにはある。だが眷属さえいなければしょせんただの何もない少女に過ぎない。侯爵令嬢とはいえ、両親から邪険にされている、特に何も持たないただの少女だ。親の保証もないような令嬢に何の魅力があるというのか。
──そう、眷属をなくせばいいのだ。消せばいい。
数日後、買い物や茶会すら断ってずっとリフィルナの様子を窺っていたイルナは、リフィルナがこっそり馬車に乗ってどこかへ向かうらしいと気づいて同じく馬車で後をつけた。従者は少々渋っていたようにも見えたが、フィールズ家の者の命を聞けないはずもない。リフィルナの乗っている馬車を見失うことなく、町まで到着した。途中、馬に乗った騎士などを何人か見かけたが、おそらく何らかの仕事でもしているのだろうと特に気にも留めなかった。
どうやら待ち合わせをしていたらしいリフィルナはすぐに相手を見つけたようだ。相手は顔を隠すようにフードを被っていたが、イルナが見間違うわけがない。間違いなくあれはフォルスだった。
フォルスは優しげにリフィルナを見て微笑んでいた。そんな表情を、イルナは今まで一度も見たことがない。ぐっと手を握りしめたが、イルナは黙って二人の後をつけていた。二人は店を回っては何かを見たり、飲食店に入っては何かを食べたりとかなり楽しそうに見えた。
「イルナ様……イルナ様も何か召しあがったほうがいいかと」
侍女がおずおずと言ってきたがそれどころではない。イルナはイライラと「お腹が空いたのなら勝手に食べていらっしゃい」と侍女にいくらか持たせた。
「ですが私はイルナ様についていないと」
「煩い、口答えするの? 私は今、目を離せないの。それくらいわかるでしょう? 何もあなたまでそれに付き合えと言っていないじゃないの。いいから私の邪魔をするくらいなら勝手に食べていらっしゃい」
「で、ではイルナ様のお口に合いそうなものを何か見繕ってまいります」
じろりと言い返すと侍女は慌ててこの場から去っていった。イルナは二人の監視を続ける。
その後も二人はずっと楽しそうだった。だが夕方になり、ほんのり星がちらつき始めるとフォルスが空を見上げてから慌てたようにリフィルナに別れを告げ、立ち去っていった。リフィルナにとっても突然だったようで驚いているのが離れていてもわかる。イルナもいったい何事かと思ったが、とりあえず待っていた甲斐はあった。買い物中などは姿を消していたらしい、リフィルナの肩に乗っている白い蛇を睨みつけると、イルナはドレスに隠し持ってる小型ナイフを確認し、一歩足を踏み入れる。
だが何故かまたフォルスが戻ってきた。今度はイルナが慌てたように隠れる。今度こそ本当に何事かと様子を窺っていると、イルナは信じられない光景を見ることとなった。
あの真面目で堅そうなフォルスが剣をリフィルナに振り上げている。思わず目を閉じたイルナだったが、恐る恐る目を上げると剣が弾き飛んでいた。だがフォルスはまだ今にもリフィルナを殺そうとしているようにしか見えない。その様子に、眷属である白い蛇を殺そうと思っていたはずのイルナは怖くなり体を震わせた。蛇を殺そうと思っただけで、さすがに妹であるリフィルナ自身をどうこうしようとは思ったことすらなかった。
どうしたらいいのかと思っていると、フォルスの側近か騎士だろうか、何人かが二人に駆け寄り、どうやら事なきを得たようだ。
ホッとした後で安心したからかイルナはふと思いついた。
こんな出来事があったのだ。理由などは全くわからないが、リフィルナに「王家はあなたの命を狙っているのだ」と言い含めればいいのではないだろうか。だから王子に近づくな、と。
イルナは唇を噛みしめた。
滅多に会えないフォルスとは、婚約発表の時にようやく少しではあるがゆっくり過ごす時間ができた。以前から整った顔の持ち主だなとは思っていた。間近で見てそれが控えめな言い方だったと改めて思えた。目を奪われそうなほど見事な金髪に吸い込まれそうな青の目は以前見かけた時よりもさらに魅力的に見えた。身長はそもそもフィールズ家の男たちが皆高身長なのもありそこまで高くは見えなかったが、もちろんそれなりにあるだろう。何よりスタイルがいい。おまけに第一王子だからと調子に乗ったところもなく噂通り真面目そうだ。少し堅そうにも見えるが、軽い頭の悪そうな感じよりは全然いいだろう。二人で少し話した時もそれなりに気遣いもあった。まだまだ親しいとは言えなかったが、それはこれからなっていけばいい。
ただでさえ玉の輿に有頂天だったイルナはますます嬉しく思えていた。だというのにリフィルナがこっそり会っているなどと、もし本当なら許せるはずがない。
リフィルナはそもそも眷属を持つ者だ。国から特別な地位すら与えられている。面白くないことではあるが、国が重宝する存在ともいえる。そんなリフィルナをもしフォルスが気に入ってしまったら、間違いなくイルナとの婚約を破棄し、リフィルナと改めて婚約するだろう。通常ならいくら王族とはいえ簡単に婚約破棄はできないだろうが、相手が眷属を持つ者なら話は別だろう。
そんなの……絶対に許さない。
噛みしめていた唇をさらにぎゅっと噛みしめると、イルナはふと名案が浮かんだ。
確かにリフィルナは見た目もいい。腹立たしいことだが、イルナがいくら着飾っても真似できない何かがリフィルナにはある。だが眷属さえいなければしょせんただの何もない少女に過ぎない。侯爵令嬢とはいえ、両親から邪険にされている、特に何も持たないただの少女だ。親の保証もないような令嬢に何の魅力があるというのか。
──そう、眷属をなくせばいいのだ。消せばいい。
数日後、買い物や茶会すら断ってずっとリフィルナの様子を窺っていたイルナは、リフィルナがこっそり馬車に乗ってどこかへ向かうらしいと気づいて同じく馬車で後をつけた。従者は少々渋っていたようにも見えたが、フィールズ家の者の命を聞けないはずもない。リフィルナの乗っている馬車を見失うことなく、町まで到着した。途中、馬に乗った騎士などを何人か見かけたが、おそらく何らかの仕事でもしているのだろうと特に気にも留めなかった。
どうやら待ち合わせをしていたらしいリフィルナはすぐに相手を見つけたようだ。相手は顔を隠すようにフードを被っていたが、イルナが見間違うわけがない。間違いなくあれはフォルスだった。
フォルスは優しげにリフィルナを見て微笑んでいた。そんな表情を、イルナは今まで一度も見たことがない。ぐっと手を握りしめたが、イルナは黙って二人の後をつけていた。二人は店を回っては何かを見たり、飲食店に入っては何かを食べたりとかなり楽しそうに見えた。
「イルナ様……イルナ様も何か召しあがったほうがいいかと」
侍女がおずおずと言ってきたがそれどころではない。イルナはイライラと「お腹が空いたのなら勝手に食べていらっしゃい」と侍女にいくらか持たせた。
「ですが私はイルナ様についていないと」
「煩い、口答えするの? 私は今、目を離せないの。それくらいわかるでしょう? 何もあなたまでそれに付き合えと言っていないじゃないの。いいから私の邪魔をするくらいなら勝手に食べていらっしゃい」
「で、ではイルナ様のお口に合いそうなものを何か見繕ってまいります」
じろりと言い返すと侍女は慌ててこの場から去っていった。イルナは二人の監視を続ける。
その後も二人はずっと楽しそうだった。だが夕方になり、ほんのり星がちらつき始めるとフォルスが空を見上げてから慌てたようにリフィルナに別れを告げ、立ち去っていった。リフィルナにとっても突然だったようで驚いているのが離れていてもわかる。イルナもいったい何事かと思ったが、とりあえず待っていた甲斐はあった。買い物中などは姿を消していたらしい、リフィルナの肩に乗っている白い蛇を睨みつけると、イルナはドレスに隠し持ってる小型ナイフを確認し、一歩足を踏み入れる。
だが何故かまたフォルスが戻ってきた。今度はイルナが慌てたように隠れる。今度こそ本当に何事かと様子を窺っていると、イルナは信じられない光景を見ることとなった。
あの真面目で堅そうなフォルスが剣をリフィルナに振り上げている。思わず目を閉じたイルナだったが、恐る恐る目を上げると剣が弾き飛んでいた。だがフォルスはまだ今にもリフィルナを殺そうとしているようにしか見えない。その様子に、眷属である白い蛇を殺そうと思っていたはずのイルナは怖くなり体を震わせた。蛇を殺そうと思っただけで、さすがに妹であるリフィルナ自身をどうこうしようとは思ったことすらなかった。
どうしたらいいのかと思っていると、フォルスの側近か騎士だろうか、何人かが二人に駆け寄り、どうやら事なきを得たようだ。
ホッとした後で安心したからかイルナはふと思いついた。
こんな出来事があったのだ。理由などは全くわからないが、リフィルナに「王家はあなたの命を狙っているのだ」と言い含めればいいのではないだろうか。だから王子に近づくな、と。
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