闇に光を

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7話

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 びっくりした。

 息を切らせながら唯翔は自分の部屋に駆け込んでいた。
 朝はそれほどでもなかったのだが、スポーツドリンクを買いに出ると猛暑になっていた。戻ってきたら結構かいてる汗がさすがに気持ち悪かったので簡単にシャワーで流そうと思った。
 考え事をしていたのもあり、洗面所に着替えが置いてあることにも気づかなかったし浴室の音など耳に届かなかった。蒼羽もその時はただ湯船に浸かっているようだったから余計静かだったのかもしれない。

 ……思い切り素っ裸見られた……。

 唯翔も男だし蒼羽も男だ。そもそも兄弟だし昔は一緒に風呂へ入っていたこともある。
 それでも好きなのだと自覚したての唯翔にとって裸を見られるのは落ち着かない。

 俺、変なとこ、ねーよな……? でも体、そんな鍛えてないし、兄さんより情けない体だったりしたら……。

 そこまで考えたところで、頭の先まで熱くなった。ちゃんと全部くまなく見えた訳ではないが、見てしまった蒼羽の裸を意識してしまった。それこそ昔は風呂に入ったりで普通に見ていたし兄弟だし男なのに、ものすごく意識した。
 濡れて顔や首に張りついた髪から雫が落ちていた。綺麗な筋肉がついている腕はさすがに普段でも半袖から伸びているので知ってはいたが、上半身全体がほっそりとしているようでいて、案外筋肉がしっかりついていた。
 そして腕の毛がうぶ毛程度なのは何となく剃っているか何かなのかと頭のどこかで思っていたが、下腹部の辺りに生えているはずの毛も薄いことを初めて知った。

「……くそ……」

 最悪だと思った。こんなの、もう決定的ではないか。
 自室のベッド近くにへたり込み、唯翔は間違いなく反応している自身に泣きそうになる。

「こんなの……嫌だ……」

 片方の腕を上げ、顔の目の辺りを塞ぐかのようにその腕で覆った。
 気を紛らわせようにも、そこにしか、そして蒼羽の姿しか頭に浮かばない。
 空いているほうの手をそこへやると、スエットズボンどころか下着の中に手を入れる。そこは熱くて既に相当硬くなっていた。

 俺……兄さんで抜くの……?
 男なのに……兄さんなのに……抜くの……?

 嫌だと抵抗している自分は間違いなくいるのに、もう耐えられないし早く出したいと興奮している自分もいる。
 そのせいで、嫌だ嫌だと抗いながらも手を止めることはできなかった。先走った汁が垂れて手がぬるぬるとスムーズに動くことすら嫌悪しつつも堪らなく気持ちがいい。
 抵抗しているはずの脳内には今や先ほど見た蒼羽の体と、それに触れている自分しか浮かばなかった。

 駄目なのに。
 間違っているのに。

「ぁ、は……ぁ」

 もう、無理だ。でも嫌だ……。でも、もう──

「ゆい?」

 今にも達しそうだという時に、ドアをノックする音と共に蒼羽が唯翔の名前を呼ぶ声が聞こえた。その瞬間、射精した。

 ……死にたい。

 まだいなくならない蒼羽に「どっかいけ」と何とか声を荒らげないよう絞り出した。すると少しの間の後、蒼羽がドア越しに話しかけてきた。

「ゆい、何か気に触ったこと、俺したんだよな? ごめんな?」

 違う。むしろしなかった。頼ってくれないし甘えてくれない。弟だからと、風邪で弱っていても寄りかかってくれない。

「ごめんって言いつつも、俺、わかってなくて……。それもごめん。なぁ、俺、何したんだ? 言ってくれ。直すから」

 それでも兄さんは優しい……と唯翔は思う。
 もちろん、兄なのだ。高人に言われて確かにと思ったが、普通は弟が兄に頼ってくれないと腹を立てたりなどしないのだろう。だからきっとただひたすら唯翔の八つ当たりなのだ。
 ただ──

「今は話したくない」
「ゆい……」

 今、あんたで抜いてしまったんだよ……!

「……わかった……でも……」
「寝てろよ。風邪引いてんだから……その……スポドリ買ってきてるから……それ、飲んでおいて」
「っゆい……! っありがとう!」

 嬉しそうな声で蒼羽が礼を言ってきた。そして立ち去っていく足音が聞こえる。それでもしばらく息を飲んで固まっていた唯翔は、ようやく細く長い息を吐いた。

 ……最悪だよ。

 ほんのり半透明な白で濡れている自分の手を見ると、ますます情けない気持ちになってきた。

 兄さんで抜くなんて……。マジかよ……俺、マジかよ……。

 信じたくないが、手のひらが現実を訴えている。少し泣きそうな気持ちになりながら、唯翔はティッシュペーパーを取り、手と自分のものを拭った。

「……そうだ……シャワー……」

 買い物から家に帰って来た時点で汗だくだったが、部屋に入ってもエアコンをつけてないまま自慰をしたせいで、射精した付近だけでなく全身どろどろになっている気分だった。
 しばらくしてようやく、もそもそと着替えを改めて手にして唯翔は部屋を出た。恐る恐る他の場所を探りながら歩いたが、蒼羽はいないようだった。冷蔵庫を覗くとスポーツドリンクがなくなっている。多分もう部屋に引っ込んだのだろう。
 今合わせる顔がないので唯翔はホッとしながら浴室へ向かった。

「湯船……」

 シャワーだけのつもりだったが、蓋がしてあったので何気に開けると湯はまだ張ったままだった。

 ……これ、兄さんが浸かってたんだった……。

 そう思った後に誰ともなく、いや、自分の一部に悪態をつきたくなった。

「……何でまた勃つんだよ……!」
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