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16話
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思考が追いつかなすぎた。どういうことなのかわからない。
あれ、やっぱり俺、馬鹿なの?
そんな、それこそ頭の悪いことを思いながら、何故か激昂している唯翔をとりあえず宥めようとしていた。
おまけに「無理……兄さんの子どもかわいがるなんて無理」などとさらに訳の分からないことを言われて戸惑いしかない。
「絶対に嫌だ。兄さんは俺の……俺だけの兄さんなのに……絶対無理」
「え、あ? え、っと、あれ? あ……? も、しかして今俺、めちゃくちゃ兄として思われて……?」
「兄じゃない! 兄なんて思ってない!」
「えぇ……っ?」
その上やはり兄と思ってくれないのかとショックを受けたりしつつ戸惑っていると「わかれよ、好きだっつってんだよ!」と怒鳴られた。
やはり頭は悪いのかもしれない。何と喋ったのかわかっているはずなのに、その内容や意味が自分の中で浸透しない。
だが脳内の整理がつかずに唖然としていると、信じられないことにキスをされた。咄嗟のことにハッとなる。
先ほど言われた言葉が浸透しないまま、弟とキスをしているという事実だけが先行し、蒼羽は慌てて止めさせようとした。
待て待て待て待て……っ!
いやほんと待って、何これ?
しちゃ駄目だろ……っ?
男同士、いやその前に弟なんだそ、俺、駄目だろ……!
唯翔からされたということすら混乱のせいで脳に行き届かず、ひたすらキスを止めないとと焦った。だが気づけばしっかり壁に押しつけられ、中々逃れられない。
そのうちようやくだんだんと先ほどの言葉が蒼羽の中に浸透してきた。
好き、だと言った?
ゆいが?
誰を?
──俺?
そんなはずはない。聞き間違いだ、もしくはただ単に兄として好きだと言ったのだ。
浮わつきそうになる自分に別の自分が言い聞かせた後に「いや」と直ぐにまた自分で否定した。
兄として好きだと言われるだけでも嬉しい。だが聞き間違いでも勘違いでもない。
「……ぅ、ん」
何とか合間に息をした。
そう、だって今なお、キスをされている。
ほら、聞き間違えでも勘違いでも、ない、よな? こんなことって、あるのか? こんな奇跡、起きていいの?
もしかして俺、玄関へゆいを迎え出る時に滑って転んで頭でも打って気絶して夢でも見てる?
しかし夢ではない。だってこんな鮮明な夢を、今まで見たことがない。
唯翔のキスはとてもぎこちなかった。それでも必死になって蒼羽を求めるような気持ちが伝わってくる。
やっぱり夢な訳がない。
想像力に欠ける自分には、こんな必死でかわいい唯翔を例え夢でも想像できない。
もう、無理だろ……。
男だから弟だからといった蒼羽の中にあったブレーキが崩壊していく。
「っゆい!」
とうとう蒼羽は唯翔を引き離す。無茶苦茶な勢いでされていたキスのせいで乱れた息のまま、蒼羽は唯翔を見た。
唯翔は我に返って後悔でもしているのか俯いている。
今頃後悔なんて、許さない。兄とか弟とか、そんな枠を突き破ってきたのはお前だろ。
今度は蒼羽が唯翔をつかんだ。
違う。許さないどころかまず怒りなど、ない。むしろ感謝しかない。
よく見ると唯翔は真っ青だった。もしいくら頭に血が昇るなりしていても、どれほど勇気を出してくれたのだろうと思う。
「ゆい……」
「……兄さ……ごめ……」
「ゆい、ありがと……」
少し泣きそうにも見える唯翔を引き寄せ、今度は蒼羽からキスをした。唯翔は予想もしていなかったのか固まっている。
蒼羽は唯翔から「好きだ」と言われてキスをされた。そして今、自分がキスをして思う。
どれだけ唯翔は怖かっただろうか。唯翔の気持ちを知っている今でも蒼羽は唯翔にキスをする時、少し震えた。嬉しさや気持ちよさよりも何よりも、弟にキスをするという事実に恐れ戦き、震えた。
別に信心深くなんてない。それでも冒してはならない罪に苛まれそうになる。
「……っ、兄、さん……何で……」
だがそれでも好きだという気持ちが強かった。
「お前に言わせてごめん……俺もゆいが好き……めちゃくちゃ好き……」
キスをしながらも唯翔が息を飲むのがわかった。その唯翔の目から涙が零れる。
「ゆい、泣かないで」
「……俺が……? でも兄さんだって泣いてる」
俺? 俺も泣いてたの?
いつから泣いていたのだろう。自分では全然わからなかった。だが涙が出る理由は何となくわかる。
嬉しくて幸せで、だが怖くて辛くて。
「兄さん……兄さんが誰かに心奪われるのは絶対嫌だ……。でも……。俺、無理やりキスまでしておきながら、そんで好きって言ってくれて自分でもびびるくらい嬉しいんだけど……でも、いいのかな……俺と兄さん……いいの、かな……」
何が、何に、と言わなくとも蒼羽にはわかった。
家族に対して、世間に対して、この世のあらゆる倫理に対して──
蒼羽も同じく「いいのかな」と誰かに聞きたい。だが返ってくる反応は九割方「駄目に決まっている」「間違っている」だろう。
もしそう言われても「だよな。じゃあ好きになるの止める」などと頷けない。できるのなら昔からずっと唯翔に対して片思いを続けていない。
叶うはずのない思いだと思っていたものが信じがたいことに突然叶い、兄弟での恋を改めて実感して怖くなったが、それでも例えどんな罪悪感がのしかかろうと好きでいることは止められない。
諦めて新しい恋をなどと自分を誤魔化そうとしたが、本当にできるなんて思ってもいなかった。
「俺が……俺が、いいって言う」
「兄さん……」
「本当ならお前のためを思って俺は気持ちを誤魔化すべきだし、いいはずないだろって言うべきだろうけど……。でもゆい、お前も苦しかっただろ……」
「……うん」
「だからむしろいいよって言う。俺もゆいもお互い大好きなら、もうそれでいいだろ? 俺が言う」
俺が背負う。
「兄、さん」
再び唯翔からキスをしてきた。荒々しさはなくなったが、お互いの涙の味がした。
あれ、やっぱり俺、馬鹿なの?
そんな、それこそ頭の悪いことを思いながら、何故か激昂している唯翔をとりあえず宥めようとしていた。
おまけに「無理……兄さんの子どもかわいがるなんて無理」などとさらに訳の分からないことを言われて戸惑いしかない。
「絶対に嫌だ。兄さんは俺の……俺だけの兄さんなのに……絶対無理」
「え、あ? え、っと、あれ? あ……? も、しかして今俺、めちゃくちゃ兄として思われて……?」
「兄じゃない! 兄なんて思ってない!」
「えぇ……っ?」
その上やはり兄と思ってくれないのかとショックを受けたりしつつ戸惑っていると「わかれよ、好きだっつってんだよ!」と怒鳴られた。
やはり頭は悪いのかもしれない。何と喋ったのかわかっているはずなのに、その内容や意味が自分の中で浸透しない。
だが脳内の整理がつかずに唖然としていると、信じられないことにキスをされた。咄嗟のことにハッとなる。
先ほど言われた言葉が浸透しないまま、弟とキスをしているという事実だけが先行し、蒼羽は慌てて止めさせようとした。
待て待て待て待て……っ!
いやほんと待って、何これ?
しちゃ駄目だろ……っ?
男同士、いやその前に弟なんだそ、俺、駄目だろ……!
唯翔からされたということすら混乱のせいで脳に行き届かず、ひたすらキスを止めないとと焦った。だが気づけばしっかり壁に押しつけられ、中々逃れられない。
そのうちようやくだんだんと先ほどの言葉が蒼羽の中に浸透してきた。
好き、だと言った?
ゆいが?
誰を?
──俺?
そんなはずはない。聞き間違いだ、もしくはただ単に兄として好きだと言ったのだ。
浮わつきそうになる自分に別の自分が言い聞かせた後に「いや」と直ぐにまた自分で否定した。
兄として好きだと言われるだけでも嬉しい。だが聞き間違いでも勘違いでもない。
「……ぅ、ん」
何とか合間に息をした。
そう、だって今なお、キスをされている。
ほら、聞き間違えでも勘違いでも、ない、よな? こんなことって、あるのか? こんな奇跡、起きていいの?
もしかして俺、玄関へゆいを迎え出る時に滑って転んで頭でも打って気絶して夢でも見てる?
しかし夢ではない。だってこんな鮮明な夢を、今まで見たことがない。
唯翔のキスはとてもぎこちなかった。それでも必死になって蒼羽を求めるような気持ちが伝わってくる。
やっぱり夢な訳がない。
想像力に欠ける自分には、こんな必死でかわいい唯翔を例え夢でも想像できない。
もう、無理だろ……。
男だから弟だからといった蒼羽の中にあったブレーキが崩壊していく。
「っゆい!」
とうとう蒼羽は唯翔を引き離す。無茶苦茶な勢いでされていたキスのせいで乱れた息のまま、蒼羽は唯翔を見た。
唯翔は我に返って後悔でもしているのか俯いている。
今頃後悔なんて、許さない。兄とか弟とか、そんな枠を突き破ってきたのはお前だろ。
今度は蒼羽が唯翔をつかんだ。
違う。許さないどころかまず怒りなど、ない。むしろ感謝しかない。
よく見ると唯翔は真っ青だった。もしいくら頭に血が昇るなりしていても、どれほど勇気を出してくれたのだろうと思う。
「ゆい……」
「……兄さ……ごめ……」
「ゆい、ありがと……」
少し泣きそうにも見える唯翔を引き寄せ、今度は蒼羽からキスをした。唯翔は予想もしていなかったのか固まっている。
蒼羽は唯翔から「好きだ」と言われてキスをされた。そして今、自分がキスをして思う。
どれだけ唯翔は怖かっただろうか。唯翔の気持ちを知っている今でも蒼羽は唯翔にキスをする時、少し震えた。嬉しさや気持ちよさよりも何よりも、弟にキスをするという事実に恐れ戦き、震えた。
別に信心深くなんてない。それでも冒してはならない罪に苛まれそうになる。
「……っ、兄、さん……何で……」
だがそれでも好きだという気持ちが強かった。
「お前に言わせてごめん……俺もゆいが好き……めちゃくちゃ好き……」
キスをしながらも唯翔が息を飲むのがわかった。その唯翔の目から涙が零れる。
「ゆい、泣かないで」
「……俺が……? でも兄さんだって泣いてる」
俺? 俺も泣いてたの?
いつから泣いていたのだろう。自分では全然わからなかった。だが涙が出る理由は何となくわかる。
嬉しくて幸せで、だが怖くて辛くて。
「兄さん……兄さんが誰かに心奪われるのは絶対嫌だ……。でも……。俺、無理やりキスまでしておきながら、そんで好きって言ってくれて自分でもびびるくらい嬉しいんだけど……でも、いいのかな……俺と兄さん……いいの、かな……」
何が、何に、と言わなくとも蒼羽にはわかった。
家族に対して、世間に対して、この世のあらゆる倫理に対して──
蒼羽も同じく「いいのかな」と誰かに聞きたい。だが返ってくる反応は九割方「駄目に決まっている」「間違っている」だろう。
もしそう言われても「だよな。じゃあ好きになるの止める」などと頷けない。できるのなら昔からずっと唯翔に対して片思いを続けていない。
叶うはずのない思いだと思っていたものが信じがたいことに突然叶い、兄弟での恋を改めて実感して怖くなったが、それでも例えどんな罪悪感がのしかかろうと好きでいることは止められない。
諦めて新しい恋をなどと自分を誤魔化そうとしたが、本当にできるなんて思ってもいなかった。
「俺が……俺が、いいって言う」
「兄さん……」
「本当ならお前のためを思って俺は気持ちを誤魔化すべきだし、いいはずないだろって言うべきだろうけど……。でもゆい、お前も苦しかっただろ……」
「……うん」
「だからむしろいいよって言う。俺もゆいもお互い大好きなら、もうそれでいいだろ? 俺が言う」
俺が背負う。
「兄、さん」
再び唯翔からキスをしてきた。荒々しさはなくなったが、お互いの涙の味がした。
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