闇に光を

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17話

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 気づけば夏だというのに完全に冷えた体に、蒼羽が「っていうか風呂! 入ってこい!」と改めて言ってきた。仕方なく、ふわふわとする気持ちで唯翔は風呂へ向かった。

 本当に?
 本当に兄さんも俺のこと……好き? 
 思い詰めたような顔、してなかった?
 無理やり合わせてくれたとか、ない?

 ずっとふわふわとしていたが、風呂に浸かっているとそんな考えが浮かんでくる。

「玄関で何やってんだって話だよな」

 だが風呂から出てリビングにいた蒼羽におずおずと近づいていくと、照れたように笑われた。本当に本当なのかもしれない。

「う、うん……」

 ただ最近は少しましになっていたものの、兄との接し方に戸惑いが生じていた上に好きだと自覚させられたせいでぎこちない態度になりがちだった。からの突然の両思いに、恋愛経験値がマイナスを余裕で振り切っている唯翔としてはなおさらどう接していいのかわからない。
 そわそわとしているのがしかし思い切り出ていたのだろうか。同じく少し戸惑っているようだった蒼羽は優しい笑みを浮かべ、自分が座っているソファーの横をぽんぽんと叩いた。

 座れってこと、だよな……?

 警戒する理由なんてないし、そもそも警戒する相手でもない。だが気持ちの上で警戒にも似た反応になりながら唯翔はじりじりと近づいて行った。

「なんだよ、取って食ったりしねーよ」

 あはは、と笑った後にだが蒼羽の目の下が赤くなる。

 兄さんもぎこちなくなってる……?

 一時期はいつ見ても連れている女が違っていたくらいだというのに、唯翔に対してそんな反応をしてくれているのだと思うと一気に戸惑いが消え、嬉しさが広がった。ソファーに座ると唯翔は蒼羽にすり寄った。

「……兄さん。好き」
「お、おう」
「取って食うのは俺がしたい」
「おう。……って、え? そうなの?」

 頷いた後に蒼羽が唖然とした顔を向けてきた。
 蒼羽が必要以上に兄であろうとしている気は前からしていた。もちろん、甘えてくれないと憤りを感じるのは唯翔のただの八つ当たりみたいなものだ。だが、いくら兄でも年の近い兄弟ならもっと殴りあいの喧嘩だって多い気がする。
 とはいえ今思えば蒼羽も意識し、悩んでいたからこそ、必要以上に「兄」であれと思っていたのかもしれない。

 だったら──

「俺が兄さんの隅から隅まで食べるから、兄さんは俺に甘えて……」
「……は……」

 蒼羽の顔がみるみる赤くなる。

「お前、ほんとにゆい? 俺の弟?」
「……そうだけど……」
「俺のゆいはいつからそんなこと言っちゃえる男の子になってたの」

 そんな変なことを言ってしまっただろうかと唯翔は首を傾げた。もしかしたら普段あまり喋らないから驚いているのだろうか。それとも自分は何か恥ずかしくなるようなことでも言ってしまったのだろうか。

 ……兄さんの言葉を受けて、それなら俺のほうがって思ったから返しただけなんだけど……。

「そんなかわいく首傾げて!」
「……は? 俺のどこ見てかわいいとか言えんの……兄さんのほうがよっぽど恥ずかしい」
「待て、よっぽどって! 俺は恥ずかしいなんてお前に対して一言も言ってないけど……!」

 そんなことを言い合っていると笑いが込み上げてきた。蒼羽も同じらしく、二人で顔を合わせて笑う。そのままどちらともなく引き寄せ、またキスをしていた。
 蒼羽のキスはやはり上手いと思う。今までの付き合いを見てきているので今さらキスが上手いことにさほど嫉妬はしない。だが唯翔が拙いだけに、恥ずかしいと言えばそれが恥ずかしいかもしれない。
 だからと言って、今までに無理やり誰かと付き合っておけばよかったとは思わない。そんなことをするくらいなら下手くそなまま、したいように蒼羽にキスをする。
 しばらくキスを続けていると、当たり前かもだが興奮してきた。

 ってこれ、どーすんの……?

 とりあえずお互い好きでキスもしてるしで、付き合うことになったんだよなと唯翔は内心挙動不審な勢いで焦る。兄弟で改めて「付き合う」というのも何となく変な気がするが、そもそも多分普通は兄弟同士で好きにならないだろう。

 付き合ってんなら、やらしーこともする?
 あり?
 なし?

 したいかしたくないかと聞かれればしたい。日々淡白に生きているが性欲は人並みにある。

 でも、兄さんにしちゃって、ほんとにいいのか……?

 ドキドキとしていると、蒼羽が最後に軽く唯翔の下唇を咥えてきた後に引き離してきた。

「そろそろ終わり」

 ああ、なしか。

 がっかりしていると蒼羽がニッコリ微笑んできた。

「もーすぐしたら母さん帰ってくるもんな。卒倒するかもだろ。お腹の赤ちゃんによくなさすぎ」

 あ、そっち……!

「う、ん」

 それにしても蒼羽は落ち着いている感じがする。たまに唯翔と同じように所在なさげな風に見えたりもするが、キスも上手いしやはりこういったことに慣れているのだろうかと唯翔は思った。

 こんなで俺、甘えてもらえんのかな。

 少なくとも前のように甘えてくれないからと拗ねて殴り、家を飛び出すといった情けないことだけはしないようにしようと唯翔は心に誓った。
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