ドラマのような恋を

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20話

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 気づけば眠っている奏真を、葵はそのまま眠らせておいた。元々何かしようと企んでいたのではない。もちろんできるなら何だってしたいが、無理やりするつもりは葵にない。二人きりになれるだけでも儲けものだと思っているので、葵は引き続き台本を読んでいた。
 そろそろ夕映え時が近づいているのだろうかと思っていると「それ……」という声が聞こえてきた。葵は頭を上げて奏真を見る。

「お、目が覚めたのか。気分はどうだよ」
「……、うん。大丈夫」

 奏真はまだぼんやりしつつも怪訝そうな顔しながら答えてきた。

「……考えねーとわかんねえのかよ」
「……それ、何かの台本?」

 葵の言葉に少しむくれたような顔になりながら、奏真が台本を指差してくる。その後もしばらくそれについての話が続いた。いつもならすぐ気もそぞろになって話を聞かないで何か食べているというのに珍しいと葵は内心かなり驚いていた。思わずベッドに寛いで横たわる奏真のそばへ行くと、マットレスに腰を下ろした。

「珍しくお前にしちゃ、反応いいな。いつもならお前の脳はどーなってんだよって勢いで食いもんのことだけだってのにな。どういう風の吹き回しだよ」
「……まだお腹いっぱいだし」
「……なるほどな」

 やはり奏真は歪みなかった、と葵は微妙な気持ちになる。ふと頭に浮かんだ言葉を深く考えず口にすれば首を傾げられた。

「……それだと容量一杯ってことだから余計他のことに頭がいかなくないか。お腹が飽和状態なら分かるけど……」
「う、うるせぇ」

 やってしまった、と葵は内心動揺する。ちゃんと考えないで口にすると頭の悪さが露見しかねないというのに、ついやらかしてしまった。
 スポーツは得意だが、勉強に関しては昔から得意でない。それもあり、台本はもちろん何度も読むし極力色んな情報や知識は取り入れるよう心がけている。頭のよくなさを努力でカバーしようとしているわけだが、たまにこうしてミスする。
 バンドメンバーの特に柑治や風太は一応これでも遠慮のない関係ということもあり、そういった葵をからかってきたりする。だが奏真はからかうどころか、あまりにも自然に流してきた。

「どんぶり対決、教えてくれて、それとつき合ってくれてありがとう」

 むしろ礼の言葉を口にしてくる。ただでさえ熱くなった耳がなおさら熱くなりそうだった。それを誤魔化そうと堪え、奏真を見る。驚いたのもあり、妙な顔でもしていたらしい。奏真が怪訝そうな顔で「……何」と聞いてきた。照れ隠しで「お前、礼とか言えんだな……」と言えば微妙な顔してくる。

「俺に対して基本的に失礼だから礼なんて言えねーやつだと無意識に思ってたわ」
「それを言葉濁さないで言ってくるあんたも大概だけど……」

 そして俺に対してそう返してくるお前もな。

 改めて、本当に珍しいやつだなと葵は思った。ただ、自覚した後も度々自分の気持ちが微妙に納得いかなくなるのだが、今は納得できた。

「何でだよ。間違ったこと言ってねーだろ。……あとそれに、言い間違いとか、……お前、馬鹿にしねーのな」
「……馬鹿に……? 何で」
「……いや、別に! つか、なあ、近づいていいか?」
「は? 何いきなり……別にいいけど……」

 怪訝そうに言われたが気にせず、葵はさらに近づいた。マットレスの軋む音が妙に緊張をかき立ててくる。手を伸ばし、葵真の頬にそっと添えた。柔らかな感触が指に伝わる。
 好きになってから見ても、奏真の平凡な顔は変わらない。突然目も覚めるような美形に見えたり、かわいらしさに驚くこともない。だが最初の頃思っていたように、肌は一般人というか奏真だけに恐らく絶対手入れなど適当そうでしかないにも関わらず、とても綺麗だと思った。
 葵が間近で触れているというのに、奏真の反応は相変わらずで、思わず「何でお前は気づかないんだろうな」と呟いていた。言ってしまったものは仕方ないとばかりにじっと奏真を見ると、戸惑った後に妙に納得したような顔をしている。

 これ、まさかまた俺の演技と思ってんじゃね?

 内心、葵は思った。そんな気がしてならない。いくらじっと見つめても迷惑そうな顔もせずに何かを考えている。
 そんな姿すら、かわいくて愛しく思える自分はもう末期なのだろうなと葵はため息つきたくなった。平凡な、しかもこちらに全く興味のない、それも男だというのに、このままできれば押し倒して全て頂きたくさえなる。
 だがむしろ込み上げる気持ちを隠すことなくひたすら奏真を見つめても、奏真はある意味真顔のまま何かを考えながら葵を見返している。

「……何でそんな無表情でじっと見返せんだろな、お前」
「……俺に言った?」
「むしろお前以外、誰に言うんだよ」

 本当にこいつは……いっそ肩をガタガタ揺さぶってやりたい。

 やはり奏真は葵が今エチュードをしているとでも思っていそうだ。前はそれをいいことに抱きしめたりしたが、よく考えなくともこれはよくない。葵が本気で気持ちを伝えても何か行動しても、全て演技だと思われては堪ったものではない。

 くそ、以前の俺は馬鹿か……。いやまあ、馬鹿なのだけれども。

 奏真は今も何やらひたすら考えている。いつもは食べ物のことだろうが、幸い今は葵に関することだと思うと少し嬉しい自分もいて、葵は自分のいじらしさに涙が出そうだと内心苦笑した。

「またそうやってすぐに心ここにあらずって感じになるだろ、お前は」
「演技って大変なんだなって思ってたんだよ」
「演技、な。でもそれって少しは俺に関心持ってくれたことになんのか」

 今までなら葵のことをあからさまに眼中にないといった様子で食べ物のことに関心がいっていた。食べ過ぎて今は食べ物のことを考える気がないだけかもしれないが、やはりそれでも嬉しく思ってしまう。

「それはわからないけど……」

 とはいえ奏真の返事は安定だ。返事に関しては、例え葵がエチュードをしていると思っていたとしても奏真のは演技でないとはわかる。ただし奏真のことが何でもわかるから、ではなく演技が本当に全くできないからだ。

「だろうな」

 葵は苦笑しながら奏真を引き寄せた。エチュードと思われたくないが、でもそれならそれで好きにやらせてもらう。抱きしめながら思った。
 混乱している様子の奏真が固まっている。演技だと思っていても、気持ち悪いなら抵抗するのではないだろうか。だが奏真は固まりはしても嫌がる素振りはない。
 そう思ってしまったからだろうか。少し調子に乗ったのは否めない。

「なぁ、キスしていいか?」
「え、嫌だけど……」

 そして即、打ちのめされた。

 即答かよ……!

「……へこむわ」
「そう言われても……」
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