ドラマのような恋を

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37話

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「おい、何やってんだてめー、挙動不審過ぎんだろ」

 柑治の苛つきと呆れを含んだ声に、葵はハッとなった。

「……わり」
「あ? 何だ? エンのくせに素直できめぇな」
「おい、てめーも煩いんだよ真面目にやれ」
「んだ? やってんだろが」

 厳にじろりと睨まれた柑治は睨み返しつつもどこか楽しげに言い返している。

「ほら、いい加減集中して。もう一回この部分、通しでやるよ。フータもスマホ見ない」
「はーい」

 笑みさえ浮かべている翠に、風太は慌てて携帯電話をポケットへ入れた。葵も気合いを入れ直す。次の場所へ移動しての、コンサート前のリハーサルだ。集中しろと自分に言い聞かせた。
 結果、その日のコンサートも成功だった。大盛況の中アンコールも終え、五人とも汗だくで控え室へ向かった。

「リハん時、エン何でぼーっとしてたの?」

 風太に聞かれた葵は「うるせぇ、糖分不足だったんだよ」と適当に答える。

「嘘だぁ、甘いもん、普段そんな食わねーじゃん」

 確かに心ここにあらずだった。考えていたのは奏真のことだ。だから絶対言わない。
 ホテルで奏真が達した後、呆けている奏真に「少し寝ろ」と呟くと葵は何でもない振りをしながらトイレへ駆け込んでいた。限界だった。あのままだと何を奏真にしていたかわかったものではない。先ほどまでの奏真を思い浮かべ、最短時間を更新すると微妙な気分でトイレから出て手を洗った。
 戻ると奏真は起きており、じっと葵を見てくる。

「……寝てろ、っつっただろーが」
「抜いてきたの?」
「ばっ、てめ、なっ」

 別に奏真を女扱いしたことはないし、そもそもしようにも平凡男過ぎてやりようがないが、それでも女なら言ってこないであろう言葉につい動揺した。しかもあんなことを奏真にやらかしたのもあってなおさらだ。顔が熱い。だというのに先ほどまでとんでもないことをされていたはずの奏真は妙に淡々としていた。

「何してんの……わざわざトイレで抜かなくても……」
「……はぁ……。お前な……馬鹿かよ、あのままだったらお前の体使って抜いてたっつーの」

 こちらの涙ぐましい努力をさらっと微妙な扱いにするなと、葵は奏真を軽く睨む。奏真は少し考えた後口を開いてきた。

「……別に構わない」
「あーそーかよ。……、……? ……は?」

 あまりにさらっと返ってきた言葉を流すところだった。葵がとてつもなく唖然とした顔で奏真を見るも、やはり奏真はいつもと変わらず淡々としている。風呂の中で「困る」と言った時の奏真の表情が懐かしく感じそうだった。葵が触れている途中、涙目で必死になって口を押えていたヤツが何を言っているのだと呆れさえ感じる。

「お前、何言ってんの? アホなの?」
「確かに頭のレベルも俺は普通だけど……多分勉強はあんたよりはマシ」
「は、はぁぁっ? 何でそんなのお前が知ってんだよっ?」

 事実でしかない分、ムキになって言えば「ごうが言ってた」と返ってきた。

 ……あのクソ野郎……殺す……。

 実際は剛も悪意があって言ったのではない。奏真に「あの偉そうな人って学校の成績もいいの?」とふと何気に聞かれた時に事実を答えただけだ。

「穂村? うーん、あんまクラスにいないからどうだっけかなあ。運動はやっぱ凄いと思うよ。でも……確か勉強は苦手だったかも。ああうん、そうだ。多分そーまより勉強は駄目なほうだったかなぁ。でも芸能界であんだけやってけてんだから頭はいいんだろうね」

 ただ、一語一句を全部奏真が細かく覚えているはずもない。

「つか! それは今どうでもいいんだよ! お前、構わないってなんだよ! ざけんなよ? 俺はお前が好きだっつってんの、まだわかってねーの?」
「……何で? わかったって言った」
「だったら何でだよ!」
「? 俺だけ気持ちよくなってあんた、キツいままだったら公平じゃないだろ」

 意味わからない。そろそろ混乱してきた、と葵は奏真を見据えた。

「公平って何だよっ? お前、無茶苦茶にされてもいいっつってんの?」
「言ってないけど。だいたいあんた、無理やりはしないって言った」
「言ったけど! クソ。好きな相手目の前にして構わないとか言われたら『何もしねえ』とか言い続けられるわけねーだろが、クソ!」

 混乱というか、そろそろ本気でキレてもいい頃じゃないだろうかとさえ思う。奏真のことは本当に好きだ。勘違いでも間違ってもいない。残念ながら、本当に残念ながら、本気で好きだ。それでもここまで葵の感情をさらりとスルーしているかのような態度にはキレていいような気がする。
 いや、恐らく無視しているのではないのだろう。奏真なりに何か考えて何かを思っての言動ではあるのだろう。先ほど葵が奏真の体にキスをしたり触れたりしている時も、明らかに頑張って堪えていた感じがした。奏真なりに葵に向き合って何らかの考えを持ってくれてはいるのだ。
 それでもこの対応はない。何なのだ。もういっそ、ヤってしまってもいいのか。

「お前な……適当こいてると本気で犯すぞ」
「……それは嫌」

 ほら! やっぱ嫌なのかよ! いやわかってるけども……!

 葵は大きく息を吸った。そして吐く。

「……奏真……お前のことは好きだけどな、ほんっとお前が何考えてんのかマジでわからねえ。頼むから、拙くてもいいから、口でお前の考えとかもっと細かく言ってくれ」
「……うん。……でもそうしたらちょっと待って」
「はぁ。……ああ、わかった。どれくらい待つんだ? 今日は泊まらねえってなら一応時間が……」
「あんたがこのツアー終えるまで」

 ……ちょっと、とは。

 そうして今に至る。考えを口にするのをそれほど待たされるとは予想外過ぎてもはや怒りすら湧かない。ただ、そのせいもあり、気を抜けばつい奏真のことを考えてしまっていた。
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