37 / 65
37話
しおりを挟む
「おい、何やってんだてめー、挙動不審過ぎんだろ」
柑治の苛つきと呆れを含んだ声に、葵はハッとなった。
「……わり」
「あ? 何だ? エンのくせに素直できめぇな」
「おい、てめーも煩いんだよ真面目にやれ」
「んだ? やってんだろが」
厳にじろりと睨まれた柑治は睨み返しつつもどこか楽しげに言い返している。
「ほら、いい加減集中して。もう一回この部分、通しでやるよ。フータもスマホ見ない」
「はーい」
笑みさえ浮かべている翠に、風太は慌てて携帯電話をポケットへ入れた。葵も気合いを入れ直す。次の場所へ移動しての、コンサート前のリハーサルだ。集中しろと自分に言い聞かせた。
結果、その日のコンサートも成功だった。大盛況の中アンコールも終え、五人とも汗だくで控え室へ向かった。
「リハん時、エン何でぼーっとしてたの?」
風太に聞かれた葵は「うるせぇ、糖分不足だったんだよ」と適当に答える。
「嘘だぁ、甘いもん、普段そんな食わねーじゃん」
確かに心ここにあらずだった。考えていたのは奏真のことだ。だから絶対言わない。
ホテルで奏真が達した後、呆けている奏真に「少し寝ろ」と呟くと葵は何でもない振りをしながらトイレへ駆け込んでいた。限界だった。あのままだと何を奏真にしていたかわかったものではない。先ほどまでの奏真を思い浮かべ、最短時間を更新すると微妙な気分でトイレから出て手を洗った。
戻ると奏真は起きており、じっと葵を見てくる。
「……寝てろ、っつっただろーが」
「抜いてきたの?」
「ばっ、てめ、なっ」
別に奏真を女扱いしたことはないし、そもそもしようにも平凡男過ぎてやりようがないが、それでも女なら言ってこないであろう言葉につい動揺した。しかもあんなことを奏真にやらかしたのもあってなおさらだ。顔が熱い。だというのに先ほどまでとんでもないことをされていたはずの奏真は妙に淡々としていた。
「何してんの……わざわざトイレで抜かなくても……」
「……はぁ……。お前な……馬鹿かよ、あのままだったらお前の体使って抜いてたっつーの」
こちらの涙ぐましい努力をさらっと微妙な扱いにするなと、葵は奏真を軽く睨む。奏真は少し考えた後口を開いてきた。
「……別に構わない」
「あーそーかよ。……、……? ……は?」
あまりにさらっと返ってきた言葉を流すところだった。葵がとてつもなく唖然とした顔で奏真を見るも、やはり奏真はいつもと変わらず淡々としている。風呂の中で「困る」と言った時の奏真の表情が懐かしく感じそうだった。葵が触れている途中、涙目で必死になって口を押えていたヤツが何を言っているのだと呆れさえ感じる。
「お前、何言ってんの? アホなの?」
「確かに頭のレベルも俺は普通だけど……多分勉強はあんたよりはマシ」
「は、はぁぁっ? 何でそんなのお前が知ってんだよっ?」
事実でしかない分、ムキになって言えば「ごうが言ってた」と返ってきた。
……あのクソ野郎……殺す……。
実際は剛も悪意があって言ったのではない。奏真に「あの偉そうな人って学校の成績もいいの?」とふと何気に聞かれた時に事実を答えただけだ。
「穂村? うーん、あんまクラスにいないからどうだっけかなあ。運動はやっぱ凄いと思うよ。でも……確か勉強は苦手だったかも。ああうん、そうだ。多分そーまより勉強は駄目なほうだったかなぁ。でも芸能界であんだけやってけてんだから頭はいいんだろうね」
ただ、一語一句を全部奏真が細かく覚えているはずもない。
「つか! それは今どうでもいいんだよ! お前、構わないってなんだよ! ざけんなよ? 俺はお前が好きだっつってんの、まだわかってねーの?」
「……何で? わかったって言った」
「だったら何でだよ!」
「? 俺だけ気持ちよくなってあんた、キツいままだったら公平じゃないだろ」
意味わからない。そろそろ混乱してきた、と葵は奏真を見据えた。
「公平って何だよっ? お前、無茶苦茶にされてもいいっつってんの?」
「言ってないけど。だいたいあんた、無理やりはしないって言った」
「言ったけど! クソ。好きな相手目の前にして構わないとか言われたら『何もしねえ』とか言い続けられるわけねーだろが、クソ!」
混乱というか、そろそろ本気でキレてもいい頃じゃないだろうかとさえ思う。奏真のことは本当に好きだ。勘違いでも間違ってもいない。残念ながら、本当に残念ながら、本気で好きだ。それでもここまで葵の感情をさらりとスルーしているかのような態度にはキレていいような気がする。
いや、恐らく無視しているのではないのだろう。奏真なりに何か考えて何かを思っての言動ではあるのだろう。先ほど葵が奏真の体にキスをしたり触れたりしている時も、明らかに頑張って堪えていた感じがした。奏真なりに葵に向き合って何らかの考えを持ってくれてはいるのだ。
それでもこの対応はない。何なのだ。もういっそ、ヤってしまってもいいのか。
「お前な……適当こいてると本気で犯すぞ」
「……それは嫌」
ほら! やっぱ嫌なのかよ! いやわかってるけども……!
葵は大きく息を吸った。そして吐く。
「……奏真……お前のことは好きだけどな、ほんっとお前が何考えてんのかマジでわからねえ。頼むから、拙くてもいいから、口でお前の考えとかもっと細かく言ってくれ」
「……うん。……でもそうしたらちょっと待って」
「はぁ。……ああ、わかった。どれくらい待つんだ? 今日は泊まらねえってなら一応時間が……」
「あんたがこのツアー終えるまで」
……ちょっと、とは。
そうして今に至る。考えを口にするのをそれほど待たされるとは予想外過ぎてもはや怒りすら湧かない。ただ、そのせいもあり、気を抜けばつい奏真のことを考えてしまっていた。
柑治の苛つきと呆れを含んだ声に、葵はハッとなった。
「……わり」
「あ? 何だ? エンのくせに素直できめぇな」
「おい、てめーも煩いんだよ真面目にやれ」
「んだ? やってんだろが」
厳にじろりと睨まれた柑治は睨み返しつつもどこか楽しげに言い返している。
「ほら、いい加減集中して。もう一回この部分、通しでやるよ。フータもスマホ見ない」
「はーい」
笑みさえ浮かべている翠に、風太は慌てて携帯電話をポケットへ入れた。葵も気合いを入れ直す。次の場所へ移動しての、コンサート前のリハーサルだ。集中しろと自分に言い聞かせた。
結果、その日のコンサートも成功だった。大盛況の中アンコールも終え、五人とも汗だくで控え室へ向かった。
「リハん時、エン何でぼーっとしてたの?」
風太に聞かれた葵は「うるせぇ、糖分不足だったんだよ」と適当に答える。
「嘘だぁ、甘いもん、普段そんな食わねーじゃん」
確かに心ここにあらずだった。考えていたのは奏真のことだ。だから絶対言わない。
ホテルで奏真が達した後、呆けている奏真に「少し寝ろ」と呟くと葵は何でもない振りをしながらトイレへ駆け込んでいた。限界だった。あのままだと何を奏真にしていたかわかったものではない。先ほどまでの奏真を思い浮かべ、最短時間を更新すると微妙な気分でトイレから出て手を洗った。
戻ると奏真は起きており、じっと葵を見てくる。
「……寝てろ、っつっただろーが」
「抜いてきたの?」
「ばっ、てめ、なっ」
別に奏真を女扱いしたことはないし、そもそもしようにも平凡男過ぎてやりようがないが、それでも女なら言ってこないであろう言葉につい動揺した。しかもあんなことを奏真にやらかしたのもあってなおさらだ。顔が熱い。だというのに先ほどまでとんでもないことをされていたはずの奏真は妙に淡々としていた。
「何してんの……わざわざトイレで抜かなくても……」
「……はぁ……。お前な……馬鹿かよ、あのままだったらお前の体使って抜いてたっつーの」
こちらの涙ぐましい努力をさらっと微妙な扱いにするなと、葵は奏真を軽く睨む。奏真は少し考えた後口を開いてきた。
「……別に構わない」
「あーそーかよ。……、……? ……は?」
あまりにさらっと返ってきた言葉を流すところだった。葵がとてつもなく唖然とした顔で奏真を見るも、やはり奏真はいつもと変わらず淡々としている。風呂の中で「困る」と言った時の奏真の表情が懐かしく感じそうだった。葵が触れている途中、涙目で必死になって口を押えていたヤツが何を言っているのだと呆れさえ感じる。
「お前、何言ってんの? アホなの?」
「確かに頭のレベルも俺は普通だけど……多分勉強はあんたよりはマシ」
「は、はぁぁっ? 何でそんなのお前が知ってんだよっ?」
事実でしかない分、ムキになって言えば「ごうが言ってた」と返ってきた。
……あのクソ野郎……殺す……。
実際は剛も悪意があって言ったのではない。奏真に「あの偉そうな人って学校の成績もいいの?」とふと何気に聞かれた時に事実を答えただけだ。
「穂村? うーん、あんまクラスにいないからどうだっけかなあ。運動はやっぱ凄いと思うよ。でも……確か勉強は苦手だったかも。ああうん、そうだ。多分そーまより勉強は駄目なほうだったかなぁ。でも芸能界であんだけやってけてんだから頭はいいんだろうね」
ただ、一語一句を全部奏真が細かく覚えているはずもない。
「つか! それは今どうでもいいんだよ! お前、構わないってなんだよ! ざけんなよ? 俺はお前が好きだっつってんの、まだわかってねーの?」
「……何で? わかったって言った」
「だったら何でだよ!」
「? 俺だけ気持ちよくなってあんた、キツいままだったら公平じゃないだろ」
意味わからない。そろそろ混乱してきた、と葵は奏真を見据えた。
「公平って何だよっ? お前、無茶苦茶にされてもいいっつってんの?」
「言ってないけど。だいたいあんた、無理やりはしないって言った」
「言ったけど! クソ。好きな相手目の前にして構わないとか言われたら『何もしねえ』とか言い続けられるわけねーだろが、クソ!」
混乱というか、そろそろ本気でキレてもいい頃じゃないだろうかとさえ思う。奏真のことは本当に好きだ。勘違いでも間違ってもいない。残念ながら、本当に残念ながら、本気で好きだ。それでもここまで葵の感情をさらりとスルーしているかのような態度にはキレていいような気がする。
いや、恐らく無視しているのではないのだろう。奏真なりに何か考えて何かを思っての言動ではあるのだろう。先ほど葵が奏真の体にキスをしたり触れたりしている時も、明らかに頑張って堪えていた感じがした。奏真なりに葵に向き合って何らかの考えを持ってくれてはいるのだ。
それでもこの対応はない。何なのだ。もういっそ、ヤってしまってもいいのか。
「お前な……適当こいてると本気で犯すぞ」
「……それは嫌」
ほら! やっぱ嫌なのかよ! いやわかってるけども……!
葵は大きく息を吸った。そして吐く。
「……奏真……お前のことは好きだけどな、ほんっとお前が何考えてんのかマジでわからねえ。頼むから、拙くてもいいから、口でお前の考えとかもっと細かく言ってくれ」
「……うん。……でもそうしたらちょっと待って」
「はぁ。……ああ、わかった。どれくらい待つんだ? 今日は泊まらねえってなら一応時間が……」
「あんたがこのツアー終えるまで」
……ちょっと、とは。
そうして今に至る。考えを口にするのをそれほど待たされるとは予想外過ぎてもはや怒りすら湧かない。ただ、そのせいもあり、気を抜けばつい奏真のことを考えてしまっていた。
11
あなたにおすすめの小説
期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。
さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩
部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。
「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」
いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。
君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜
ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。
ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。
しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。
しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる