ドラマのような恋を

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38話

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 面倒くさい。

 ベッドにころりと転がりながら、奏真はひたすらぼんやりと思っていた。葵はいちいち面倒くさいと思う。煩いし偉そうだし、面倒くさい。
 見た目に自信あるようだが、残念ながらそこは奏真にはわからない。奏真にとっては自分の兄、奏一朗こそがイケメンに見えるし、だいたい造形にさほど興味がないのもあって奏一朗以外は大してよくわからない。
 芸能人ということも、そもそもテレビをほぼ観ないくらいだ。全体的に興味ない。
 なので葵に関心を持つのが当然という風に言われてもずっと流してきた。
 ただ、歌も演奏も踊りも実際上手かった。ドラマは見ていないので知らないが、たまに台本を読んでいるのを思い返すと上手いのだろうとは思う。元々あったのかもしれない才能に胡座かかず、努力していることを思えばそれも偉いと思う。前向きそうだし意外にも真面目なところもある。口煩くもなるのかもしれない。
 奏真なりに、これでも葵に対しての見方は初めの頃とは変わっている。それに好きだと言われてもちゃんと理解していなかった部分に関しても理解した。だからこそ葵に対して向き合おうと、ベッドの上でも何とか頑張った。あと理解や把握に関しては普通以下かもしれない自分の中でも、できるなら明確にしたいと思ったからもある。
 知らなかったのだ。誰かを好きになるのに、理由や明確な出来事を自覚していなくても好きになれると。わからないままでも気持ちは動くものなのだと。
 だから、奏真の以前よりもほんの少し変わった見方はもしかしたらそれに当てはまるのかもしれないと思った。
 食べ物や陸上、それに今は「Infinity」というバンドもだが、こういったものは明確に好きだとわかる。食べたり走ったり聴いたり見たりしていると例えば美味しい、気持ちがいい、わくわくするといった風に単純に好きだと思う理由がわかる。だから人を好きになるのもそういう明確な理由があると思っていた。ただ、対人というのは難しいし好みというか感じる幅も広そうだ。だからこそ、好きになるには動力も熱量も半端ないのだろうなと漠然と思っていた。
 好きだと気づかないほどに熱量が少ないパターンだってあるかもしれないと気づくと、湯船に浸かりながら唐突に葵を意識した。意識した途端だというのにキスしていいかなどと聞かれ、キスなんてされたら無理だと思った。
 もしかしたら少ない熱量だというのに容量オーバーとなってショートしてしまうかもしれない。もしくは逆にまだ完全には確定していない自分の気持ちがキスされることで勘違いを起こすかもしれない。
 そういった、少し説明し難い様々な考えが一気に溢れ、絶対無理だと思った。
 奏真は基本的にぼんやりしているが、何も考えていないのではない。むしろいつも何か考えている。それに没頭することもある。それが人にはぼんやりしているように見えるだけだと思われる。
 確かに考えている内容は基本的に大したことないかもしれない。大抵は食べ物のことだ。次は何を食べよう、あれが食べたい、何か新しい店は出ていないか、といったことだ。
 あまり考えていない時は好きなことに集中している時だろうか。
 だからキスしていいかなど聞かれたら一気に無駄なほど頭の中は考えでいっぱいになる。しかも判断し難い内容だ。キスされていなくともその前に容量オーバーになる。頭の中も顔も熱くなってくらくらした。おかげで葵に運ばれた。
 風呂にのぼせたのも多少はあったのかもしれないが、その後楽になってくると葵が今度は何も奏真に聞かずに触れてきた。その前に奏真が「それらしくすればいいだろ」と言ったせいもあるのだろうか。
 奏真にとっては具体的に何かあって言った言葉ではなかった。ただ、漠然とし過ぎていて曖昧で、だから葵が奏真にもわかりやすい言動をもっとしてくれたら自分でもさすがに考えやら何やらがまとまるのではないかとぼんやり考えただけだ。まさかあんなことをしてくるとは思ってもいなかった。
 沢山、唇や手で触れられた。こちらが考える暇も与えられずいきなりされた行為に、それでもともすれば頭がパンクしそうになり「嫌だ」と口に出そうになった。だが「本気で嫌悪感とか感じた時以外黙ってろ」と言われたことが頭に過る。嫌悪感はなかった。されたことのない行為に動揺して驚いて怖くて恥ずかしくて嫌だとは思ったが、嫌悪を感じたのではなかった。気持ち悪くもなかった。
 それならとにかく黙っていようと必死になって堪えた。それに自分でも見極めたかった。あと、普通に気持ちもよかった。
 達した後に葵はどうするのだろうとぼんやり思っていたらトイレへ向かっていくのがわかり、少しポカンとした。別に抜くくらい、自分を使ってくれても構わなかった。酷いことは嫌だが、自分のと合わせて一緒に擦るなり太ももくらいなら使ってくれても問題はなかった。舐められたり触られたりと奏真にとっては結構なことをすでにされたのだ、いまさらそれくらい変わらない気がする。
 とはいえお互い気持ちを通じ合わせ、つき合っているという間柄でもない上に、奏真には男同士でのセックス自体あまり把握していないというのに「犯される」というのは普通に嫌だと思ったのでそう答えた。
 葵はやたら戸惑っていたようだが、奏真だって色々と戸惑っているのだ。だいたい経験値が圧倒的に違うはずだ。経験則にのっとられてもこちとら未経験なのだ。どうしようもない。
 とにかくはっきりわからないが、奏真は葵が嫌いではない。もしかしたら好きなのかもしれない。だが多分きっとそれでも「好き」の熱量は違う。配分も違う。それを確認するためにも頑張って、色々されても拒まなかったわけだが──

「でもやっぱり、葵は面倒くさい」

 奏真はまたころりと寝返り打った。
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