ドラマのような恋を

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39話

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 何が面倒って、とにかくゼロか百かといった風に物事を考えてそうなところだ。いや、奏真に対して少なくとも色々譲歩して噛み砕き、ゆっくりとでも把握しようとはしてくれているのだろう。それは奏真でもさすがになんとなくわかる。

「……奏真……お前のことは好きだけどな、ほんっとお前が何考えてんのかマジでわからねえ。頼むから、拙くてもいいから、口でお前の考えとかもっと細かく言ってくれ」

 こう言ってきた時もそうだろう。わかるのだが、そして奏真も葵のことがよくわからなくなるし好きと言われてもピンとこなかったりしたからわかりやすくしてくれたらいいのにとは思ったりしたが、少し違う。
 奏真ならわかりやすくして欲しいと思っても、相手に「もっと細かく言って」とは言わない。例え奏真を思って「拙くてもいいから」と言ってくれていても、奏真なら答えを相手に求めない。「それらしくすればいいだろ」とは言ったが「それらしくしろろ」とは言わない。
 曖昧な感じは駄目なのだろう。はっきりしないと気がすまなさそうだ。

 面倒くさい。

 だけれども、と奏真はまた寝返りを打った。元々人と考えが一緒じゃないと駄目だとは思ったことはない。それに、それこそ奏真と同じ考えだと葵と一緒にいても何も進むものはないのだろうし、そもそも奏真は興味も湧かないだろうなと思う。
 きっとそれは葵も同じで、だからこそあんな偉そうな性格なのに自分とは異なる奏真のことを何とか考え、合わせて「拙くてもいいから」と口にしたのだと思う。あんなに偉そうなら「何考えてるかわからないから今すぐはっきり言え」くらいは普通言いそうだ。
 多分、そういうとこだ。

 そういうとこが……。

 奏真はむしろため息ついた。
 それに、気持ちのいいことは奏真も男だ。もちろん嫌いじゃない。ただそれだけでなく男である葵にああいったことをされても嫌悪感も気持ち悪さもなかった。そういった諸々を考えると、やはり多分奏真も葵が好きなのだと思う。
 だがわかるのはせいぜいこれくらいだ。奏真はまた、ため息つく。
 先ほどからベッドの上に転がって考えていたこれらのことを、どうまとめ、人に伝わるようにすればいいのだ。自分の頭の中では自分なりに順序だてて考えてはいるが、それを人に説明するとなると違う。

「考えたけど、多分好き」

 これだけなら言える。だが、葵はその言葉だけでは満足しないだろう。信用してくれないというか、「好き」という言葉に信憑性を持ってくれなさそうだ。ここへ行き着くまでの奏真が抱いた考えや気持ちを知りたがり、求めるだろう。わからないらしい奏真をわかりたいのだろう。

 面倒くさい。

「……うん。……でもそうしたらちょっと待って」

 拙くてもいいから考えを口にしてくれと言われて出たのはこの言葉だった。

「あんたがこのツアー終えるまで」

 葵のツアーが終わるのはまだ結構先だ。丁度夏休みが終わってからだ。それまでにはもしかしたら何かいい感じの言葉でも浮かぶかもしれない。
 とはいえ、面倒くさい。食べ物のことなら労力をかけてでも全力を注げるのにと思う。
 ああ、こういうところもわかってもらえないかもしれないな。
 葵のことだ。「俺は食いもん以下かよ」くらいは言いそうだ。そういうことではないし、奏真の中ではかなり形になってきてはいるのだが、これこそ葵に説明はなかなか難しそうだ。

「はぁ……めんど……」
「奏真! ただいま! どうしたんだぁ? ため息なんてついて。お兄ちゃんに言ってみ」

 奏真の兄、奏一朗がいきなり部屋に入ってきたかと思うと、ベッドに横たわる奏真を抱きしめてきた。
 ベッドはベッドでも、寮ではなく実家にある自分の部屋のベッドで奏真は転がっていた。いい加減帰ってこいと、親ではなく兄が煩かったので実家へ帰っていた。ついでに剛も実家へ帰っている。

「兄さん……勝手に入ってこないで」

 まるで押し倒されているように抱きしめられたまま奏真が淡々と言うと、むしろ頬擦りされた。

「かわいいお前に少しでも早く会いたくてな」
「今朝も会ったけど……」
「もう何時間経っていると思うんだ。学校の用事なんて奏真切れ過ぎてすっぽかしたくなったよ」
「俺も兄さんにまた会えて嬉しいけど……部屋にはいきなり入ってこないで」
「こっそりしたいことでもあるのか……? ああ、もし思春期溢れる一人プレイを考えていたのなら、何なら手伝ってあげような」
「下ネタもやめて」
「本当のことなのに。それよりも何か悩みごとでもあるのか? 兄ちゃんに打ち明けなさい」

 奏一朗はやはり兄だけあって言動はさておき、やり取りしやすい。言葉もわかりやすい。あと剛も奏一朗とは全くタイプは違うが、やはり分かりやすい。
 改めて葵はわからない人だなと思う。だが、そういうところでもあるのだろう。

「……人を好きになるの、難しいなと思って」

 いや、好きになるのは食べ物や陸上が好きなように案外単純なのだろう。落ちようとして落ちるものでもない。気づかないまま好きになるくらいだ。ただ、それを形にしようとすると少なくとも奏真にとっては難しい。

「……は?」
「?」
「何て、何て言った? 奏真、今」
「? 難しい」
「その一言前……」
「人を好きに」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁっ? 奏真、何それ、何それ……! 奏真はお兄ちゃんと結婚するんじゃないの?」

 世間で言う父親か。

 奏真は微妙な顔で奏一朗を見た。

「兄さんは大好きだけど、さすがにそうとは言ったことない……」
「どこの雌ブ……お嬢さんかな、見極めてやろう、連れてきなさい」
「まだつき合ってないしそもそも好きかもしれない、くらいだしお嬢さんじゃないし嫌」
「べ、別にお嬢さんじゃなくてもいい、兄ちゃんが言ってるのはそういうことじゃなくてだな、……まあいい。お嬢さんじゃなくてもそこはいいんだ、つき合ってないならなおさらいい。むしろかもしれない、程度なら好きじゃなくていい。いや、とにかくその女の子を紹介しなさい」
「……めんど」
「こ、こら、奏真。とにかくどんな女の子なんだ、せめてそれだけでも……!」
「……俺より背の高い……」
「モデルか! 奏真はかわいいからな……そんなチャラついた女に遊ばれるわけには……」
「男」
「……、?」
「モデルじゃない。……一応、学校の先輩……? の男」

 その後しばらく奏一朗が固まって動かなくなった。
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