ドラマのような恋を

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40話

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「言えばやるっつっただろ」

 目の前の相手に言えば「それだと楽しさが半減する」と言われて相変わらずよくわからないやつだと葵は微妙な顔になった。
 目の前の相手はもちろん奏真だ。「Infinity」を気に入ってくれたのは嬉しいが、過去の作品を今片っ端から収集しているらしく、たまに見つからないCDがあったりするらしい。それなら葵が持っているか、もし手元になくとも事務所に頼めばすぐに入手できるというのに「自分で見つける」と言って聞かない。本当に変なところで頑固だと葵は思うが、本人曰く好きだからこそ自分で見つけて手に入れたいのらしい。本当に入手不可なものがあれば、でもその時はよろしくお願いしますとついでに頭を下げられた。めちゃくちゃお願いされたいと、つい思ってしまった。
 夏休みも終わり、学校が始まった。夏休みも仕事ばかりだった葵にとってあまり関係ないが、大きな仕事を終えたので休みは取りやすくなっている。今日もオフだったので奏真の部屋へ来ていた。奏真には「また来たの……」と面倒そうに言われながらも迎え入れられた。
 今、葵と奏真はつき合っている。
 全国ツアーが終わるまでこれほど長いと思ったことはなかった。もちろん仕事をおざなりにするつもりは全くないので全力でやりきった。そしてその足で奏真の元に駆けつけていた。好きだから会いたかったのもある。だがそれ以上に話が聞きたかった。
 本気でよくわからない奏真に、拙くてもいいから考えをもっと細かく話してくれと言ったのだ。そうしたら「ちょっと待って」とちょっとどころかめちゃくちゃ待たされた。ずっと餌を与えられてなかった上で目の前に餌を置かれて「待て」と言われている飼い犬よりも焦らされている感じしかなかった。そのため奏真の部屋に入ったとたん「よし、考え全部話せ」と言っていた。

「……めんど……」
「っはぁっ?」
「……だから俺はこういう性格で……」
「わかってるが待てと言ったのはお前だろうが!」
「時間経てばまとまるかなって思った」
「で?」
「無理」
「はぁっ?」

 こいつ、と葵がこめかみに青筋を立てていると奏真が葵を引き寄せてきた。

「何を……」
「適当そうに思われてるけど、いい加減なことは嫌」
「知ってる」
「面倒くさがりだけど食べることとか走ることとかは楽しい」
「知ってる」
「恋愛に興味ないしよく知らないからどうしていいかもわからない」
「……知ってる」
「演技とかで、したこともないキスはしたくないし、わからないことを知るのは結構怖い」
「……多分、知ってる」

 ふと、奏真が小さく笑ってきた。

「……やっぱり、そういうとこ」
「……え?」

 何が、と葵が思っていると少し背伸びをしてきた奏真が唇を葵の唇にそっと押し当ててきた。それはすぐに離れていく。

「……、……え……?」

 一瞬何をされたのか葵は把握できなかった。その後じわじわと葵の中で「キスされた」という事実が広がっていく。

「今……おま……」
「俺の中ではわりと考えまとまってても、言葉にするのはやっぱ無理。だからキスした」
「は、はぁ……っ? で、でもキスは嫌だったんじゃねぇのかよ……」
「自分の中でちゃんと固まったから大丈夫……これでもちゃんと考えた。多分……ううん、ちゃんとあんたが好きだよ」

 息が止まるかと思った。いや、実際止まった。ひくりと口元が動いた後にようやく少し息が吸えた。

「……クソ……! だったらせめてそれくらい先に言えよ……! そんで俺からカッコよくキスしたかったっつーの!」
「何で?」

 何でもへったくれもあるかと葵は顔が熱くなりながらも奥歯を噛みしめる。好きな相手に恰好つけたいんだから仕方ない。そして主導権を握りたいと思うんだから仕方ない。
 いや、少し違う。奏真からキスされるなんて想像もつかなかった。好きだとその上言われるなんて思ってもみなかった。多少望みはあるのではないのかと何度も何度も思いつつも、結構挫けていたから実は正直とてつもなくめちゃくちゃ嬉しい。だが、それに有頂天になりそうで自分が恰好悪いのが情けなくて、だから奏真に対して自分が主導権を握り恰好つけたいのだ。

「……クソ……。カッコくらい、つけさせろよ……」

 奏真とのやりとりでは、全然ドラマのような恋愛展開にならない。

「俺、あんたの恰好がいいから好きになったんじゃないと思うけど」
「そこじゃねえよ……。つか、じゃあどこ好きになったんだよ……」
「……それ」
「あ?」
「そういうのが、説明しにくい。だからさっき口にできそうなこと言ったらあんたから返ってきた言葉に対して言ったし……そういうとこって」
「は?」
「好きだと思うとこ」

 先ほど? と葵は思い返す。自分が口にした言葉はほぼ「知ってる」だけだ。

「わかるか……!」
「だから、それ。そういうの、説明、無理」
「……はぁ。あとお前、俺に好きって言うわりにめちゃくちゃ淡々としてねぇか?」
「それも」
「どれだよ」
「俺、あんたと同じ熱量であんたを好きだと表現、できない」

 ああ、なるほどな。

 今の言葉は何故か妙に納得できた。歌手や俳優という仕事をしているからだろうか。思いを込めて自分の思う何かを表現するにしても思い通りできるものではないし、表現の仕方も様々だと葵は知っている。
 表現、ではなく同じ熱量で好きになれない、と言われていたらそれも仕方ないにしても、もしかしたらショックを軽くでも受けていたかもしれない。

「わかったよ、了解」

 今度こそ葵は自分から奏真を引き寄せ、そしてキスした。
 そうして今、奏真と無事つき合っているわけだが、相変わらずな奏真に葵は相変わらず振り回されている感が半端なかった。
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