ドラマのような恋を

Guidepost

文字の大きさ
50 / 65
Infinity編

5話

しおりを挟む
「じゃあ二つめな。お前、差し入れあんま食わねぇの、甘いもん好きじゃねぇの?」

 今度はわりと普通の質問だった。寛人は少しホッとする。
 バンドとしてのつき合いはそこそこ長いはずだが、寛人はあまり自分のことを話さない。というか他の四人もそうかもしれない。別に険悪の仲とかではないのだが、皆普段はそれぞれ好きにやっているからだとは思う。むしろつかず離れずのこの距離感だからこそ個性のバラバラな男五人が今まで続いている気もする。
 住まいも今では五人ともセキュリティシステムの行き届いた同じマンション内だが、それぞれの家を行き来することは滅多になかった。

「別に。普通に食える、けどすげー好きってわけでもねぇ。気が向いたら食うだけだし」

 嘘はついていない。嫌いでも好きでもない。気が向いたら食べる。ただ、寛人は他の四人と違って余計なものをあまり食べると、ぶくぶく太るほどではないが多少体重に反映しやすい。髪型などは適当なところがあるが、体型はそこそこ気にしている。タンクトップが好きなのだが、肉体の変化が出やすい服だけに気も使う。

「ふーん? 気が向けば、な……」

 貫士がまたニヤリと笑った。今の質問と答えに笑えるところなど皆無だと思うだけに意味わからない。さすがに寛人の思惑がバレたとも考えられないし、きっとまたろくでもないことでも企んでいるのではないだろうかと寛人は思った。多分自分が忘れた頃にやたらと菓子を食わそうとしてくるとか、そういうくだらない系の嫌がらせだ。

「じゃあ三つめ」
「まだやんのかよ」
「五つっつっただろが。これに懲りたら与えられた問題くらいさらさら解いてけや」
「……うるせぇ」
「で、お前、童貞ってマジなの」

 ほんっとうにくだらないな……!

 イライラ思いつつ、寛人は横向いた。

「だったらどうだってんだよ……」
「別に。でもよぉ? こんだけ俺ら人気出てて、その気になりゃなんぼでも相手、いんだろが」
「そういうの、好きじゃねぇんだよ、ほっとけよ!」
「お前、見た目強面系の顔してんのに実はほんと笑えるくらい真面目よなぁ」
「うるせぇ」

 確かに昔から見た目が怖いとはたまに言われてきた。このメンバーでデビューすることになってからも最初は寛人だけあまり人気がなかったように思う。幸い今は強面系寡黙男子として受け入れてもらえているのか「厳」が好きだと言ってくれるファンも少なくない。

「もしかしてキスすらしたことねぇんじゃねーの」
「……それは四つめの質問でいいんだな」

 今までは質問した後、貫士は何気に「聞く」という話し方を避けているように思えた。だが今のは質問とも取れる。妙なことを聞かれるくらいなら今のを一つ分としたほうがましだ。
 言われて貫士は一瞬ポカンとした後にニヤリと笑ってきた。

「まぁ、別に構わねぇ」
「……。お前、ツアーの時とかしてくんだろが。したことねぇわけねーだろ」
「はぁ? あんなのキスのうちに入るかよ。勘定にいれて誤魔化してくんなバーカ」

 どう考えてもキスだろうが……!

 以前貫士がふざけて葵の肩を抱き寄せると観客がむしろ喜んできたことがあった。それ以来、気が向けばメンバー同士やたら近かったり実際抱きしめたりすることがある。さすがにキスまでするのはどう考えても悪ふざけだとしか思えなかったが、貫士が寛人や基希にするとその度に反響も凄かった。SNSでもかなり話題になった。
 ただ、された基希の終わってからの反応をもう見たくないとさすがに貫士も思ったのか、その後たまにコンサートでやらかす時はいつも寛人にしてくる。最初は寛人もドン引きして文句を言いまくったのだが、暖簾に腕押し糠に釘とはこのことだろう。今では仕事なのだと諦めている。
 ちなみに以前葵が何かの話をしている時に「暖簾に釘押し」と言っていたせいで寛人もつい今、言葉が浮かんだ。その際は抜かりなく葵は貫士に「混ぜんなバーカ」と爆笑されていた。
 で、キスだが、悪ふざけで演奏中された貫士からのキスが寛人のファーストキスになる。その後も他からされたことはない。
 コンサート中にされてんのを口にすれば済むと思ったのに。
 楽勝だと思って四つめの質問にさせたというのに、結局楽勝でもなんでもなかった。

「で、キスしたこと、ねーの?」

 楽しげに聞いてくる貫士が本当に腹立たしい。多分気づいているからそんなに楽しげなのだろう。

「……あれも十分キスだろが」
「は。あんなの入れてんなよ。キスってのはな」

 馬鹿にしたように鼻で笑うと、貫士は寛人の胸ぐらをつかみ上げてきた。何しやがる、と言いかけたところで顔が近づき唇が合わさった。いつものように強引なやり方、だと思いきや触れた唇は驚くほど柔らかい。そしてゆっくり何度も微かに触れるように合わさってくる。その感触にどこかむずむずしていると今度は少し強めに押しつけられ、チュッというリップ音を立ててまた少し離してくる。それを何度も繰り返されながらうなじや耳に貫士の指が触れてきた。寛人が密かに一番演奏が上手いと思っている指は、もどかしいほどのタッチで寛人に触れてくる。
 強気で偉そうな貫士なら、悪ふざけの延長でキスしてくるならもっと強引に力ずくでしてきそうなものだ。だというのにこんな風にされ、寛人は力が抜けボーッとしてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜

ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。 ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。 しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。 しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

処理中です...