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Infinity編
5話
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「じゃあ二つめな。お前、差し入れあんま食わねぇの、甘いもん好きじゃねぇの?」
今度はわりと普通の質問だった。寛人は少しホッとする。
バンドとしてのつき合いはそこそこ長いはずだが、寛人はあまり自分のことを話さない。というか他の四人もそうかもしれない。別に険悪の仲とかではないのだが、皆普段はそれぞれ好きにやっているからだとは思う。むしろつかず離れずのこの距離感だからこそ個性のバラバラな男五人が今まで続いている気もする。
住まいも今では五人ともセキュリティシステムの行き届いた同じマンション内だが、それぞれの家を行き来することは滅多になかった。
「別に。普通に食える、けどすげー好きってわけでもねぇ。気が向いたら食うだけだし」
嘘はついていない。嫌いでも好きでもない。気が向いたら食べる。ただ、寛人は他の四人と違って余計なものをあまり食べると、ぶくぶく太るほどではないが多少体重に反映しやすい。髪型などは適当なところがあるが、体型はそこそこ気にしている。タンクトップが好きなのだが、肉体の変化が出やすい服だけに気も使う。
「ふーん? 気が向けば、な……」
貫士がまたニヤリと笑った。今の質問と答えに笑えるところなど皆無だと思うだけに意味わからない。さすがに寛人の思惑がバレたとも考えられないし、きっとまたろくでもないことでも企んでいるのではないだろうかと寛人は思った。多分自分が忘れた頃にやたらと菓子を食わそうとしてくるとか、そういうくだらない系の嫌がらせだ。
「じゃあ三つめ」
「まだやんのかよ」
「五つっつっただろが。これに懲りたら与えられた問題くらいさらさら解いてけや」
「……うるせぇ」
「で、お前、童貞ってマジなの」
ほんっとうにくだらないな……!
イライラ思いつつ、寛人は横向いた。
「だったらどうだってんだよ……」
「別に。でもよぉ? こんだけ俺ら人気出てて、その気になりゃなんぼでも相手、いんだろが」
「そういうの、好きじゃねぇんだよ、ほっとけよ!」
「お前、見た目強面系の顔してんのに実はほんと笑えるくらい真面目よなぁ」
「うるせぇ」
確かに昔から見た目が怖いとはたまに言われてきた。このメンバーでデビューすることになってからも最初は寛人だけあまり人気がなかったように思う。幸い今は強面系寡黙男子として受け入れてもらえているのか「厳」が好きだと言ってくれるファンも少なくない。
「もしかしてキスすらしたことねぇんじゃねーの」
「……それは四つめの質問でいいんだな」
今までは質問した後、貫士は何気に「聞く」という話し方を避けているように思えた。だが今のは質問とも取れる。妙なことを聞かれるくらいなら今のを一つ分としたほうがましだ。
言われて貫士は一瞬ポカンとした後にニヤリと笑ってきた。
「まぁ、別に構わねぇ」
「……。お前、ツアーの時とかしてくんだろが。したことねぇわけねーだろ」
「はぁ? あんなのキスのうちに入るかよ。勘定にいれて誤魔化してくんなバーカ」
どう考えてもキスだろうが……!
以前貫士がふざけて葵の肩を抱き寄せると観客がむしろ喜んできたことがあった。それ以来、気が向けばメンバー同士やたら近かったり実際抱きしめたりすることがある。さすがにキスまでするのはどう考えても悪ふざけだとしか思えなかったが、貫士が寛人や基希にするとその度に反響も凄かった。SNSでもかなり話題になった。
ただ、された基希の終わってからの反応をもう見たくないとさすがに貫士も思ったのか、その後たまにコンサートでやらかす時はいつも寛人にしてくる。最初は寛人もドン引きして文句を言いまくったのだが、暖簾に腕押し糠に釘とはこのことだろう。今では仕事なのだと諦めている。
ちなみに以前葵が何かの話をしている時に「暖簾に釘押し」と言っていたせいで寛人もつい今、言葉が浮かんだ。その際は抜かりなく葵は貫士に「混ぜんなバーカ」と爆笑されていた。
で、キスだが、悪ふざけで演奏中された貫士からのキスが寛人のファーストキスになる。その後も他からされたことはない。
コンサート中にされてんのを口にすれば済むと思ったのに。
楽勝だと思って四つめの質問にさせたというのに、結局楽勝でもなんでもなかった。
「で、キスしたこと、ねーの?」
楽しげに聞いてくる貫士が本当に腹立たしい。多分気づいているからそんなに楽しげなのだろう。
「……あれも十分キスだろが」
「は。あんなの入れてんなよ。キスってのはな」
馬鹿にしたように鼻で笑うと、貫士は寛人の胸ぐらをつかみ上げてきた。何しやがる、と言いかけたところで顔が近づき唇が合わさった。いつものように強引なやり方、だと思いきや触れた唇は驚くほど柔らかい。そしてゆっくり何度も微かに触れるように合わさってくる。その感触にどこかむずむずしていると今度は少し強めに押しつけられ、チュッというリップ音を立ててまた少し離してくる。それを何度も繰り返されながらうなじや耳に貫士の指が触れてきた。寛人が密かに一番演奏が上手いと思っている指は、もどかしいほどのタッチで寛人に触れてくる。
強気で偉そうな貫士なら、悪ふざけの延長でキスしてくるならもっと強引に力ずくでしてきそうなものだ。だというのにこんな風にされ、寛人は力が抜けボーッとしてきた。
今度はわりと普通の質問だった。寛人は少しホッとする。
バンドとしてのつき合いはそこそこ長いはずだが、寛人はあまり自分のことを話さない。というか他の四人もそうかもしれない。別に険悪の仲とかではないのだが、皆普段はそれぞれ好きにやっているからだとは思う。むしろつかず離れずのこの距離感だからこそ個性のバラバラな男五人が今まで続いている気もする。
住まいも今では五人ともセキュリティシステムの行き届いた同じマンション内だが、それぞれの家を行き来することは滅多になかった。
「別に。普通に食える、けどすげー好きってわけでもねぇ。気が向いたら食うだけだし」
嘘はついていない。嫌いでも好きでもない。気が向いたら食べる。ただ、寛人は他の四人と違って余計なものをあまり食べると、ぶくぶく太るほどではないが多少体重に反映しやすい。髪型などは適当なところがあるが、体型はそこそこ気にしている。タンクトップが好きなのだが、肉体の変化が出やすい服だけに気も使う。
「ふーん? 気が向けば、な……」
貫士がまたニヤリと笑った。今の質問と答えに笑えるところなど皆無だと思うだけに意味わからない。さすがに寛人の思惑がバレたとも考えられないし、きっとまたろくでもないことでも企んでいるのではないだろうかと寛人は思った。多分自分が忘れた頃にやたらと菓子を食わそうとしてくるとか、そういうくだらない系の嫌がらせだ。
「じゃあ三つめ」
「まだやんのかよ」
「五つっつっただろが。これに懲りたら与えられた問題くらいさらさら解いてけや」
「……うるせぇ」
「で、お前、童貞ってマジなの」
ほんっとうにくだらないな……!
イライラ思いつつ、寛人は横向いた。
「だったらどうだってんだよ……」
「別に。でもよぉ? こんだけ俺ら人気出てて、その気になりゃなんぼでも相手、いんだろが」
「そういうの、好きじゃねぇんだよ、ほっとけよ!」
「お前、見た目強面系の顔してんのに実はほんと笑えるくらい真面目よなぁ」
「うるせぇ」
確かに昔から見た目が怖いとはたまに言われてきた。このメンバーでデビューすることになってからも最初は寛人だけあまり人気がなかったように思う。幸い今は強面系寡黙男子として受け入れてもらえているのか「厳」が好きだと言ってくれるファンも少なくない。
「もしかしてキスすらしたことねぇんじゃねーの」
「……それは四つめの質問でいいんだな」
今までは質問した後、貫士は何気に「聞く」という話し方を避けているように思えた。だが今のは質問とも取れる。妙なことを聞かれるくらいなら今のを一つ分としたほうがましだ。
言われて貫士は一瞬ポカンとした後にニヤリと笑ってきた。
「まぁ、別に構わねぇ」
「……。お前、ツアーの時とかしてくんだろが。したことねぇわけねーだろ」
「はぁ? あんなのキスのうちに入るかよ。勘定にいれて誤魔化してくんなバーカ」
どう考えてもキスだろうが……!
以前貫士がふざけて葵の肩を抱き寄せると観客がむしろ喜んできたことがあった。それ以来、気が向けばメンバー同士やたら近かったり実際抱きしめたりすることがある。さすがにキスまでするのはどう考えても悪ふざけだとしか思えなかったが、貫士が寛人や基希にするとその度に反響も凄かった。SNSでもかなり話題になった。
ただ、された基希の終わってからの反応をもう見たくないとさすがに貫士も思ったのか、その後たまにコンサートでやらかす時はいつも寛人にしてくる。最初は寛人もドン引きして文句を言いまくったのだが、暖簾に腕押し糠に釘とはこのことだろう。今では仕事なのだと諦めている。
ちなみに以前葵が何かの話をしている時に「暖簾に釘押し」と言っていたせいで寛人もつい今、言葉が浮かんだ。その際は抜かりなく葵は貫士に「混ぜんなバーカ」と爆笑されていた。
で、キスだが、悪ふざけで演奏中された貫士からのキスが寛人のファーストキスになる。その後も他からされたことはない。
コンサート中にされてんのを口にすれば済むと思ったのに。
楽勝だと思って四つめの質問にさせたというのに、結局楽勝でもなんでもなかった。
「で、キスしたこと、ねーの?」
楽しげに聞いてくる貫士が本当に腹立たしい。多分気づいているからそんなに楽しげなのだろう。
「……あれも十分キスだろが」
「は。あんなの入れてんなよ。キスってのはな」
馬鹿にしたように鼻で笑うと、貫士は寛人の胸ぐらをつかみ上げてきた。何しやがる、と言いかけたところで顔が近づき唇が合わさった。いつものように強引なやり方、だと思いきや触れた唇は驚くほど柔らかい。そしてゆっくり何度も微かに触れるように合わさってくる。その感触にどこかむずむずしていると今度は少し強めに押しつけられ、チュッというリップ音を立ててまた少し離してくる。それを何度も繰り返されながらうなじや耳に貫士の指が触れてきた。寛人が密かに一番演奏が上手いと思っている指は、もどかしいほどのタッチで寛人に触れてくる。
強気で偉そうな貫士なら、悪ふざけの延長でキスしてくるならもっと強引に力ずくでしてきそうなものだ。だというのにこんな風にされ、寛人は力が抜けボーッとしてきた。
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