53 / 65
Infinity編
8話
しおりを挟む
世間の学生は冬休みに入っており、どこも賑わっているらしい。寛人たちにとっては全く関係のないことだ。休みはもちろんあるが、二週間どころか二連休すら怪しい。好きでやっている仕事なので苦ではないが、たまにはゆっくり休みも欲しくなったりはする。
とはいえ曲の収録が終わった後などに次の予定までお互い皆でぼんやりしている時間も案外悪くはない。皆でと言いつつもそれぞれが好き勝手に過ごしてはいるのだが、むしろだからこそ気楽なのかもしれない。
だが。
「おい、これ食えよ」
「おら、お前の分」
「これ食っとけ」
最近、差し入れがある度に貫士がやたらと寛人に食べ物を勧めてくる。最初は「おぅ……」と戸惑い気味ではあるが受け取っていたものの、こうも続くと気味が悪い。
「てめえ、また何か企んでんじゃねぇだろな?」
また「これ食えよ」と包まれたままの洋菓子を一つ、ポンと投げて寄越してきた貫士を寛人はじろりと睨んだ。
「あ? 俺が親切なだけだろうが」
「お前が親切なわけねぇだろ!」
よくもまあどの口が親切だよ、と寛人はさらに貫士を睨む。だが貫士はどうでもいいといった様子で既に雑誌を読んでいた。
ちなみにいつも何を読んでいるのだろうと寛人は少しだけ気になって何度か覗いたことある。たまに自分たちの記事を読んでいることもあるが、大抵は寛人があまり興味のないファッション系の雑誌だった。しかも洋雑誌だったりもする。英語とかよく読めるなとまたチラリと見たことあるが、英語でもなかった気がする。もちろん、寛人に読めるはずない。
そもそもよくそんなに同じような雑誌を読んでいられるなと呆れたように言えば「よくそんなに同じような格好してられんな」としたり顔で返された。微妙な鬱陶しさに、雑誌のことで絡むのはそれ以来止めている。
多分今も、流行りがどうといったファッション系雑誌を見ているのだろう。寛人もどうでもよくなり、受け取ってしまった洋菓子の包みを外して食べ始めた。
「……最悪」
後日。最近何となくだるいというか、体が重いような気がすると思っていた寛人だが、自宅の洗面所で体重計に乗り呆然となっていた。
確かにここ暫くは体重計に乗っていなかった。だがそんなことは度々ある。それでも日々水や炭酸水を適度に飲みながら、かなり体を動かしているし食事の栄養バランスもあまり自分では作らないものの、それなりに気遣っている。
っくそ、絶対菓子の食いすぎじゃねえかよ!
間違いなく貫士のせいだとしか思えない。とはいえ確証はない。食べると体重に反映しやすい体質だというのは誰も知らないはずだ。
いや、待てよ……。
まだ体重計に乗ったまま寛人はハッとなる。この間、勉強をさせられた時に何かそれっぽいことを聞かれなかっただろうか。
寛人としてはこの間のことは忌々しくて、綺麗さっぱり忘れてしまいたい。だが渋々思い返した。
まず過ったのが貫士に抜かれたり素股されたことなのがまた忌々しい。正直なところ気持ちよかっただけに腹立たしくてならない。
そうだ、その原因になった罰ゲーム。あの質問で確か聞かれた。
「じゃあ二つめな。お前、差し入れあんま食わねぇの、甘いもん好きじゃねぇの?」
だが質問はそんな感じだったし、それに対して寛人が答えたのも「別に。普通に食える、けどすげー好きって訳でもねぇ。気が向いたら食うだけだし」だったはずだ。普通の質問に普通の答え。それでよもや寛人が本当は食べたら体重に反映しやすいとバレるはずない。
だが現に貫士はここ数日、気持ち悪いほど寛人に菓子を食べさせようとしてきた。
まさかあれでわかるはずない。はずない、のだが、貫士だけにわからない。
それが気になって仕方なく、その日はもう、少しだけのんびりして眠るだけだったというのにちっとも寛いだ時間にならなかった。
翌日はお互い別の仕事だったため、顔を合わすことなかった。その次の日もしかり。さらに次の日はメンバー揃っての仕事があったが、バタバタして話すタイミングがなかった。
そんなことを繰り返し、少しイライラが溜まってしまっていたようだ。自分に時間ができ、そして貫士も家にいるはずである夜、寛人はかなり仏頂面で貫士の家のインターホンを押していた。
「……何」
心底面倒そうな様子の貫士が出てきた。上半身裸なことに寛人がギョッとしていると、追い返すどころか寛人が何か言う前に家の中へ入れていた。
「おい……」
そのまま何も言わず、恐らく寝室だろうという部屋まで引っ張られる。勉強の時のこともありますますギョッとしていると、部屋の中のベッドにはあられもない格好をした女性がいて、驚いた様子で寛人たちを見てきた。
「ちょ……」
驚くのはこっちだわと寛人が焦って貫士の手を振りほどこうとしている中、女性はバタバタと服を抱えて部屋から出て行く。
「もー来んなよ」
おまけに貫士の言葉がろくでもない。
「おま……っ、何やって……何考えてんだよっ?」
「あ? つかお前、何の用」
「引っ張り込んどいてその言い種かよ!」
ろくでなしの最低野郎だとは思っていたが、本当に最低だなと女性が出て行ったあとを見ていると、思い切りため息つかれた。
「あー、ねみぃ」
そして貫士はベッドにダイブするように横になった。
「……何だこの状況」
質問のことをそれとなく聞きにきただけだというのに、一気に脳内処理できない出来事に出くわし、寛人は唖然とする。
「……帰んなら鍵してけ。カードキーはキッチンのテーブルに置きっぱだからよ」
「は? いや──」
「鍵、明日また持って来い」
「はぁ? 何偉そうなこと──」
「おやすみ」
貫士は本気でそのまま寝てしまった。
とはいえ曲の収録が終わった後などに次の予定までお互い皆でぼんやりしている時間も案外悪くはない。皆でと言いつつもそれぞれが好き勝手に過ごしてはいるのだが、むしろだからこそ気楽なのかもしれない。
だが。
「おい、これ食えよ」
「おら、お前の分」
「これ食っとけ」
最近、差し入れがある度に貫士がやたらと寛人に食べ物を勧めてくる。最初は「おぅ……」と戸惑い気味ではあるが受け取っていたものの、こうも続くと気味が悪い。
「てめえ、また何か企んでんじゃねぇだろな?」
また「これ食えよ」と包まれたままの洋菓子を一つ、ポンと投げて寄越してきた貫士を寛人はじろりと睨んだ。
「あ? 俺が親切なだけだろうが」
「お前が親切なわけねぇだろ!」
よくもまあどの口が親切だよ、と寛人はさらに貫士を睨む。だが貫士はどうでもいいといった様子で既に雑誌を読んでいた。
ちなみにいつも何を読んでいるのだろうと寛人は少しだけ気になって何度か覗いたことある。たまに自分たちの記事を読んでいることもあるが、大抵は寛人があまり興味のないファッション系の雑誌だった。しかも洋雑誌だったりもする。英語とかよく読めるなとまたチラリと見たことあるが、英語でもなかった気がする。もちろん、寛人に読めるはずない。
そもそもよくそんなに同じような雑誌を読んでいられるなと呆れたように言えば「よくそんなに同じような格好してられんな」としたり顔で返された。微妙な鬱陶しさに、雑誌のことで絡むのはそれ以来止めている。
多分今も、流行りがどうといったファッション系雑誌を見ているのだろう。寛人もどうでもよくなり、受け取ってしまった洋菓子の包みを外して食べ始めた。
「……最悪」
後日。最近何となくだるいというか、体が重いような気がすると思っていた寛人だが、自宅の洗面所で体重計に乗り呆然となっていた。
確かにここ暫くは体重計に乗っていなかった。だがそんなことは度々ある。それでも日々水や炭酸水を適度に飲みながら、かなり体を動かしているし食事の栄養バランスもあまり自分では作らないものの、それなりに気遣っている。
っくそ、絶対菓子の食いすぎじゃねえかよ!
間違いなく貫士のせいだとしか思えない。とはいえ確証はない。食べると体重に反映しやすい体質だというのは誰も知らないはずだ。
いや、待てよ……。
まだ体重計に乗ったまま寛人はハッとなる。この間、勉強をさせられた時に何かそれっぽいことを聞かれなかっただろうか。
寛人としてはこの間のことは忌々しくて、綺麗さっぱり忘れてしまいたい。だが渋々思い返した。
まず過ったのが貫士に抜かれたり素股されたことなのがまた忌々しい。正直なところ気持ちよかっただけに腹立たしくてならない。
そうだ、その原因になった罰ゲーム。あの質問で確か聞かれた。
「じゃあ二つめな。お前、差し入れあんま食わねぇの、甘いもん好きじゃねぇの?」
だが質問はそんな感じだったし、それに対して寛人が答えたのも「別に。普通に食える、けどすげー好きって訳でもねぇ。気が向いたら食うだけだし」だったはずだ。普通の質問に普通の答え。それでよもや寛人が本当は食べたら体重に反映しやすいとバレるはずない。
だが現に貫士はここ数日、気持ち悪いほど寛人に菓子を食べさせようとしてきた。
まさかあれでわかるはずない。はずない、のだが、貫士だけにわからない。
それが気になって仕方なく、その日はもう、少しだけのんびりして眠るだけだったというのにちっとも寛いだ時間にならなかった。
翌日はお互い別の仕事だったため、顔を合わすことなかった。その次の日もしかり。さらに次の日はメンバー揃っての仕事があったが、バタバタして話すタイミングがなかった。
そんなことを繰り返し、少しイライラが溜まってしまっていたようだ。自分に時間ができ、そして貫士も家にいるはずである夜、寛人はかなり仏頂面で貫士の家のインターホンを押していた。
「……何」
心底面倒そうな様子の貫士が出てきた。上半身裸なことに寛人がギョッとしていると、追い返すどころか寛人が何か言う前に家の中へ入れていた。
「おい……」
そのまま何も言わず、恐らく寝室だろうという部屋まで引っ張られる。勉強の時のこともありますますギョッとしていると、部屋の中のベッドにはあられもない格好をした女性がいて、驚いた様子で寛人たちを見てきた。
「ちょ……」
驚くのはこっちだわと寛人が焦って貫士の手を振りほどこうとしている中、女性はバタバタと服を抱えて部屋から出て行く。
「もー来んなよ」
おまけに貫士の言葉がろくでもない。
「おま……っ、何やって……何考えてんだよっ?」
「あ? つかお前、何の用」
「引っ張り込んどいてその言い種かよ!」
ろくでなしの最低野郎だとは思っていたが、本当に最低だなと女性が出て行ったあとを見ていると、思い切りため息つかれた。
「あー、ねみぃ」
そして貫士はベッドにダイブするように横になった。
「……何だこの状況」
質問のことをそれとなく聞きにきただけだというのに、一気に脳内処理できない出来事に出くわし、寛人は唖然とする。
「……帰んなら鍵してけ。カードキーはキッチンのテーブルに置きっぱだからよ」
「は? いや──」
「鍵、明日また持って来い」
「はぁ? 何偉そうなこと──」
「おやすみ」
貫士は本気でそのまま寝てしまった。
11
あなたにおすすめの小説
期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。
さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩
部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。
「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」
いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。
君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜
ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。
ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。
しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。
しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる