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Infinity編
9話
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音楽番組の収録が終わった後、楽屋へ向かっている途中に葵が「おい」とイライラした様子で寛人に話しかけてきた。
「……何だよ」
「何だよじゃねんだよ。てめ、本番にボーッとしてんじゃねぇよ。この俺がさりげなく喋って誤魔化したおかげで上手く流れたんだからな!」
「あー、それは……悪かった」
「はぁ? 何だよ……お前。妙に素直でキモいな」
「は? じゃあ文句言い返せばいいのかよ」
「そうは言ってねぇ! つかゴンのくせに珍しいだろが。何かあったんかよ」
「いや、別にねぇ」
ただ、結局貫士は寛人の体質を知っているのか偶然なのかわからない上に、寛人に対してろくでもないふざけたことをしておきながら彼女らしきものがいたということと、その彼女らしきものへの扱いが最悪だったということ、何というか色々よくわからない気がするということくらいだ。今朝渋々鍵を持って行くと貫士はいつもと変わらない様子な上に鍵を渡すと怪訝な顔をしてきた。寛人が「覚えてねぇのかよ」と呆れるとようやく「……? あー……、何か思い出したわ」と弁明も悪びれる様子もなかった。別に何もない。
「……ならいいけどよ。無理してんじゃねーぞクソが」
葵はぶつぶつ言いながら先に歩いて行った。偉そうで自分主体なところはあるが、基本的に悪いやつではない。口は悪いのもあって同じくあまり口がよくない寛人と言い合いになることもあるが、年下だからだろうか、それとも性格だろうか。かわいらしいところもある。貫士とはえらい違いだ。
とはいえ、仕事中に上の空になってしまったのは本当にいただけないと寛人も思う。普段から無口なキャラとして知られているのでさほど目立つミスではないかもしれないが、葵のおかげで助かったと改めて思った。
楽屋では相変わらず皆それぞれ好きに過ごしていた。ドーランを落としたり次の予定を確認したり彼女に電話したり。基希は寛人が入ってくるのに気づいても特に何も言わなかった。多分ミスには気づいているのだろうが、いつもよほどのことがない限り注意してくることはない。むしろこうして皆で集まって自由にしている時のほうが「オカン」的小言能力を発揮してくる。ただ今はどうやら貫士が化粧台にうつ伏せになって寝ているのと葵は次のスケジュール調整のため静かなのと、凜太は彼女と話しているのもあり、基希はのんびり化粧を落としていた。
「カンジ、そろそろ起こそうかな」
少ししてチラリと時計を見た基希に、寛人は「俺が」と声をかける。
「まだここいるし俺がもうちょい後で起こしてやる。こいつも俺と同じく今日は夜に予定入ってるだけだろし。スイとエンは次の仕事控えてんだろ? あとフータはどうやら滅多にないデートらしいしな」
「そう? 悪いね、ゴン。にしても、いつも喧嘩ばかりなのにどういう風の吹き回し? 仲よくなったの?」
ニッコリした後に基希からそう聞かれ、寛人は慌てて首を振った。
「んなわけねぇ。誰がこんなやつと仲よくするかよ。ただこいつ眠そうだったし仕事影響するよりはまだもう少し寝かせたほうがましってだけ」
「……ふーん、なるほどね。じゃあ頼むよ。エン、フータ、二人とも出られそう?」
「問題ねぇ」
「うん、帰るー」
三人が出ていくと、寛人は小さくため息ついた。
眠そうだったのは本当だ。というか昨夜から眠そうだったし寛人を無理やり中へ入れて女を追い出した後に実際即寝をかましていた。
だがもちろん貫士のために後で起こすなどといった役を引き受けたのではない。色々確認するためだ。とりあえず今すぐ叩き起こしてやろうと、無防備に眠っている貫士に近づいた。
眠っている貫士はただひたすら綺麗な顔している。
一生寝てりゃ、まだかわいげもあんのによ。
じっと顔を見ながら寛人が思っていると、眠っていたはずの貫士が吹き出し始めた。
「ぶ、っくく」
「なっ、てめ、寝てたんじゃねぇのかよ……」
慌てて言えば、貫士がのそりと頭を起こした。
「寝てたわ。だけど熱い視線を感じてな」
「キモいこと言ってんじゃねぇよ」
「本当のことだろが。つか、何か用かよ」
そういえば昨夜も「何か用か」と言われたのを寛人は思い出す。別におかしなことではないのだろうが、あんなことをされただけに何となくそう言われるのも忌々しい。
用がなきゃ声、かけちゃいけねぇのかよ。
そう言い返そうとして、すんでのところで口を閉じた。実際、用があるから声をかけようとしているのだ。用がなければ貫士にわざわざ会いに行くはずもない。あやうく本意でなさすぎる売り言葉に買い言葉になるところだった。
「……お前、最近何でやたら菓子食わせんだよ」
「あ? ああ。俺が親切だからだろうが」
「ちゃんと答えろ」
「んだよ、うぜぇな。……あー」
面倒そうな顔をした後に、貫士がニヤリと寛人を見てきた。
「お肉、ついちゃったのか?」
こいつ、やっぱわかって……でも、何で……。
「何でって顔すんなよ。お前はわかりやすいんだよ、バーカ」
「はぁっ?」
「こないだの勉強ん時の質問も、差し入れのことが本命だったからな。後はつけ足し」
「はぁっ?」
「はぁはぁうるせぇな。太って息でも荒くなったかよ」
「なってねぇよ……!」
確かにあの質問以外はどうでもよさそうなセクハラめいた質問だとは寛人も思っていた。だが本当にそうだったとは。
「つか太ってねぇ!」
「でも体重増えたんだろ?」
「嬉しそうに言うな」
「いやぁ、楽しいじゃねーの。あと、お前はもうちょい肉ついてるぐらいが丁度いいって。痩せすぎなんだよ」
「筋肉くらいつけてる」
「そういう問題じゃねぇ。だいたい俺が楽しくねぇだろ」
「は? 何でだよ」
「もうちょい肉あるほうが触り心地いいに決まってんだろが」
こいつは本当に一回死んだほうがいい。
寛人は思い切り貫士を睨みながら思った。
「……何だよ」
「何だよじゃねんだよ。てめ、本番にボーッとしてんじゃねぇよ。この俺がさりげなく喋って誤魔化したおかげで上手く流れたんだからな!」
「あー、それは……悪かった」
「はぁ? 何だよ……お前。妙に素直でキモいな」
「は? じゃあ文句言い返せばいいのかよ」
「そうは言ってねぇ! つかゴンのくせに珍しいだろが。何かあったんかよ」
「いや、別にねぇ」
ただ、結局貫士は寛人の体質を知っているのか偶然なのかわからない上に、寛人に対してろくでもないふざけたことをしておきながら彼女らしきものがいたということと、その彼女らしきものへの扱いが最悪だったということ、何というか色々よくわからない気がするということくらいだ。今朝渋々鍵を持って行くと貫士はいつもと変わらない様子な上に鍵を渡すと怪訝な顔をしてきた。寛人が「覚えてねぇのかよ」と呆れるとようやく「……? あー……、何か思い出したわ」と弁明も悪びれる様子もなかった。別に何もない。
「……ならいいけどよ。無理してんじゃねーぞクソが」
葵はぶつぶつ言いながら先に歩いて行った。偉そうで自分主体なところはあるが、基本的に悪いやつではない。口は悪いのもあって同じくあまり口がよくない寛人と言い合いになることもあるが、年下だからだろうか、それとも性格だろうか。かわいらしいところもある。貫士とはえらい違いだ。
とはいえ、仕事中に上の空になってしまったのは本当にいただけないと寛人も思う。普段から無口なキャラとして知られているのでさほど目立つミスではないかもしれないが、葵のおかげで助かったと改めて思った。
楽屋では相変わらず皆それぞれ好きに過ごしていた。ドーランを落としたり次の予定を確認したり彼女に電話したり。基希は寛人が入ってくるのに気づいても特に何も言わなかった。多分ミスには気づいているのだろうが、いつもよほどのことがない限り注意してくることはない。むしろこうして皆で集まって自由にしている時のほうが「オカン」的小言能力を発揮してくる。ただ今はどうやら貫士が化粧台にうつ伏せになって寝ているのと葵は次のスケジュール調整のため静かなのと、凜太は彼女と話しているのもあり、基希はのんびり化粧を落としていた。
「カンジ、そろそろ起こそうかな」
少ししてチラリと時計を見た基希に、寛人は「俺が」と声をかける。
「まだここいるし俺がもうちょい後で起こしてやる。こいつも俺と同じく今日は夜に予定入ってるだけだろし。スイとエンは次の仕事控えてんだろ? あとフータはどうやら滅多にないデートらしいしな」
「そう? 悪いね、ゴン。にしても、いつも喧嘩ばかりなのにどういう風の吹き回し? 仲よくなったの?」
ニッコリした後に基希からそう聞かれ、寛人は慌てて首を振った。
「んなわけねぇ。誰がこんなやつと仲よくするかよ。ただこいつ眠そうだったし仕事影響するよりはまだもう少し寝かせたほうがましってだけ」
「……ふーん、なるほどね。じゃあ頼むよ。エン、フータ、二人とも出られそう?」
「問題ねぇ」
「うん、帰るー」
三人が出ていくと、寛人は小さくため息ついた。
眠そうだったのは本当だ。というか昨夜から眠そうだったし寛人を無理やり中へ入れて女を追い出した後に実際即寝をかましていた。
だがもちろん貫士のために後で起こすなどといった役を引き受けたのではない。色々確認するためだ。とりあえず今すぐ叩き起こしてやろうと、無防備に眠っている貫士に近づいた。
眠っている貫士はただひたすら綺麗な顔している。
一生寝てりゃ、まだかわいげもあんのによ。
じっと顔を見ながら寛人が思っていると、眠っていたはずの貫士が吹き出し始めた。
「ぶ、っくく」
「なっ、てめ、寝てたんじゃねぇのかよ……」
慌てて言えば、貫士がのそりと頭を起こした。
「寝てたわ。だけど熱い視線を感じてな」
「キモいこと言ってんじゃねぇよ」
「本当のことだろが。つか、何か用かよ」
そういえば昨夜も「何か用か」と言われたのを寛人は思い出す。別におかしなことではないのだろうが、あんなことをされただけに何となくそう言われるのも忌々しい。
用がなきゃ声、かけちゃいけねぇのかよ。
そう言い返そうとして、すんでのところで口を閉じた。実際、用があるから声をかけようとしているのだ。用がなければ貫士にわざわざ会いに行くはずもない。あやうく本意でなさすぎる売り言葉に買い言葉になるところだった。
「……お前、最近何でやたら菓子食わせんだよ」
「あ? ああ。俺が親切だからだろうが」
「ちゃんと答えろ」
「んだよ、うぜぇな。……あー」
面倒そうな顔をした後に、貫士がニヤリと寛人を見てきた。
「お肉、ついちゃったのか?」
こいつ、やっぱわかって……でも、何で……。
「何でって顔すんなよ。お前はわかりやすいんだよ、バーカ」
「はぁっ?」
「こないだの勉強ん時の質問も、差し入れのことが本命だったからな。後はつけ足し」
「はぁっ?」
「はぁはぁうるせぇな。太って息でも荒くなったかよ」
「なってねぇよ……!」
確かにあの質問以外はどうでもよさそうなセクハラめいた質問だとは寛人も思っていた。だが本当にそうだったとは。
「つか太ってねぇ!」
「でも体重増えたんだろ?」
「嬉しそうに言うな」
「いやぁ、楽しいじゃねーの。あと、お前はもうちょい肉ついてるぐらいが丁度いいって。痩せすぎなんだよ」
「筋肉くらいつけてる」
「そういう問題じゃねぇ。だいたい俺が楽しくねぇだろ」
「は? 何でだよ」
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こいつは本当に一回死んだほうがいい。
寛人は思い切り貫士を睨みながら思った。
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