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第一章
将来への希望【テオ視点】
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「テオノア。お前に話がある」
「何ですか?父上。兄上の作ったお菓子を譲渡せよとの仰せであらば、お断りさせて頂きます」
「菓子の事では無い!…ユキヤの事だ」
「兄上の?」
一泊置いて、父の碧眼が、鋭く自分を見つめた。
「テオノア。お前、ユキヤをどう思っている?」
「どう…とは?」
ドクリと、心臓が跳ねる。まさか…自分の兄に対する想いがバレている?
「兄としてではなく、一人の人間として、愛しいと思っているのかと聞いているのだ」
父の直球とも言える物言いに、血の気が一気に引いた。やはり自分の想いはバレていたのだ。膝の上で握りしめた拳が僅かに震え出す。
「それは…もし、そうだとしたら…父上はどうされるおつもりなのですか?」
社交界で一二を争う切れ者と評判の父に、言い訳など通じないだろう。
兄への想いを内に秘め続ける事に疲れていた俺は、諦めと共に父へと言葉を返した。だが、次に父の口から出た意外な言葉に、俺は目を見開いたのだった。
「やはりそうか。ならばテオノア。お前、ユキヤに決闘を申し込め」
――決闘。
それは自分の名誉を守ったり、遺恨のある相手に挑んだりする時に用いられる戦いだが、今現在の貴族間での決闘とは、すなわち自分の伴侶にと望む相手に勝負を挑む事だ。
立会人を立てて決闘を挑み、相手が承諾したら己の魔力、武術全ての力を使って相手を打ち負かす。そして勝利すれば、敗者となった相手を無条件で己のものにする事が出来る。
父のウェズレイも、母のセオドアを手に入れる為に決闘を挑み、見事勝利し伴侶にした。つまり父は自分に、兄のユキヤを伴侶にしろ言っているのだ。
「そ…そんな事、出来る訳がありません。兄と私は兄弟で…」
「しかし、血は繋がっていない。テオノア、ユキヤは…あの子は特殊な体質をしている。私達が守ってやれるうちは良いが、公爵家を継ぎ、当主となってしまえば、あの子にとっては危険しかない『外』へと出て行かなくてはならないのだ。はっきり言って、それは茨の道だろう」
「でしたら、私が兄上をお支えします!」
「…テオノア。私はお前を次期アスタール公爵にしたいと思っている」
「父上!?」
「だからこそ、幼少の頃からお前には厳しく接してきた。…ユキヤは素晴らしい子だ。頭もよく、武術にも秀でて、おまけに優しい。しかも我が愛しのセオドアと瓜二つの自慢の息子だ。だが、それで公爵家を継がせるのは酷な事だろう。あの子には、あの子を心から慕い、命懸けで守る者が必要だ。テオノア、私はそれをお前にしてもらいたいと望んでいるのだ」
「で、ですが…。ああ見えて兄上は文武共に秀で、魔力量も高く…」
相手を娶る為に行われる決闘は、一回限りと決められている。つまりもし俺が兄に挑んだとして、負けてしまえばそれで終わりなのだ。
「大丈夫だ。あの子は、父親や実母であるベハティ師匠ゆずりで武術は天才的だが、魔力量に対して魔力操作が壊滅的だ。ゆえに決闘を申し込んだら、そこを確実に突け!」
これは本当の事で、兄は魔力は高くとも、それを上手く扱う事が出来ない。だから、兄に自分の身は自分で守ってもらいたいと願う、母セオドアの頭痛の種となっている。
勿論、この事を知っているのは父と母、そして俺と、兄の実の母である『ラヴィーンの守護神』と称される伝説の武闘家、ベハティ様のみ。
もしこの事実が知られてしまえば、兄を熱愛しているエイトールら分家筋の従弟達が、こぞって決闘を申し込んで来るだろう事は想像にかたくない。
そういえば。父は兄から指導を申し込まれても、仕事を理由にのらりくらりとそれを断っていた。それはいずれ、俺が兄に決闘を申し込んだ時に戦いを有利にさせる為だったのか。
…というか父上。兄が公爵家を継いで苦労する事を勿論心配しているのだろうが、溺愛している義理の息子を自分の息子と結婚させる事によって、ずっと手元に置いておく事の方が本命なんじゃなかろうか。
…でも…。
――兄上と結婚出来るかもしれない。
許されないと…諦めなければとずっと思っていた。知られてはいけない。捨て去らなければ…。そう思っていた。だけどひょっとしたら、この恋心が叶うかもしれない。
あの美しい人を自分のものにし、一生共にいられるかもしれない。
父と母のように愛し愛され、共に歩んでいく人生を掴み取る事ができるかもしれない。……それはなんと、魅惑的な未来だろうか。
だが、そんな甘い夢想にひたる猶予はなかった。
学院に戻った俺は、『勅命』が下り、ローレンス王子に兄に対して決闘を申し込むと聞かされ、愕然としたからだった。
「何ですか?父上。兄上の作ったお菓子を譲渡せよとの仰せであらば、お断りさせて頂きます」
「菓子の事では無い!…ユキヤの事だ」
「兄上の?」
一泊置いて、父の碧眼が、鋭く自分を見つめた。
「テオノア。お前、ユキヤをどう思っている?」
「どう…とは?」
ドクリと、心臓が跳ねる。まさか…自分の兄に対する想いがバレている?
「兄としてではなく、一人の人間として、愛しいと思っているのかと聞いているのだ」
父の直球とも言える物言いに、血の気が一気に引いた。やはり自分の想いはバレていたのだ。膝の上で握りしめた拳が僅かに震え出す。
「それは…もし、そうだとしたら…父上はどうされるおつもりなのですか?」
社交界で一二を争う切れ者と評判の父に、言い訳など通じないだろう。
兄への想いを内に秘め続ける事に疲れていた俺は、諦めと共に父へと言葉を返した。だが、次に父の口から出た意外な言葉に、俺は目を見開いたのだった。
「やはりそうか。ならばテオノア。お前、ユキヤに決闘を申し込め」
――決闘。
それは自分の名誉を守ったり、遺恨のある相手に挑んだりする時に用いられる戦いだが、今現在の貴族間での決闘とは、すなわち自分の伴侶にと望む相手に勝負を挑む事だ。
立会人を立てて決闘を挑み、相手が承諾したら己の魔力、武術全ての力を使って相手を打ち負かす。そして勝利すれば、敗者となった相手を無条件で己のものにする事が出来る。
父のウェズレイも、母のセオドアを手に入れる為に決闘を挑み、見事勝利し伴侶にした。つまり父は自分に、兄のユキヤを伴侶にしろ言っているのだ。
「そ…そんな事、出来る訳がありません。兄と私は兄弟で…」
「しかし、血は繋がっていない。テオノア、ユキヤは…あの子は特殊な体質をしている。私達が守ってやれるうちは良いが、公爵家を継ぎ、当主となってしまえば、あの子にとっては危険しかない『外』へと出て行かなくてはならないのだ。はっきり言って、それは茨の道だろう」
「でしたら、私が兄上をお支えします!」
「…テオノア。私はお前を次期アスタール公爵にしたいと思っている」
「父上!?」
「だからこそ、幼少の頃からお前には厳しく接してきた。…ユキヤは素晴らしい子だ。頭もよく、武術にも秀でて、おまけに優しい。しかも我が愛しのセオドアと瓜二つの自慢の息子だ。だが、それで公爵家を継がせるのは酷な事だろう。あの子には、あの子を心から慕い、命懸けで守る者が必要だ。テオノア、私はそれをお前にしてもらいたいと望んでいるのだ」
「で、ですが…。ああ見えて兄上は文武共に秀で、魔力量も高く…」
相手を娶る為に行われる決闘は、一回限りと決められている。つまりもし俺が兄に挑んだとして、負けてしまえばそれで終わりなのだ。
「大丈夫だ。あの子は、父親や実母であるベハティ師匠ゆずりで武術は天才的だが、魔力量に対して魔力操作が壊滅的だ。ゆえに決闘を申し込んだら、そこを確実に突け!」
これは本当の事で、兄は魔力は高くとも、それを上手く扱う事が出来ない。だから、兄に自分の身は自分で守ってもらいたいと願う、母セオドアの頭痛の種となっている。
勿論、この事を知っているのは父と母、そして俺と、兄の実の母である『ラヴィーンの守護神』と称される伝説の武闘家、ベハティ様のみ。
もしこの事実が知られてしまえば、兄を熱愛しているエイトールら分家筋の従弟達が、こぞって決闘を申し込んで来るだろう事は想像にかたくない。
そういえば。父は兄から指導を申し込まれても、仕事を理由にのらりくらりとそれを断っていた。それはいずれ、俺が兄に決闘を申し込んだ時に戦いを有利にさせる為だったのか。
…というか父上。兄が公爵家を継いで苦労する事を勿論心配しているのだろうが、溺愛している義理の息子を自分の息子と結婚させる事によって、ずっと手元に置いておく事の方が本命なんじゃなかろうか。
…でも…。
――兄上と結婚出来るかもしれない。
許されないと…諦めなければとずっと思っていた。知られてはいけない。捨て去らなければ…。そう思っていた。だけどひょっとしたら、この恋心が叶うかもしれない。
あの美しい人を自分のものにし、一生共にいられるかもしれない。
父と母のように愛し愛され、共に歩んでいく人生を掴み取る事ができるかもしれない。……それはなんと、魅惑的な未来だろうか。
だが、そんな甘い夢想にひたる猶予はなかった。
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