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第一章

望まぬ求婚【テオ視点】

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第二王子は非常に美しい容姿をしていた。

輝くような金髪に、深い翡翠色の瞳。守ってやりたくなるような華奢な体躯。まさに絶世の美少年と言っていいだろう。

そんな彼に、生徒会を始めとした有力な貴族の子弟や騎士の子弟達は揃って骨抜きにされていき、まるで下僕のように第二王子に傅いた。
また、王子もそれを当然のようにし、見目の良い者達を取り巻きのように侍らせていた。

だが、俺は王子がどれだけ美しかろうと、彼にまったく興味を持つ事はなかった。

美しさで言えば、俺にとって兄のユキヤ以上に美しいと思える相手はいなかったし、性格も何もかも、兄とまるで正反対なローレンス王子に好意を持つ事が出来なかったのだ。

だが不運にも、ローレンス王子は俺を気に入ってしまい、事あるごとにアプローチをかけてくるようになってしまった。

それを無礼にならない程度にかわしていったのだが、ローレンス王子は増々積極的に俺に付きまといだし、遂には正式な伴侶に…婚約者になれと申し出てきたのだ。

俺は求婚に対し、分不相応だと断った。だがそれをどう勘違いしたのか、ローレンス王子はあろう事か兄のユキヤを侮辱してきた。

「そんな謙遜を言わずともいい。そもそも君の兄は、学院に通う事も出来ない程身体も魔力も弱く、血統も劣る社会不適合な人物と聞いている。そんな者が長子であるというだけで、次期アスタール公爵とされているのは、さぞ君にとって理不尽な事であったろう。テオノア、私と結婚をすれば、私が君の後ろ盾になってやれる。そんな出来損ないなど廃嫡させ、正しい血筋へと公爵家を戻す手伝いをしようではないか」

――怒りで目の前が真っ赤になった。

誰にそんな根も葉もない事を聞いたのか。そして会った事も無い人物に対し、この王子は何故こんなにも酷い事を言えるのだろうか。

「ふざけた事を…!アスタール公爵家を継ぐのは我が兄、ユキヤ以外有り得ん!そのような下種な憶測で、私の大切な兄を侮辱するのは止めて頂きたい!」

思わずそう叫んでしまった。そして激高するままに、その場でローレンス王子の求愛を断ったのだが、実は何をどう言って断ったのか、怒りのあまりよく覚えていない。

エイトールいわく「いや~、よく言った!でも俺がもしあの王子の立場だったら、三日は凹むわ~!」…だそうなので、不敬スレスレだったのは間違いないだろう。

しかし、ローレンス王子の最高峰並みのプライド故か、はたまた頭が弱いのか。心からお断りしているというのに、一向に俺を諦めようとはしなかった。

遂には決闘話まで持ち出してきたが、「受けてもいいが、もし自分が負けたら潔く自決する」と言ったら、それ以降は話題にしなくなった。

そんな俺に対し、学院の半数近くにのぼるローレンス王子の信奉者達は嫌がらせを仕掛けてきたが、アスタール公爵家は王家とも繋がりのある大貴族。

加えてアスタール公爵家に連なる分家筋の者達は皆、俺と同じく兄の信奉者達なので、それらを考慮してか、嫌がらせはごくささやかなものとなった。まさに数より質といったところだ。

父親であるウェズレイは「困った事があれば私に言いなさい」と、遠回しにローレンス王子の求愛に対し、自分に遠慮なく頼れとアドバイスしてきた。

兄は自分よりも俺に厳しい父の事を気にしていたが、父は愛情の示し方が違うだけで、なんだかんだ言って俺にも裏では結構甘い。
俺は父の心遣いに感謝しつつ、王子の求愛の事を母であるセオドアと、兄のユキヤの耳に入らないようにとだけ願い出た。

兄は元々引きこもり生活だし、母のセオドアも社交界嫌いで滅多に公の場に出ない。だから、父が気を付けてさえいればこの問題が耳に入る事はないだろう。何より俺のせいで兄が悪く言われている、という事実を耳に入れたくなかったのだ。

そうして兄への思慕と学院での王子との攻防を繰り返す毎日を送っていたのだが、たまたま王宮に呼び出された父と馬車を同じくした時、思わぬ出来事が起こった。
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