39 / 194
第一章
望まぬ求婚【テオ視点】
しおりを挟む
第二王子は非常に美しい容姿をしていた。
輝くような金髪に、深い翡翠色の瞳。守ってやりたくなるような華奢な体躯。まさに絶世の美少年と言っていいだろう。
そんな彼に、生徒会を始めとした有力な貴族の子弟や騎士の子弟達は揃って骨抜きにされていき、まるで下僕のように第二王子に傅いた。
また、王子もそれを当然のようにし、見目の良い者達を取り巻きのように侍らせていた。
だが、俺は王子がどれだけ美しかろうと、彼にまったく興味を持つ事はなかった。
美しさで言えば、俺にとって兄のユキヤ以上に美しいと思える相手はいなかったし、性格も何もかも、兄とまるで正反対なローレンス王子に好意を持つ事が出来なかったのだ。
だが不運にも、ローレンス王子は俺を気に入ってしまい、事あるごとにアプローチをかけてくるようになってしまった。
それを無礼にならない程度にかわしていったのだが、ローレンス王子は増々積極的に俺に付きまといだし、遂には正式な伴侶に…婚約者になれと申し出てきたのだ。
俺は求婚に対し、分不相応だと断った。だがそれをどう勘違いしたのか、ローレンス王子はあろう事か兄のユキヤを侮辱してきた。
「そんな謙遜を言わずともいい。そもそも君の兄は、学院に通う事も出来ない程身体も魔力も弱く、血統も劣る社会不適合な人物と聞いている。そんな者が長子であるというだけで、次期アスタール公爵とされているのは、さぞ君にとって理不尽な事であったろう。テオノア、私と結婚をすれば、私が君の後ろ盾になってやれる。そんな出来損ないなど廃嫡させ、正しい血筋へと公爵家を戻す手伝いをしようではないか」
――怒りで目の前が真っ赤になった。
誰にそんな根も葉もない事を聞いたのか。そして会った事も無い人物に対し、この王子は何故こんなにも酷い事を言えるのだろうか。
「ふざけた事を…!アスタール公爵家を継ぐのは我が兄、ユキヤ以外有り得ん!そのような下種な憶測で、私の大切な兄を侮辱するのは止めて頂きたい!」
思わずそう叫んでしまった。そして激高するままに、その場でローレンス王子の求愛を断ったのだが、実は何をどう言って断ったのか、怒りのあまりよく覚えていない。
エイトールいわく「いや~、よく言った!でも俺がもしあの王子の立場だったら、三日は凹むわ~!」…だそうなので、不敬スレスレだったのは間違いないだろう。
しかし、ローレンス王子の最高峰並みのプライド故か、はたまた頭が弱いのか。心からお断りしているというのに、一向に俺を諦めようとはしなかった。
遂には決闘話まで持ち出してきたが、「受けてもいいが、もし自分が負けたら潔く自決する」と言ったら、それ以降は話題にしなくなった。
そんな俺に対し、学院の半数近くにのぼるローレンス王子の信奉者達は嫌がらせを仕掛けてきたが、アスタール公爵家は王家とも繋がりのある大貴族。
加えてアスタール公爵家に連なる分家筋の者達は皆、俺と同じく兄の信奉者達なので、それらを考慮してか、嫌がらせはごくささやかなものとなった。まさに数より質といったところだ。
父親であるウェズレイは「困った事があれば私に言いなさい」と、遠回しにローレンス王子の求愛に対し、自分に遠慮なく頼れとアドバイスしてきた。
兄は自分よりも俺に厳しい父の事を気にしていたが、父は愛情の示し方が違うだけで、なんだかんだ言って俺にも裏では結構甘い。
俺は父の心遣いに感謝しつつ、王子の求愛の事を母であるセオドアと、兄のユキヤの耳に入らないようにとだけ願い出た。
兄は元々引きこもり生活だし、母のセオドアも社交界嫌いで滅多に公の場に出ない。だから、父が気を付けてさえいればこの問題が耳に入る事はないだろう。何より俺のせいで兄が悪く言われている、という事実を耳に入れたくなかったのだ。
そうして兄への思慕と学院での王子との攻防を繰り返す毎日を送っていたのだが、たまたま王宮に呼び出された父と馬車を同じくした時、思わぬ出来事が起こった。
輝くような金髪に、深い翡翠色の瞳。守ってやりたくなるような華奢な体躯。まさに絶世の美少年と言っていいだろう。
そんな彼に、生徒会を始めとした有力な貴族の子弟や騎士の子弟達は揃って骨抜きにされていき、まるで下僕のように第二王子に傅いた。
また、王子もそれを当然のようにし、見目の良い者達を取り巻きのように侍らせていた。
だが、俺は王子がどれだけ美しかろうと、彼にまったく興味を持つ事はなかった。
美しさで言えば、俺にとって兄のユキヤ以上に美しいと思える相手はいなかったし、性格も何もかも、兄とまるで正反対なローレンス王子に好意を持つ事が出来なかったのだ。
だが不運にも、ローレンス王子は俺を気に入ってしまい、事あるごとにアプローチをかけてくるようになってしまった。
それを無礼にならない程度にかわしていったのだが、ローレンス王子は増々積極的に俺に付きまといだし、遂には正式な伴侶に…婚約者になれと申し出てきたのだ。
俺は求婚に対し、分不相応だと断った。だがそれをどう勘違いしたのか、ローレンス王子はあろう事か兄のユキヤを侮辱してきた。
「そんな謙遜を言わずともいい。そもそも君の兄は、学院に通う事も出来ない程身体も魔力も弱く、血統も劣る社会不適合な人物と聞いている。そんな者が長子であるというだけで、次期アスタール公爵とされているのは、さぞ君にとって理不尽な事であったろう。テオノア、私と結婚をすれば、私が君の後ろ盾になってやれる。そんな出来損ないなど廃嫡させ、正しい血筋へと公爵家を戻す手伝いをしようではないか」
――怒りで目の前が真っ赤になった。
誰にそんな根も葉もない事を聞いたのか。そして会った事も無い人物に対し、この王子は何故こんなにも酷い事を言えるのだろうか。
「ふざけた事を…!アスタール公爵家を継ぐのは我が兄、ユキヤ以外有り得ん!そのような下種な憶測で、私の大切な兄を侮辱するのは止めて頂きたい!」
思わずそう叫んでしまった。そして激高するままに、その場でローレンス王子の求愛を断ったのだが、実は何をどう言って断ったのか、怒りのあまりよく覚えていない。
エイトールいわく「いや~、よく言った!でも俺がもしあの王子の立場だったら、三日は凹むわ~!」…だそうなので、不敬スレスレだったのは間違いないだろう。
しかし、ローレンス王子の最高峰並みのプライド故か、はたまた頭が弱いのか。心からお断りしているというのに、一向に俺を諦めようとはしなかった。
遂には決闘話まで持ち出してきたが、「受けてもいいが、もし自分が負けたら潔く自決する」と言ったら、それ以降は話題にしなくなった。
そんな俺に対し、学院の半数近くにのぼるローレンス王子の信奉者達は嫌がらせを仕掛けてきたが、アスタール公爵家は王家とも繋がりのある大貴族。
加えてアスタール公爵家に連なる分家筋の者達は皆、俺と同じく兄の信奉者達なので、それらを考慮してか、嫌がらせはごくささやかなものとなった。まさに数より質といったところだ。
父親であるウェズレイは「困った事があれば私に言いなさい」と、遠回しにローレンス王子の求愛に対し、自分に遠慮なく頼れとアドバイスしてきた。
兄は自分よりも俺に厳しい父の事を気にしていたが、父は愛情の示し方が違うだけで、なんだかんだ言って俺にも裏では結構甘い。
俺は父の心遣いに感謝しつつ、王子の求愛の事を母であるセオドアと、兄のユキヤの耳に入らないようにとだけ願い出た。
兄は元々引きこもり生活だし、母のセオドアも社交界嫌いで滅多に公の場に出ない。だから、父が気を付けてさえいればこの問題が耳に入る事はないだろう。何より俺のせいで兄が悪く言われている、という事実を耳に入れたくなかったのだ。
そうして兄への思慕と学院での王子との攻防を繰り返す毎日を送っていたのだが、たまたま王宮に呼び出された父と馬車を同じくした時、思わぬ出来事が起こった。
5
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる