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第二章

一夜明けて

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翌朝。太陽の光で目が覚めた俺は寝ぼけ眼を擦りつつ、欠伸を一つした。

すると俺が起きたのを受け、掛け布団のように身体を包んでいた黒翼がばさりと広がって消える。

ベルに抱きしめられた状態の為、羽が無くなっても体はぬくぬくとした温かさを保っている。ベル布団のお陰でグッスリ眠ったお陰か、身体はすこぶる快調だった。

半分まだ覚醒してない頭で無意識に身じろぐと、俺を無言で抱きしめていたベルの腕が解かれた。

「おはよ…ベル」

間近で自分を見下ろす凶悪な美貌も、鈍った脳ではダメージもなく。呑気に朝の挨拶をする俺に、ベルは「ふん」と鼻を鳴らして身体を離してくれた。

流石に何時迄も呆けていられないから、降ろされたベッドから立ち上がる。
そして顔を洗いに外に出てみると、夜には分からなかった絶景が目の前に広がっていた。

美しく澄んだ青い水を湛えた湖。森の緑と奥に見えるうっすらと雪を被った峰々。そのコントラストが、前世で一度は行ってみたいなと思っていたヨーロッパの風景と被って、思わず感動してしまう。

だが、いつまでも風景に見とれている訳にもいかない。

昨日から始まった逃亡劇。朝食を食べたら今後の事をいろいろ考えなくてはならないのだ。俺は気を引き締めるべく、湖の冷たい水で手早く顔を洗って小屋へと戻った。

「…うわぁ…」

戻った俺を出迎えたのは、なぜか物資の山だった。

下着や靴を含む着替え数点と、いつも山菜採りに利用していたウォーターパイソンの皮のリュック、フライパンを含む調理器具多数。そして今朝の朝食用に、産みたての卵と俺が保存用に作ったドライフルーツとナッツ入りのパン。…一体どうしたんだこれ?

「お前が寝言で言っていたモンだが?」

え?俺、寝言言っていたんだ。しかも自分で言うのもなんだが、何という具体的かつ生活力に溢れた寝言なんだろう。

「あ、有難う。助かった」

「貸し一つな」

お礼を口にすれば、さらっと見返り要求された。…やはりタダと言う訳にはいかなかったか。

まあでも折角だから、もう少しまとめて色々取り寄せてもらう事にしようか。

あまりちょくちょく取り寄せをすると、流石に家人が気が付く恐れがあるからな。あ、でも生鮮食品とか調味料とかは、あまり日持ちしないものもあるし…。

俺が悩んでいたら、ベルが自分の作った亜空間に収納してやると言ってきた。そこに入れれば、そのままの鮮度で保存が可能なのだという。
いわゆる、アイテムボックスってやつかな?…う~ん、本当に便利だなこいつ。

ちなみにウォーターパイソンとは、名前の通り水辺で暮らす牛の仲間で、水草を主食にする事から皮や毛が水を弾くように進化している。だからその皮を使って作ったバックは完全防水仕様な為、冒険者や商人にとても珍重されているのだそうだ。

このリュックは、武術の訓練の一環として実母である師匠が俺にウォーターパイソンを倒させ、その記念に作ってくれた思い出の品なのだ。ちなみに肉の方はというと、家族と使用人とで美味しく頂いた。

そういう訳で、ベルに取り寄せて欲しいものを色々頼んだ後、俺は物資の中からタオルと着替え一式を手に取り、再び湖に行って軽く身体を拭いてからそれらを着こんだ。

ベルが最初に取り寄せてくれてたのは、普段俺が着ている庶民用の服。
外にも社交界にも殆ど出ないし、両親も俺がこういう服を着ている事に文句を言わない為、俺の持っている服なんて大抵こんなものなのだ。

こういう時、自分の服の趣味が前世寄りで良かったとつくづく思う。あんな絹で出来たビラビラ華美な服、どこに行っても目立って仕方がないもんな。
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