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第四章

何者って……偽物です

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――一体、なんでこうなった?

今現在の状況に、ユキヤはぼんやりと胸中で呟いた。
武器を持った剣呑な兵士達に周囲を囲まれているんだけど、いまいち危機感が沸いてこないというか。

呑気過ぎるだろうと我ながら思うが、空中を上がったり下がったり、とどめにきりもみ状態で落下したのだ。お陰で心臓はバクバクだわ思考回路はショート寸前だわで、地面についていた両手両膝を起こすのがやっとの状態だ。多少現実逃避しても許されるのではないだろうかと思う。

「貴様!一体何者だ!?」

なので、そう言われても黙って突っ立っているのが精一杯で、返事なんてまともに出来る訳ない。杖持って仮面着けてて本当に良かった。

そんなほぼ腑抜けと化した俺に「ダメだなこいつ」と思われたらしい。ベルは器用に上腕へと移動して胸元に首を突っ込んだ。そして丸めて収まってた羊皮紙をくわえると、こちらに獲物を向けている兵士達の前へと放った。

ザワリと兵士達が床に落ちたソレに警戒の目を向けるが、その直後、兵士達の後方から驚愕の声が上がる。

「おお…!そ、それは『契約の書』!それではお前…いや、貴方は…!」


そして困惑する兵士をかき分け現れたのは、南国風の豪華な意匠をあしらった服を着た初老の男だった。

小麦色の肌に大柄な体躯。一見武骨そうだが、何となく柔和そうにも見えるのは、やや垂れ下がった目尻と深緑色の瞳のせいだろうか。

髪は黒で、少しだけ白いものが混じっている。全体的に品の良さが漂っているので、ひょっとしたらかなり高位の身分なのかもしれない。

「お止め下さい!」「危険です!!」と、兵士達が止めるのも構わず、男は転がっている羊皮紙を手に取り、中身を確かめると、感極まったように身体を震わせる。しかもなんか、涙ぐんでるっぽい。

「おおお…!これは間違いなく、私が依頼した時に同封した誓約書!で、では貴方がかの名高き『黒の魅了師』なのですね!?」

――いえ、別人です。

…なんて当然言えるわけもなく、俺はただ無言のまま頷くしかない。

するとなんと!男はまるで神に祈りを捧げるように両手を組むと、俺に対して膝を折った。

「黒の魅了師よ。このような取るに足らない小国の依頼を受けて頂き、本当に有り難う御座います。皆を代表し、カルカンヌ国王であるわたくし、ラフネが最大限の感謝の意を捧げます」

――うわー!まさかの国王様でしたよ!!

周囲にいた兵士達もみな、慌てて王様に倣い膝を着き、深々とこちらに頭を下げている。よく見れば後方にいる大臣らしき人達もみな、右にならえで頭を下げていた。

ち、ちょっと止めてくれないかな。俺、偽物だし。真面目に冷や汗が止まらないんですけど!

「黒の魅了師よ!着いた早々に申し訳ありませんが、早速依頼を遂行して頂きたく…」

依頼…。依頼…って、何だっけ?あ!攫われた聖獣の奪還かー。
…ってちょっと待て。そもそも聖獣攫ったのは誰で、聖獣ってどんな生き物だ?

「事態は急を要しております。是非とも、早急なる解決を…!」

か、解決…。俺ってば、何を解決すればいいんでしょうかね?いや、聖獣を救出するのは分かるんですけど!

ダラダラと仮面の下で汗を流していた俺だったが、そんな時、何故か俺に似た声が周囲に響き渡った。

『今一度、依頼内容を依頼主であるそなたに問う。私に依頼するに至った経緯もだ。真実を包み隠さず述べよ』

その言葉を聞いた王様はハッと顔を上げると、苦渋の表情で頷いた。

「…流石は黒の魅了師。見抜かれていたのですね。承知しました。全てお話致しましょう」

――ベ、ベル…!お前、グッジョブ!!

俺は心の中で上手く話を誘導したベルへと感謝の言葉を贈った。何時になるかわからないが、帰ったら何か美味いものでも作ってやろう。

いつの間にか肩にとまっていたシルフィが『くちだけはたっしゃだな、ハチュウルイ』と不満そうに言っていたが、まあそこは大悪魔だしね。咄嗟の時には頼りになるよ。

でもなシルフィ。ベルって今はこんなだけど、お前と同じ精霊なんだ。しかも黒の精霊の頂点っつーか、マジやばいヤツなんだぞ?元に戻った時に殺されはしないと思うけど、物凄い報復喰らいそうだから。あんまり余計な事は言わないようにな。

そんな事を心の中で思いつつ、俺(とベル&シルフィ)は王様に連れられ、実は王宮だった宮殿の中へと入って行ったのだった。
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