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第四章
救いの手【カルカンヌ王視点】
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カルカンヌ王国の中心に位置する王宮。
その謁見の間の高御座に座る王に、兵士長とおぼしき屈強な若者が深く頭を垂れていた。
「…状況は…どうなっている?」
「はっ!追手に増員をかけましたが、姫様も聖獣様も未だ見つからず…。その上、例え見付かったとして、果たして我々になす術があるのかどうか…」
兵士の口上を聞き、王は厳しさを湛えた表情を変えぬまま頷いた。
「…もうよい。下がれ。…ご苦労であったな」
兵士は深々と頭を下げ、その場から立ち去って行く。その後姿を見ながら、王は深く溜息をついた。
「王よ…。先程オンタリアの使者が見えました」
「使者が?何の用か?」
「はっ。姫様のお輿入れの日取りを早く決めるようにと…。これ以上引き延ばすのなら、こちらにも考えがあると…」
長年この国と私に仕えてくれている重鎮の一人が、言い辛そうにそう告げてくる。それに返事を返す事無く、王は玉座から立ち上がると、謁見の間から続く吹き抜けの回廊へと足を進めた。
回廊に出た瞬間、強烈な日差しが容赦なく降り注ぎ、思わず目を眇める。そして眼下に広がる広大な土地を見下ろした。
そこにはかつて、瑞々しく輝く緑が一面に広がっていた。だが今、目の前に広がっているのは絶望の色だった。熱く湿った風が吹き上がり、埃と死の匂いが鼻腔を突き抜ける。
「一体…。私はどうすれば良かったのかな?なあ、シェンナ」
切なげにそう呟く自分の声に、呼応する者はいなかった。
その時、突如として周囲に異質な風が吹き荒れた。つい今しがた感じた濁りのあるそれではなく、生命の宿る清涼な……そして。
「な、何だ!?」
「これは…一体!?」
身体を持って行かれそうな強風に、兵士達は一瞬でパニックになった。
「王よ!お下がり下さい!危険です!!」
そう言われ、兵士達に守られながらその場から後退した。その時だった。
漆黒の衣を纏った何者かが、つむじ風に乗るかのようにふわり….と降り立ったのだ。
――一体、何者なのか!?
黒を基調としたローブを身に纏い、顔には白磁の仮面。呪術師が持つような杖を手にした異形の来訪者。
しかもその者は突如、空中から飛来して来たのだ。周囲の兵士達が警戒し、獲物を一斉に目の前の異邦人へと向けた。
異様な風体。だがそれ以上に全身から発せられる圧倒的な存在感。
その者は並み居る兵士達に怯むことなく、落ち着き、堂々とした態度でこちらと対峙した。そして使い魔であろう蛇を使って何かを我々の元へと放ったのだ。
それを目にした瞬間、全身に衝撃が走った。それは駄目で元々と、彼の者に私が送ったもの。
――黒の…魅了師!
召喚士よりも高位とされ、神霊系や精霊系をもそのたぐいまれなる力によって使役すると言われる魅了師。
その頂点に君臨し、他の魅了師達と違い、いかなる国家にも属さぬ孤高の……そして至高の存在。
半ば諦め…それでも一縷の望みを込め、送った誓約書。それが今、目の前にある。
私は打ち震える程の激情のまま、その名の通り、漆黒に身を包んだ彼の存在に対し膝を着いた。
その謁見の間の高御座に座る王に、兵士長とおぼしき屈強な若者が深く頭を垂れていた。
「…状況は…どうなっている?」
「はっ!追手に増員をかけましたが、姫様も聖獣様も未だ見つからず…。その上、例え見付かったとして、果たして我々になす術があるのかどうか…」
兵士の口上を聞き、王は厳しさを湛えた表情を変えぬまま頷いた。
「…もうよい。下がれ。…ご苦労であったな」
兵士は深々と頭を下げ、その場から立ち去って行く。その後姿を見ながら、王は深く溜息をついた。
「王よ…。先程オンタリアの使者が見えました」
「使者が?何の用か?」
「はっ。姫様のお輿入れの日取りを早く決めるようにと…。これ以上引き延ばすのなら、こちらにも考えがあると…」
長年この国と私に仕えてくれている重鎮の一人が、言い辛そうにそう告げてくる。それに返事を返す事無く、王は玉座から立ち上がると、謁見の間から続く吹き抜けの回廊へと足を進めた。
回廊に出た瞬間、強烈な日差しが容赦なく降り注ぎ、思わず目を眇める。そして眼下に広がる広大な土地を見下ろした。
そこにはかつて、瑞々しく輝く緑が一面に広がっていた。だが今、目の前に広がっているのは絶望の色だった。熱く湿った風が吹き上がり、埃と死の匂いが鼻腔を突き抜ける。
「一体…。私はどうすれば良かったのかな?なあ、シェンナ」
切なげにそう呟く自分の声に、呼応する者はいなかった。
その時、突如として周囲に異質な風が吹き荒れた。つい今しがた感じた濁りのあるそれではなく、生命の宿る清涼な……そして。
「な、何だ!?」
「これは…一体!?」
身体を持って行かれそうな強風に、兵士達は一瞬でパニックになった。
「王よ!お下がり下さい!危険です!!」
そう言われ、兵士達に守られながらその場から後退した。その時だった。
漆黒の衣を纏った何者かが、つむじ風に乗るかのようにふわり….と降り立ったのだ。
――一体、何者なのか!?
黒を基調としたローブを身に纏い、顔には白磁の仮面。呪術師が持つような杖を手にした異形の来訪者。
しかもその者は突如、空中から飛来して来たのだ。周囲の兵士達が警戒し、獲物を一斉に目の前の異邦人へと向けた。
異様な風体。だがそれ以上に全身から発せられる圧倒的な存在感。
その者は並み居る兵士達に怯むことなく、落ち着き、堂々とした態度でこちらと対峙した。そして使い魔であろう蛇を使って何かを我々の元へと放ったのだ。
それを目にした瞬間、全身に衝撃が走った。それは駄目で元々と、彼の者に私が送ったもの。
――黒の…魅了師!
召喚士よりも高位とされ、神霊系や精霊系をもそのたぐいまれなる力によって使役すると言われる魅了師。
その頂点に君臨し、他の魅了師達と違い、いかなる国家にも属さぬ孤高の……そして至高の存在。
半ば諦め…それでも一縷の望みを込め、送った誓約書。それが今、目の前にある。
私は打ち震える程の激情のまま、その名の通り、漆黒に身を包んだ彼の存在に対し膝を着いた。
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