黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

挑発

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「…どうやらご不満のようだ」

多分だが、俺が是と言わないと分かっていたのだろう。

動揺する様子もなく(後ろの部下達は違うけど)、貼り付けた微笑はそのままだった。
但し、双眼の発する嫌な魔力は強まったけど。

「それでは、可か否かを決める前にお聞きする。貴殿が姫に随行する目的とは?」

…まあ確かに、伝説級の魅了師である『黒の魅了師』が、わざわざここまでこうしてやってくる事自体、疑問なのだろう。ましてや、言ってしまえば死に体もいい所の国に加担する形で。

「ゲイルガと言う男にも、そこのラシャドとやらにも懇切丁寧に伝えたんだがな。いい加減繰り返すのもうんざりするが…仕方ないか」

俺は苛ついたように杖を砂へ突き刺すと、ふうと溜息を吐いた。

どうでもいいけど、『黒の魅了師』ベルバージョンは唯我独尊の演技しなくちゃだから、気を張るし真面目に疲れる!

あちらはあちらで、俺の態度を見て、自分達が馬鹿にされていると思ったのか、物凄い形相で殺気を放っている。

ってか、馬鹿にしたんじゃなくて、真面目に疲れたんだよ!……と、更に溜息を一つついた。
殺気が更に膨れ上がったが知った事か。

「俺は見届け人だ。但しカルカンヌ王国ではなく、縁あるグリフォンのな」

「ほぅ…。かの幻獣が貴殿を遣わしたと?」

少し驚いた風のバティルに、俺は小さく頷いた。

「そちらの強引な要求を呑む為、カルカンヌの王に依頼され姫を『保護』した際に頼まれた。輿入れに同行し、オンタリオが彼女をどう扱うのかを見極めろと」

「…見極めるとは、どういう意味か」

俺の説明に不穏なものを感じ取ったか、バティルの顔から笑みが消えて眉間にも皺が寄る。
グリフォンの名を出してからこいつの態度が明らかに変わったけど、俺は無関心を装って言葉を続けていった。

「そのままの意味だ。婚儀の前に国王と王太子に、俺からの質疑に答えて貰う。そして俺が満足すれば姫をそちらに委ね、火竜サラマンダーの使役も解こう。だが逆なら、姫の輿入れは取り止め帰還も辞さない」

「なに…!?」

俺から出たとんでもない提示に、冷静を保っていたバティルも流石に唖然となった。

勿論ラシャド達は、殺気と怒気を更に大きくさせ口々に俺を罵っている。さて、挑発もここからが本番だ。

「因みに、火竜サラマンダーだけじゃないぞ。姫にも俺の『魅了』がかかっている。それも特別に強いヤツがな」

「…貴様…っ」

おや、遂に「貴殿」が「貴様」になりましたか。
漸くこいつバティルの本性が出てきたな。俺は更に、ベルと打ち合わせた通りの恫喝を口にした。

「俺が納得しなければ解く事はない。火竜あいつらを使役していた奴では、破るのはまず無理だろうし、より高位の『魅了師』を飼っていたとしても難しいだろうよ」

「っ…!一介の魅了師風情が、黙って聞いていれば…!」

言外に能力を貶められたと感じたのだろう。バティルの身体から薄く陽炎のような魔力が立ちあがり、杖を握っている手の甲に血管が浮き出た。

というか、『黒の魅了師』って、一介の魅了師じゃないよね?自分が魅了師だったら、それぐらい分かっているよね?

ひょっとしてこいつ、根底ではまだ俺の正体、疑っていたのかな?まあ実際、偽物なんだけど…。

『う~ん、こりゃあ相当怒らせたな…。ここまできたら突き進むしかないんだろうけど、マジで心臓に悪い!』

ぶっちゃけると、俺がここまで強気に出ているのは、「姫」という主導権イニシアチブはこちらが握っていると分からせ、交渉権をバティルに握らせない為だった。

そして、あえて遠慮なく挑発するのも「勝てる奥の手があるんだぞ」と匂わせ、攻撃の意思を抑制するって狙いがある。

「グリフォンは不治の病・・・・を得ておりじきに死ぬ身。なのに、一体貴様に何の得があると言うのだ!どんな対価をアレから受けたと…」

バティルの冷静さが抜け落ち、隠せなくなった敵意を剥き出してきた。

俺の方も、「グリフォンが呪いに冒され、死の淵にいるとお前が何故知っている!?」…と、怒鳴りたいのを何とか堪える。

「治す手立てがある…と言ったら?」

そうだ。俺が姫達のお供でここに来たのは、グリフォンを治癒・・する為でもあるのだから。

被せるように放った俺の言葉に、ピクッとバティルの眉尻が動いた。次の瞬間。

『――!?』

バティルの杖に埋め込まれた黒い魔石。其処から唐突に感じたおぞましい悪寒に、俺は全身を粟立たせた。
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