宮本武蔵、フリーランスとして働くことを誓う!

西陸黒船

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兵法者としてのこれから!

第7話 日出藩の兵法指南役

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 日が暮れる前に、二人はどうやら日出藩の領地へと踏み込めそうだった。豊後の国日出藩。割と九州に配置される藩の中でも小さな方である。
「父上、ここに何かご用が?」
「うむ。ここ日出藩の領主○○とは以前に会うた事があるのだが。実はここの兵法指南役に会いに来たのだ」
「兵法指南役。というと、また腕に覚えのある人。なんですね?」
「うむ。まあ、な」
 武蔵は言葉を濁す。
 三喜之介にはなんのことかわからず、とにかく好奇心で後を付いてきている感じだった。
 武蔵は町の人に訪ねながら、ある屋敷にやってきた。
 家人を呼び出すと、武蔵がなにやら話をすると、すぐに案内されて応接間に連れて行かれた。
 二人はしばらく待っていると、やがて一人の壮年の男性がやって来た。体格といい、年相応には見えず、がっしりとしている。強屈な兵法者であろう事がすぐに見て取れた。そして、三喜之介もその顔は知っていた。
「無二斎様」
「おう、三喜之介か。随分と大きくなったものだな。それに弁之助。いや、今は武蔵か。お主は今や日本一の兵法者。その名はここ豊後の国にも轟いておるぞ」
「父上、お久しゅうございます。この地におられることを聞いておりました故、旅の途中に立ち寄りました」
 そうその人こそ武蔵の実父、新免無二斎その人であった。そういえば顔つきも似ている。そして、三喜之介の実の祖父の兄弟にあたるのだ。
「うむ。そなたの活躍を耳にする度、あの子わっぱよくぞそこまで成長したと感心しておった。嫁は、どうじゃまだもらっておらぬか?」
「まだ仕官しておりませぬ流浪の身。まだまだ考えてはおりません。それよりも、三喜之介を養子にし、共に旅をしております」
「はっはっはっ。そうか。どうじゃ剣の腕は?」
「悔しゅうございますが、また父には勝てません」
 旅の合間に武蔵は三喜之介に自身の兵法、剣術を日々教えていた。手合わせをすることも多々あるが、三喜之介はまだ一本も取る事ができない。
 だが、それでも俯かない強さが三喜之介にはあった。
「三喜之介もいずれはどこかに仕官をさせたいと思って修行をさせております」
「うむ。そうか。三喜之介、励めよ」
「はい」
「そうだ、武蔵よ、養子を引き受けておるなら、もう一人連れて旅はできぬか?」
「もう一人?」
 訝しげに武蔵は問いかける。
「おーい。誰か。伊織を連れて参れ」
 無二斎の一声に返事があり、しばらくして女中が連れてきたのは、まだ幼い少年だった。
「この子の父は儂知り合いだったのだがな、病気で死別しての。今は儂が引き取っておる。だが……せっかくじゃ。見聞を広げさせてやりたい」
「伊織と申します。今年一〇になったばかりですが、なにとぞよろしくお願いします」
 まだまだ子供だが、意志の強さが感じられる。普段から剣の稽古を欠かさないらしく、年の割には体つきがしっかりとしている。
「武蔵だ。伊織、剣を握ったことはあるか?」
「まだ、木刀を持って型を習った程度ではありますが……」
「うむ。そうか……」
 幼いながらもその伸びた背筋に、武蔵は頼もしさを覚える。三喜之介とはまた違ったタイプだが、まだ若く鍛え甲斐もありそうだった。
「伊織、一度手合わせしてみるか?」
 武蔵その言葉に、伊織の表情がぱぁっと明るくなる。
 二人は道場に場所を移して対峙した。武蔵は左手に持った木刀をだらりと提げて、伊織の様子を探る。
 伊織は緊張した面もちで青眼に構えた。道場の端で三喜之介は無二斎と並び、二人の姿を固唾を飲んで見守っていた。
「来い!」
 武蔵の一言に、伊織は頷くと、気合いを入れて得物を振りかぶる。
 あまりにもわかりやすい軌道に武蔵は半歩横に動いて難なく交わすと、木刀を振り上げた。
 カツンとした軽い音がして伊織の木刀は宙を舞う。
 当然といえば当然の結果だった。だが、武蔵は笑顔で伊織に語りかける。
「伊織、強くなりたいか?」
 伊織は真っ直ぐな目で武蔵を見つめ、迷いもなく頷いた。目尻にはわずかに涙が浮かび、悔しさもにじみ出ている。
「よし、なら、儂についてこい。伊織ならきっと一人前の兵法者になれるだろう」
 三喜之介も傍でそれをほほえましく見守っている。
「三喜之介、今日から伊織はお前の弟だ。しっかり面倒見手やれ」
「はい。伊織、よろしくな」
 こうして武蔵は二人目の養子、伊織を迎え入れることになったのだった。
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