上 下
3 / 77
序章 再会は突然に

003 馬鹿の一つ覚え

しおりを挟む
(やっぱり、未帆だったのか)

 亮平は、自分の目が見たものが錯覚や勘違いなどではなかった事を知った。

 未帆は親の仕事の都合で小学校に上がる一週間前に引っ越した。また戻ってきたのは奇跡じゃないのだろうか。

「西森未帆です。埼玉から引っ越してきました。小さいころにここらに住んでいたので、何がどこら辺にあるのかはだいたいわかります」

 そこで一旦深呼吸が入った。長文を考えてきたらしく、カンペを見ようか見まいかポケットをいじくっていた。

「でも、時間がたっているので変わっているところがあると思うので、ぜひ教えてください。一年間と短い間ですが、よろしくお願いします」

 未帆の自己紹介が終わった。周りからはちらほら『やっと終わったー』という歓喜の声が聞こえるが、亮平にはもうそんなことどうでもよかった。そもそも、それほど長くはない。

 亮平はただ、未帆に尋ねる事ばかり考えていた。



----------



「未帆、戻ってきた理由は何? あと、前の中学校どうしてた? あと……」
「いっぺんに言われたらどれから答えればいいのか分かんないじゃん!亮平、落ち着いて。」

 始業式が終わって教室に戻り休み時間になった後、亮平は未帆を質問攻めしていた。教室の廊下側の窓からは、友佳も顔を出している。

「ごめん、ごめん。じゃあまず、なんで戻ってこれたの?」
「またお父さんの仕事の都合。しかも同じ場所。運がいいと思わない?だって、またこうやって亮平や友佳と顔を合わせられるんだから」

 また仕事の都合であった。どれだけ転勤するのだろう。

(同じ場所にまた戻ってくるって、どんな仕事なんだ?)

 亮平にはそんな仕事は思い浮かばなかった。

「まあ理由は何にせよ、戻ってきてくれてうれしいよ、未帆」
「私が引っ越した後、泣いてたりしなかった?」
「あ、未帆。その事なんだけど……」

 あ、不味い。

(友佳、言わないでくれ!)

「友佳、それを言うのは……」
「思いっきり泣きじゃくってたよ」

 言葉で制止させる前に言われてしまった。当時は6歳だったので泣いても仕方はないのだが、本人にとって幼馴染とはいえど異性にそのことを知られるのは結構恥ずかしかったりする。

「お、いいこと聞いたぜ。ネタくれてありがとう。き・り・し・ま・君」

 いきなり飛んできた声に亮平達が驚いて後ろを見ると、親友の横岳よこたけ 直人なおとがニヤニヤした顔でこっちを見ていた。

「ちょ、横岳」
「いいじゃん、いいじゃん。」
「いや、良くない」
「じゃあ、じゃんけんで勝負と行こうじゃないか。」
「よし。」

 結局、亮平が泣きじゃくっていたことをネタにされるかどうかはじゃんけんで決まることとなった。

『ジャンケンは、決めごとをするときの定番だ。しかし、ジャンケンというのは三分の一で勝ち、三分の一で負け、三分の一で引き分けという確率の勝負でもある』

 と、どこぞやで聞いたような言葉を頭に思い浮かべながら出す手を考える。ジャンケンは、相手がグーを出す確率が高いらしい。

(じゃあ、パーか?)

「おーい、何考えてるんだ?さっさとやるぞ。俺はグーを出す。最初はグー、」
「!?」

 横岳は今グーを出すといった。でも普通本当に出すか?いや、でも罠かもしれない。でも、ひっかけだったら?

「ジャンケンホイ!」

 亮平はチョキを出した。横岳はグー。

「てことで、ネタいただきまーす!」
「……」

 亮平は、何も口出しできなかった。

「あ、西森さん? 僕は、霧嶋の親友の横岳です。ちなみに霧嶋、ジャンケンは今ので12連敗中で。しかもやられた方法が全部一緒」
「……亮平、そうなの?」

 亮平は思い出した。前もこの方法で負けたな、と。
しおりを挟む

処理中です...