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第4章 修学旅行編

051 暴力と言う名の理不尽

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「お前ら、早く出ろ!」

 一人の男にせかされ、亮平達はトラックの外に出る。トラックの中にいたのは数分だけだったが、日差しがかなりまぶしい。

 周りの状況を少しは確認しておかないといけないと、亮平はあたりを見回した。

 近くに、木造の古びた小屋がある。そして、周囲は木が生い茂っている。ただ、幸いなことに、道路も近くを走っている。今さっきまでトラックに乗っていたのだから当然なのだが。

 男達は、全員で六人。バイクで後ろを追いかけてきた男達が合流してこの数なので、きっとこれで全員なのだろう。

「お前ら、この事態は分かってるんだろうなあ?」
「分かってます」
「なんだ、その冷静な態度は!」
「……」
「何か口でも聞けや!」

 男の一人が、握りしめた拳を上に振り上げる。だが、リーダーらしき男に制止された。

「まあまあ、そう焦るなって。殴ったら、罪が余計に重くなるんだぞ」

(いやいや、誘拐の時点で罪重いだろ!)

 流石に口には出せないが、心の中で突っ込む。

「なんてな。おい、男の方はもう殴ってもいいぞ」

 途中で急に声が低くなった。そして次の瞬間、亮平の視界にしっかりと力が込められた拳が飛び込んだ。

 痛みが顔面に走り、後ろに突き飛ばされる。幸いなことに、後ろには何もなかった。もし木が生えていたとしたら、もっとひどくなっていたはずだ。

 ドゴン、バコンと周囲から音がする。他の男子、横岳と麻生も亮平と同じように殴られたのだろう。

 一瞬、悲鳴が飛んでくるが、すぐに『もごもご』といった音に変化する。顔を上げると、女子陣三人全員、叫ばれないように口を押えられていた。

(もう、こうなったら一か八かで行くしか……!?)

 抵抗しても抵抗しなくても結果が同じなら、できるだけ暴れてやろう。亮平が覚悟を決め、一気に男の内の一人に全力で突っ込んでいこうとした時、急に首の周りに強い力がかかった。そのまま、地面に押し倒される。

(後ろか!)

 亮平は背後から攻撃されたことに気づくが、時すでに遅し。そのまま、きつく首を押えられる。

 窒息しているわけではないのだが、意識が一気に遠のいていく。 

 亮平は、意識を失うまでの短い時間の中で、あることを思い出していた。

(柔道の時に、『首の頸動脈を押えると、失神する』って言ってたっけえなあ)

 そして、亮平の意識は、シャットダウンされた。
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