主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!

true177

文字の大きさ
62 / 77
第4章 修学旅行編

053 好転

しおりを挟む
「おい、起きろー!」

 亮平は、小声でそう呼びながら横岳を揺さぶった。本当は大声で叫びたいのだが、男達を起こしてしまわないようにするには、これも致し方ない。

 起こすのが遅くなるほど、ほんの少しずつではあるが男達が起きる可能性が増える。あまりゆっくりとはしていられない。

 亮平は、横岳の状態を確認する。横岳も、手首と足首を布のようなもので縛られていた。この様子だと、全員が縛られているに違いない。最も、一番厳重に縛られているはずの亮平ですら動けるのだから、他の人も動ける程度にはなっているのだろうが。

「……んん?」

 横岳がわずかながら反応を示した。横岳の目が少しだけ開く。気絶していたのか単に寝ていたのかは分からない。状況が読めずに大声を出されては困るので、慎重にいかなければいけない。

「あれ、気絶してたのか……」

 『失神していた』と言っているのだ。亮平と同じように気絶させられた説が濃厚だろう。あくびを全くしていないこともその証拠だ。

「横岳、いきなりで悪いが、俺が意識無くなったあとのこと、分かるか?」

 亮平は、意識を失ってからどうなったのか、どうしても情報を得たいと思った。全員が今どのような状態に置かされているのかを確認するためだ。

 仮にだれか一人が別の場所に連れていかれたといった状況だとすれば、探しだす人数を一人減らすことになる。その『誰か』には非情だが、まず誘拐の事実を誰かが伝えないと、そもそも発見すらされなくなる可能性が高いのだから仕方ない。

「今、どんな状況になってる?」

 疑問に疑問で返された。横岳としても、今自分がおかれている状況を知りたくなるのは当然だろう。仮に亮平が横岳だったとしても、同じことを言っただろう。

「多分深夜で、ここはどこかの小屋の中。周りが静かだから、少なくとも市街地の近くじゃないと思う。で、俺もお前も、手首が縛られてる」
「やっぱり、拘束されてたか……。霧嶋、おまえが気絶したすぐあとに俺と麻生も殴られたから、女子陣と麻生がどこにいるのかは分からない。すまん」

 横岳から出た言葉は、最悪の状況に近いということを示していた。未帆、片桐さん、荻原さんの女子三人が違う場所に連れていかれているかどうかが分からないからだ。体が鉛のように重くなる。

「俺がちゃんとしていれば……」

 亮平の心に、今更ながら自責の念が浮かび上がる。もし、人気のある道を選んでいれば。もし、教師の話をよく聞いていたら。もし、いち早く男達に気づいていたら……。いちいち数えていては、きりがない。

「……霧嶋、お前だけのせいじゃないだろ。それに、本当に事件に巻き込まれるなんてきっと誰も考えていなかっただろうし」
「でもな……」
「とにかく、今落ち込んでても仕方がないだろ。自分を責めるなら、事が全て終わってからにしろよ」

 亮平は、しばらく考えてから気持ちを立て直した。

(……そうだな)

 今落ち込んでいても何も変わらない。自分の行為を嘆くなら、終わってからだ。横岳の言っていることは正しい。悲観的になっても何も変わらない。

「そういえば、この縛り方、どっかで見たことあるようなないような……」
「どういうことだよ」

 布で縛ってある手首は、かなりきつく縛ってあるように見える。とてもほどけそうにはみえない。逆に、さらにきつく縛られてしまうかが心配になる。

「確かキャンプとかで……。あ、そうだ、本結び、本結びだ!霧嶋、この結び方、結構簡単にほどけるぞ!」
「本当か?」

 本結び。どこかで聞いたことがあるような言葉だ。簡単にほどける、ということは亮平は知らなかったが。

(手首さえほどければ、ずいぶんと楽になるな)

 亮平は、『もう少し小さい声で言ってほしかったけどな』と、心の中で付け足した

「ほら、こうやって、次はここをこうやって……」

 横岳が、亮平の手首を縛っている布を手順に引っ張ると、さっきまできつく縛られていたのが嘘のように、みるみるうちに手首の圧迫感が消えていった。さっきまで縛っていた布が、解放されたかのように下へひらりと落ちていく。

「俺のもほどいてくれよー、ほどき方は当然教えるから」
「放っておくわけないだろ、まったく」

 どの神経なら、放っておこうとするのだろうか。横岳も、まさか俺が放っていこうとしようとはしないことを分かってはいるだろうから、100%冗談だろう。亮平なら、絶対にこの状況では出てこない。

 亮平は、横岳の指示通りに布を順に引っ張った。先ほどと同じように布が取れる。

「足首は……。こっちも本結びだから、大丈夫そうだな」

 そういうと横岳は、早速足首の布もほどいていった。慣れているのだろうか、手の動きが速い。亮平も、さっき横岳に指示されたように布を引っ張る。簡単にほどけた。

 とにかく、これで逃げるのがずっと簡単になった。二人掛かりで小屋内を捜索すれば、どこかに連れていかれていない限り、必ず未帆達は見つかる。そうすれば、あとは気づかれずに逃げるだけだ。

 体が自由になったところで、亮平にある疑問が浮かんだ。

「ところで、本結びって?」

 男達が、わざわざ簡単にほどける結び方で拘束したとは思えない。

「キャンプとかで木を結ぶときに使う結び方。結構きつく結べるけど、ほどくのも簡単だからよく使われるぞ」
「なんで、そんな結び方を使ったんだろうな」
「さあな。でも、ラッキーだったな」

 男達の中で本結びの特性を知っている奴がいたら、間違いなく今の状況はない。ほどきやすい結び方にしてくれたことについては、感謝するしかない。

「でも、気を抜くなよ。まだ逃げ出せたわけじゃないんだから」
「分かってるっつーの」

 まだ緊迫した状況には変わりはない。依然として小屋の中にいるし、全員の解放もできていない。だが、状況が少し好転したのも事実だ。会話にも余裕が生まれるようになってきた。男達は当然まだ寝ている。一人だけヘッドホンを付けたまま寝ている男もいるが、まさか音楽が流れているわけでもないだろうから、当面は安全だろう。

 横岳は、普段は結構ふざけている印象があるが、冷静になる時は冷えた鉄のように冷静だ。とことん頼りになる。パニックを起こすようなことはないだろう。いや、むしろパニックを起こすとすれば亮平の方だ。

 未帆達女子三人と麻生は、今亮平と横岳がいる部屋には姿を確認できない。亮平は、小屋の隣の部屋へと続く扉に手を掛けた。

(この小屋の中にいますように)

 一筋の光に希望を見出しながら、亮平は隣の部屋へと一歩踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...