66 / 77
第4章 修学旅行編
057 帰還
しおりを挟む
建物が見えてひとまず『助かった』ということを完全にではないが自覚し、亮平達の歩みは緩くなった。脱力感とかなりの疲労が、体を襲った。
しかし、まだやらなければならない事は存在する。事件が起こったことを第三者に発見してもらうことだ。学校側は気づいているだろうが、ここは亮平達が泊まっていたホテルとはかなり距離があるであろう場所。情報が伝わっていない可能性の方が高い。
亮平達は、交番をまず探した。『もしここに警察が存在しなかったら』という一抹の不安は存在したものの、『KOBAN』という看板が突き出しているのを見て不安は吹き飛んだ。
交番には、二人にの警察官が眠たそうに資料の整理をしていた。二人の警察官はこちらに気づき、こちらへと歩いてきた。
「君たち、こんな時間に集団で何してるんだい?」
最も飛んでくる可能性の高い質問が来た。逆に、この質問以外に質問することがあるのだろうか。この深夜に、集団とはいえ未成年がほっつき歩いていれば事情を聴かなければいけないだろう。
「えーっと、東成……」
亮平が事の顛末を話そうとした時、
「東成!? もしかして、修学旅行で来ている東成中三年の生徒かい?」
「そ、そうですけど」
別に、東成中学校は全国的に有名なわけではない。そして、距離が離れているはずのこの場所で『東成中』という言葉が出るということは。
「いや、実はここから北のほうで中学校の生徒が数名行方不明になっているんだ。その数名が、君たちなんじゃないか?」
事件の可能性があるとして周辺の警察に伝わっているとしか考えられない。
亮平は、自分たちがその東成中の行方不明になっている生徒だということと、自分たちがどのようにして今ここにいるのかということを説明した。
説明が終わると、警察官の内の一人が電話を取って、どこかに電話をかけ始めた。警察本部にでもかけていたのだろう。『行方不明の中学生が見つかった』と。
「あのー……」
言葉に詰まりながら警察官に一人が話しかけた。影島さんだ。
影島さんは、東成中ではない。一緒くたにされて別の場所に送られてはたまったものではないだろう。
そのまま、影島さんは自分が東成中の生徒ではなく、他の中学校の生徒であることを伝えた。すると、警察官の内の一人から『別の中学校の生徒も一人、行方不明になっているから捜索してくれ』という内容の捜索届が提出されているという話が出てきた。
とにかく、亮平達が事件(誘拐)に巻き込まれていたと分かってからの展開は早かった。ものの数分でパトカーが交番に到着し、亮平達は警察署に連れていかれて事情聴取をされることとなった。とはいえど、覚えておることなど『犯人が複数人の男グループ』と『小屋の中に拘束されていた』ぐらいしかない。手がかりになるのかどうかは警察の人たちに任しておこう。
事情聴取が終わると、そのままでホテルに移動した。そして、全員教師の泊まっている部屋で朝まで過ごすこととなった。何時間も気絶していたおかげといってはなんなのだが、眠気はまったく起こらなかった。疲労感はまだかなり残ってはいたが。そして、もちろん影島さんはここにはいない。
----------
「霧嶋達、ちょっといいか?」
ちょうど、部屋の中に輝く朝陽が入り始めてきた時だった。
「はい、なんですか?」
「今日の朝は、朝食を食べたら全員フロントに集まることになっている。そこで、霧嶋達には、合図があったら皆の前に出てきてほしいんだ」
(そりゃ、何食わぬ顔で混じっていたら、大混乱は必至になりそうだからなぁー……)
「何かセリフを言ってから、自分たちの位置に座ってほしい。詳しい説明は、先生たちがするから」
要するに、全員が知らされていない中で登場しろということだ。悪趣味なサプライズとも取れるが、どのタイミングで生還していることを伝えるかは難しいところもあったのだろう。
「……分かりました」
それなら、いっそ吹っ切れてやろうじゃないか。
----------
「えー、まず、みなさんに連絡事項があります」
この一言で、場の空気が一気に引き締まったように見えた。
「昨日の、霧嶋君の班が行方不明になっていた件ですが……」
重苦しい空気がその場を支配している。中には、目が死んでいる人も見える。
(おいおい、死んでるわけじゃないぞ)
そう突っ込みは入れてみるものの、やはり自分も気持ちが落ち込む。もとはといえば亮平が先導して人気のない道を歩いたせいで、班員全員を巻き込んでしまったのだ。同じように誘拐された影島さんが偶然助かったのは、結果論だ。
(でも)
亮平は、強く一歩前へ踏み出した。東成中全員の目に触れる。てっきりざわめくかと思ったが、まったくの無音だった。ボケが受けなかったときよりもはるかに静かだ。
(無事に帰ってこれたんだから、ひとまずよしとするか)
「東成中学校3-A五班、ただいま戻りました! 班員は全員問題なしです!」
亮平達は、ようやく帰還をはたした。誘拐からここまでが一日かかっていないということは無視しておこう。
しかし、まだやらなければならない事は存在する。事件が起こったことを第三者に発見してもらうことだ。学校側は気づいているだろうが、ここは亮平達が泊まっていたホテルとはかなり距離があるであろう場所。情報が伝わっていない可能性の方が高い。
亮平達は、交番をまず探した。『もしここに警察が存在しなかったら』という一抹の不安は存在したものの、『KOBAN』という看板が突き出しているのを見て不安は吹き飛んだ。
交番には、二人にの警察官が眠たそうに資料の整理をしていた。二人の警察官はこちらに気づき、こちらへと歩いてきた。
「君たち、こんな時間に集団で何してるんだい?」
最も飛んでくる可能性の高い質問が来た。逆に、この質問以外に質問することがあるのだろうか。この深夜に、集団とはいえ未成年がほっつき歩いていれば事情を聴かなければいけないだろう。
「えーっと、東成……」
亮平が事の顛末を話そうとした時、
「東成!? もしかして、修学旅行で来ている東成中三年の生徒かい?」
「そ、そうですけど」
別に、東成中学校は全国的に有名なわけではない。そして、距離が離れているはずのこの場所で『東成中』という言葉が出るということは。
「いや、実はここから北のほうで中学校の生徒が数名行方不明になっているんだ。その数名が、君たちなんじゃないか?」
事件の可能性があるとして周辺の警察に伝わっているとしか考えられない。
亮平は、自分たちがその東成中の行方不明になっている生徒だということと、自分たちがどのようにして今ここにいるのかということを説明した。
説明が終わると、警察官の内の一人が電話を取って、どこかに電話をかけ始めた。警察本部にでもかけていたのだろう。『行方不明の中学生が見つかった』と。
「あのー……」
言葉に詰まりながら警察官に一人が話しかけた。影島さんだ。
影島さんは、東成中ではない。一緒くたにされて別の場所に送られてはたまったものではないだろう。
そのまま、影島さんは自分が東成中の生徒ではなく、他の中学校の生徒であることを伝えた。すると、警察官の内の一人から『別の中学校の生徒も一人、行方不明になっているから捜索してくれ』という内容の捜索届が提出されているという話が出てきた。
とにかく、亮平達が事件(誘拐)に巻き込まれていたと分かってからの展開は早かった。ものの数分でパトカーが交番に到着し、亮平達は警察署に連れていかれて事情聴取をされることとなった。とはいえど、覚えておることなど『犯人が複数人の男グループ』と『小屋の中に拘束されていた』ぐらいしかない。手がかりになるのかどうかは警察の人たちに任しておこう。
事情聴取が終わると、そのままでホテルに移動した。そして、全員教師の泊まっている部屋で朝まで過ごすこととなった。何時間も気絶していたおかげといってはなんなのだが、眠気はまったく起こらなかった。疲労感はまだかなり残ってはいたが。そして、もちろん影島さんはここにはいない。
----------
「霧嶋達、ちょっといいか?」
ちょうど、部屋の中に輝く朝陽が入り始めてきた時だった。
「はい、なんですか?」
「今日の朝は、朝食を食べたら全員フロントに集まることになっている。そこで、霧嶋達には、合図があったら皆の前に出てきてほしいんだ」
(そりゃ、何食わぬ顔で混じっていたら、大混乱は必至になりそうだからなぁー……)
「何かセリフを言ってから、自分たちの位置に座ってほしい。詳しい説明は、先生たちがするから」
要するに、全員が知らされていない中で登場しろということだ。悪趣味なサプライズとも取れるが、どのタイミングで生還していることを伝えるかは難しいところもあったのだろう。
「……分かりました」
それなら、いっそ吹っ切れてやろうじゃないか。
----------
「えー、まず、みなさんに連絡事項があります」
この一言で、場の空気が一気に引き締まったように見えた。
「昨日の、霧嶋君の班が行方不明になっていた件ですが……」
重苦しい空気がその場を支配している。中には、目が死んでいる人も見える。
(おいおい、死んでるわけじゃないぞ)
そう突っ込みは入れてみるものの、やはり自分も気持ちが落ち込む。もとはといえば亮平が先導して人気のない道を歩いたせいで、班員全員を巻き込んでしまったのだ。同じように誘拐された影島さんが偶然助かったのは、結果論だ。
(でも)
亮平は、強く一歩前へ踏み出した。東成中全員の目に触れる。てっきりざわめくかと思ったが、まったくの無音だった。ボケが受けなかったときよりもはるかに静かだ。
(無事に帰ってこれたんだから、ひとまずよしとするか)
「東成中学校3-A五班、ただいま戻りました! 班員は全員問題なしです!」
亮平達は、ようやく帰還をはたした。誘拐からここまでが一日かかっていないということは無視しておこう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる