京都ファンタジー四条寺町侘助堂 四代目音羽沙羅陀のサラダな人々

リトルマナ

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沢野菜月取り扱いマニュアル

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沢野菜月。
我が大親友なれど謎多くしてその顔未だ掴めず。

昭和風に呟くならこんな感じ。
開院は江戸末期、開祖は御典医だったと言われる洛中有数の私立総合病院、
京都船岡山病院の一人娘で京都東山女学院の三年。来春には卒業する受験生。
その容姿は忖度なしでかわゆいの一言。肌の白さは透けて見えるような透明感だし窓辺に陽射しを浴びて座ってたらほんとにフランス人形のよう。
同性からしても頬を寄せてスリスリしたい衝動にかられる時がある。それほどのかわゆさ。だから休みの日に新京極なんぞを歩くもんなら芸能事務所の路上スカウト、怪しげなキャッチを含めてナンパ攻勢の嵐に包まれる。
ねぇお願いだから一緒に行ってって、いつも懇願されるのはおそらくその盾となれと言われているに等しく。

「もうたまには一人で行ってくれへん?いっつもボディガードやらされて自分の買いもん楽しむどころやないし」

「じゃいいよ、私も行かへんし」

そう言って、あとは無言。怒って切るのかと思ったら、ずっと通話中になってる

1分…2分……3分…。スースーと僅かな呼吸音は伝わってくるから恐らくスマホは耳に当てたままなんだろう。

「なにこれ?無言の抵抗?」

「・・・・」

「じゃあ、切るし、ほなね」

「待って……」

「何よ?」

菜月の声がため息まじりの弱っちいものに変わる。いわゆる彼女のお願いモードだ。なつきは私にしか見せない顔がいっぱいある。ママさんやパパにも誰にも見せないそんな顔を私は知っている。

天使のような可愛い容姿だけど時折顔を出すその荒ぶれた性格が災いしてか、学校ではみんなから距離を置かれている存在。校内模試は常に上位で成績優秀。ビジュアルも飛び抜けてて、そのうえ実家は病院経営の上級国民様。それでなくても近寄り難いのに吐く言葉には棘があるし気分屋さんだしいつも窓際の席で外見てるし。

ただ彼女がか弱い者にはとびきりの笑顔を見せれる子だってことを誰も知らない。
捨てられてる仔猫や仔犬を見るに見かねて拾ってきては家で飼って家中に猫や犬が溢れてること。去年のクリスマスには寺町通りの古本屋で絵本をどっさり買って実家の小児病棟の子達に配って回った。渡す度に読んでってせがまれたので、さっさと配れば10分程で終わるところを消灯時間ギリギリまでかかったそうだ。


真っ直ぐで嘘がつけなくてお世辞も言えない。だから言葉が刺々しく感じてしまう。いつもは遠い目をしている時が多くて何を考えてるかわからないときも多い。呼びかけても薄ら返事が帰ってくることが多い。

でもそんな時でも私は向き合って彼女の瞳の中に自分を探す。
「あんたの親友の沙羅陀だよ、ちゃんと見えてる?」って。
すると満面の笑顔が綻んで抱きついてきたりする。それが私が知る沢野菜月。


私には私なりの沢野菜月取り扱いマニュアルがある。
彼女に困り果てたら心の中でそのページをペラペラとめくってみる

あの時の菜月の笑顔、微笑み、困り顔、泣顔、頬をつたう涙、滴る汗、怒鳴り声、金切り声、手の温もり、膨らんだ真っ赤なほっぺに優しい歌声。
いろんな菜月が語りかけるようにそっと教えてくれる、私はここだよって。


「それで土蔵の中のあいつどうなったの?」

「そっち?」

声が少し遠く感じた。おそらくスピーカーフォンに切り替えたんだろう
窓の外の星空を見上げてる菜月の姿が浮かんだ。

「今んところたいして動きはない。ちょっと見守ってみようかなって思ってる
少なくとも怖くは無くなった。色々あってね」

「ふーん」

またしばらく間が空く。菜月との空気感は電話でも変わらない。

「今度見に行って良い?」

「うん、良いけど」

「その前に…」

また五秒ほどの沈黙。ガサッと音がする。おそらく置いていたiPhoneを手に持ったのだろう。ふーっっと小さな息を吐く音が聞こえた。


「産婦人科………付いてって」

「菜月……!?」


なつきの春はひとっ飛び。片想いも両想いも恋話もすっ飛ばしてゆく。
私の沢野菜月マニュアルもこれじゃあ追いつけない。













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