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翼を捨てた天使②
しおりを挟むそれでも有希は負けないつもりだった。あの一言があるまでは・・
「あなた、手首に傷あるよね。 繰り返しちゃうのよね、あれは」
全身の力が抜けていく。
守り続けていた最後の自分が音を立てて崩れたのがその時。
「お世話になりました」
静まり返る室内に向かって頭を下げた。何か嫌な予感がした。胸の息苦しさが増す。はやくこの場を逃れたい、そんな気持ちだけが募る。
部室のドアを閉めたと同時に、後ろで笑い声が弾けた。手をたたく音さえ聞こえる。
心の中で何かが引きちぎられる音を聞いた。なんのためらいもなく閉めたドアを再び開ける自分がいた。
それからの記憶は有希はっきりとしない。
けれど、恐らく、彼女のなかの薩摩おごじょの本性がそこで爆発したことは容易に想像できた。
二年間、胸に溜め込んでくすぶり続けたドロドロとしたものをありったけ吐き出したのかもしれない。手には誰かの髪をひっつかんだような間隔も残っていた。目の前に過ぎ去ったそんな修羅場を夢のように感じながら有希は気が付けば校舎の屋上にいた。
霞がかかる、この時期には珍しく富士山が浮かび上がるように目に映った。
「きれい・・」
吸い込まれるように手すりへと向かう。手を伸ばせば届きそうな表富士を身を乗り出すようにして見上げた。
思えば,その時、有希は悪魔に魅入られていたのかもしれない。生きてることをわすれたような不思議な感覚、死ぬことがたやすく思えた初めての瞬間。
「ちょっとあんた、なにしてんのよ!!」
その声の大きさに凍りついていた心臓がドクンドクンと脈を打ち始める。生暖かい血流が胸の中に渦巻いて止まっていた時が再び動き出す。と同時に恐怖で体が硬直して手先に力が入らない。足が前にも後ろにも動かない。手すりを持つ左手も誰かに押さえつけられてる様に動かない。かろうじて右手だけが自分の大脳からの命令に反応する。ゆっくりとその手を声の主に向かって後ろ手にあげた。
「たすけて」
けれどその声は声にはならない。
「わかったわ、動けないんだね」
そう言って、彼女は音もなく近づくと手すりから半身を乗り出す有希の身体を、体を重ねるようにして回り込み、内側に体ごとねじ込んだ。
コンクリートの床を重なり合い、転がりながら倒れこむ。思わずうめき声が漏れる。しばらくの間、抱き合ったまま動けない二人。お互いの生の鼓動を確かめ合う時間がしばらく続く。遠くで誰かが笑っていた。
カラスの鳴き声と木々のざわめきにさえ心が敏感に反応する。さやさやとそよぐ落ち葉の葉音まで聞こえるようだった。
「怪我ない?」
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