AKB48⌜翼はいらない⌟オマージュ作品 『翼を捨てた天使たち(早春編~立夏編』学連闘争員サハラリコ〜ある夏の日、私たちは一つになった

リトルマナ

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1972年2月19日、世界に愛なんて何処にもなかった~③山音爽&サハラリコの場合

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「ほとぼり冷めるまで音楽でもやったらどうや、サリコもゆきりんも」

サリコは先ほどから私のベッドの上で両手を枕にしながら仰向けになって、天井に張られた阪神タイガースのペナントにずっと目をやっている。

秋の午後の日差しがあちらこちらに深い影を落としながら、部屋の中にもやわらかい光を届けている。



「あのさ、爽ってさ、なんでそうやって、なにもかも一緒くたにして物を考えることができんの?」

「ん?」

「考えてみてよ、今まで革命戦士をやっていた私がだよ、なんで資本主義の象徴の片棒を担げんのよ」


実はサリコはこの時、サブカルチャーという言葉をまだ知らない。
学生運動に挫折した若者達はニューミュージックや反戦ソング、いわゆるサブカルチャーと呼ばれる分野に自分たちの表現のはけ口を求めてぞくぞくとマイクを握りギターをその手に取り始めていた。

「あんたらしないなぁ、言うてることがまともすぎて、あくびが出るわ」

「・・・・・」



    「ブルジョアジーのお腹のなかに入り込む、そこで何もかも掻っ攫ったうえで、またそのおなかを切り裂いて出てくる。それがあんたのやり方やろが。」

サリコは一度こちらに向けた視線を再び天井に向けた。黒と黄色に彩られたタイガースのペナントが今にも外れそうに風に揺れている。
彼女はやっぱりこたえているようだった。ここ数日の仲間達の大量の離散は彼女の中から全ての余裕を失わせているように見えた。

「梨音がさぁ、言ったのよ」

窓際の隅でその存在を消していたゆきりんが思い出したように突然目を覚ます。

「うん」

「あの楡の木の下で歌いたいって」

「・・・」

「だからさ、私も歌うって言ったのよ。人前で歌ったことなんてないし、勿論、ギターなんか触れたこともないんだけどね。でも言ったのよ。あそこなら歌えそうって。あの楡の木の下なら歌えるかもって。」


「あっ・・」 

じっと黙って部屋の天井を見つめていたサリコが驚きとも呻きともとれない声を上げる。
その彼女の心のなかのさざ波が時間差で私にも届く。 

「あっ…」


  「楡の木・・・・」

サリコはそこで普通の女の子に戻りたいと言った。
卒業式の日にクラスメートから頬っぺを叩かれた、あの痛みをそこで消したいと願った。
サリコにとってあの楡の木に全てを託した大学生活のはずっだった。


「誰がこんな絵を書いたんかは知らん。単なる時の悪戯か、
 それとも神さんがあんたの為に用意してくれた筋書きなんか。
そやけど、流されるままに乗ってみるのも、
あんたらしいと思うけどな?・・」

天井を見つめたままのサリコの横顔を見守りながら私とゆきりんは次の言葉を待った。突き放すようないつもの私の物言いだけど彼女が居ないと自分達はもう何も始まらないのは二人には分かっていた。

「ふぅっ」と小さな溜め息が漏れると寝転がったまま傍らにある私の真っ赤なギターにその手が伸びた。
意外にもすらりと伸びた形の良い彼女の親指が一弦目にかかる。
つま弾かれた、その無機質なラの音に反応するように彼女の重い口が開いた。


「ヘルメットは被るよ」

「どうぞ、どうぞ」

「タオルマスクもするかも」

「お気に召すままに」


「あともうひとつ」


「うん?」


「あのタイガースのペナント・・くれない?」

ゆきりんがこらえきれず、くすくすっと笑い声を漏らす。三人のころころと響く笑い声が私達のなかの澱んで沈んでいたものを融かしていく。

その夜私たちはみんなで歌うことを決めた。梨音を含めてもたった4人の私達だけどアノ楡の木の下で歌うことにした。


想いが繋がる。

神様がどこかでみんなを繋ごうとしている。
なにか得体のしれない力が動きは始めている。
翼を捨てた三人、大きく跳ぶことができない私たち。
けれどゆっくりと、力強く、私達は自分の脚で自分達の道を歩みはじめた。


    
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