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第21話『家族の掃除当番』
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■ 家族の掃除当番
地球一家6人がホストハウスに到着。リコが玄関のドアを開けた。
「おじゃまします」
リコが靴を脱いで中に入ろうとすると、床がひどく汚れていた。母が注意したが一歩遅かったため、リコの足の裏は真っ黒になった。
HM(ホストマザー)、娘、息子の3人に迎えられ、6人はリビングのテーブルに着席した。部屋の中は、ほこりにまみれているのが明らかにわかる状態で、隅のほうにはクモの巣まで見える。6人が目をチラチラさせながら汚れた部屋を観察していると、HMがまず謝った。
「何をお考えか、わかっているわ。家の中がとても汚いでしょ。本当にすみません」
6人は、別に気にしていないように装った。
「ごめんなさい。私たち、昼間はバタバタしていて、掃除の時間がとれないのよ。だから我が家では、寝る前の10分に全員で掃除することに決めているの」
全員で? 寝る前に毎日10分間?
地球一家6人は客間に案内されたが、この部屋もやはり汚い。まるで何年間も掃除を怠っているかのようだ。とても毎晩みんなで掃除しているとは信じ難い。単に掃除の時間を設けているだけなのか。掃除のやり方がいけないのかもしれない。自分たちに何か協力できることはないかと、地球一家は考え始めた。
寝る時間が近づいた頃、地球一家6人はリビングに戻った。母がHMに尋ねる。
「寝る前に掃除をするとおっしゃっていましたけど、今日は掃除はされないんですか?」
「そういえばもうこんな時間ね。ちょうど始めようと思っていたところですのよ」
「あら、そうですか。よろしければ、私たちもお手伝いさせていただけませんか? 一晩泊めていただいて、汚すことになりますから」
「それは助かるわ。じゃあ、始めましょうか」
HMは、二人の子供にも声をかけた。
「みんな、来て。地球の皆さんが、掃除を手伝って下さるって」
地球一家6人とホストファミリー3人は、用意された掃除道具の前に立った。
「ちょっと人数が多すぎるわね。そうだ。どなたか一人、隣の家の掃除を手伝いに行っていただけないかしら? 親戚の男性が一人暮らししているの」
HMがそう言うと、父が手を上げた。
「わかりました。じゃあ、そちらは私が引き受けましょう。さっそく行ってきます」
父が家を出た後、総勢8人は掃除機、ほうき、雑巾などを使って掃除を始めた。掃除のやり方は、どうやら地球の方法と大差ないようだ。
雑巾がけをしながら、ジュンはホストの娘に尋ねた。
「ねえ、みんな、学校では掃除はやっているの?」
「毎朝、業者がやるから、子供はしなくていいんだ。地球ではどう?」
「うーん、国によって違うし、僕たちの国でも学校によって違うかな。僕の学校は、業者がやるから子供は掃除しないけど、タクの学校では、自分たちで掃除するんだよな」
「うん。僕たちは当番制で、一週間に一回当番が回ってくるよ。ミサは?」
「私の学校では、特に当番は決まっていないわ。帰る前に、一応全員で掃除することになっているけど、まあ、汚れていないと思ったら、やらずに帰るわね」
「そうすると、毎日が掃除当番のようなもので、大変ですね」
HMが同情した。その時、台所でリコがゴホゴホとせきこむ声が聞こえた。台所の引き戸を開けた時に、黒いすすが大量に飛び出したらしい。リコの顔が真っ黒になっている。HMがリコの顔を拭いた。
「ごめんなさい、注意するのを忘れていたわ。そこは一番すすがたまりやすいの」
さて、その頃、隣の家ではホストの親戚の男性がソファに座ったままヘッドホンで音楽を聞いていた。部屋の中は、ホストハウスと同様にほこりにまみれている。そこへ、父が雑巾とほうきを持って現れた。
「さあ、一緒に掃除を始めませんか?」
「僕はいいです。掃除なんて無駄なことに時間を使いたくないんです」
「無駄なことかな?」
「どう考えても時間の無駄ですよ。僕は今まで一度も掃除したことがありません」
「一度もないのか。まあ、この部屋を見ればそれがわかりますよ」
父は、一人で雑巾がけを始めた。座ったまま動かない男性に向かって父は語った。
「私の4人の子供たちのうち3人は、学校で掃除の時間があります。掃除なんて業者がやればいいと思うでしょう。そうじゃないんです。子供たちは、掃除することを通して、心を一つのことに集中させることや、物事に注意して丁寧に取り組むことを学ぶんです。つまり掃除は、教室だけでなく、心をきれいにするんですよ……。おっと、大人のあなたに子供の話をして申し訳ありません。でも、掃除を通じて心を磨くのは、大人も子供も同じですよ」
父は、雑巾がけを止めて立ち上がった。
「さあ、終わった。ほら、きれいになったでしょう」
その頃、ホストハウスでも掃除が終わり、全ての部屋がピカピカになっていた。HMは頭を下げた。
「皆さんのおかげで、とてもはかどったわ。お疲れ様でした」
父が玄関から入ってきた。
「ただいま。なんだかんだで、僕一人で掃除をやらされてしまいましたよ」
「あら、それはお気の毒に」とHM。
地球一家6人は、就寝のため客間に戻った。戻る前に、母は大きめの画用紙一枚とサインペンを借りてきた。ジュンが不思議そうに尋ねる。
「お母さん、画用紙なんかもらって、何を作るの?」
「この家の掃除当番表よ。ミサとタクの学校の掃除当番の話を聞いて、ひらめいたのよ。私、保護者会で最近、両方の教室を見てきたけど、タクの教室のほうが何倍もきれいだったの。タクは一週間に一回掃除当番が回ってくるだけだけど、ミサは毎日掃除することになっているから、ミサの教室のほうが5倍くらいきれいでいいはずよね。でも、どうしてそうじゃないか、わかる?」
「ミサたちは掃除をやっていないからじゃないかな」とタク。
「うん、僕もそう思った。毎日全員で掃除をすると言われても、昨日やったからいいや、とか、どうせ誰かやるからいいやと思って、帰っちゃうな」とジュン。
「そのとおりね。一日でそんなに汚れるはずがないと思って、結局毎日やらずに帰っちゃう。そのうちに、どんどん教室が汚くなっていたんだな」とミサ。
「この家も同じことだと思うの。全員で毎日やると決めたから、結局誰もやらない。本当に毎日掃除していたら、こんなに家が汚れるはずがないもの」
母がそう言うと、父も同意した。
「お母さんの言うとおりだ。さっき隣の家に行ってきたけど、掃除する前のこの家と同じくらいの汚さだったよ。隣の家は、一度も掃除したことがないと言っていた。ということは、この家も、毎日掃除していると言いながら、実は一度も掃除してないのと同じことなんだな」
「今日は僕たちが泊まるからいいところを見せようとしただけで、普段はきっと掃除してないんだな」とジュン。
「全員で毎日やると決めたんじゃ、誰も掃除しない。そこで、当番制にすることを提案するわけね、お母さん」とミサ。
「そういうこと。掃除は毎週日曜日だけと決めて、当番が決まってさえいれば、ちゃんと掃除するでしょ」と母。
「でも、当番表まで作ってあげるのは、ちょっとお節介じゃない?」
ジュンが反対しようとしたが、父が母の意見に乗った。
「いや、僕は賛成だ。今度の旅行で我々地球人は、違う文化を発見することで、いろんなことを学んでいる。同じように、ホストの人たちも、地球人が宿泊することによって、学ぶべきことが多いと思うよ。お互いが刺激し合って、進歩するんだ」
「リコも手伝う」
リコが手を上げると、母はうれしそうに答えた。
「じゃ、リコは学校で掲示係をやっているから、それと同じように、明日の朝、この当番表を食卓の壁に張り出してよ。みんなへの説明はお母さんからするから」
「うん、わかった」
そして翌朝になり、客間で一番先に目覚めたミサが、驚いた様子で全員を起こした。部屋を見回すと、掃除する前のような汚い部屋に戻っていたのだ。
リビングに入ると、やはり元どおり汚い部屋になっている。HMが入ってきた。
「おはようございます。起きてびっくりしたでしょ。せっかく掃除を手伝ってもらったけど、一晩でこんな状態になるの。毎日こんなだから、嫌になっちゃう」
「まさか、この家だけが、こうなるんですか?」とミサ。
「この家が呪われた家ってこと? まさか。この星では、どこの家もそうよ。もしかすると、星ごと呪われているのかもしれないわね」
その時、リコが掃除当番表を持って部屋に入り、当番表を壁に張ろうとした。母は慌ててリコを止め、当番表を自分の後ろに隠した。
しばらくして、母は家の外にあるゴミ集積所に掃除当番表を捨てた。振り返ると、ホストの息子が立っている。
「わざわざ外に捨てに行かなくても、ゴミ箱に捨てておけばいいのに。掃除当番表を作ってくれたんでしょ。僕たちみんな、すぐわかりましたよ」
「ごめんなさい。余計なことを考えて」
「いいですよ。全然気にしていませんから。地球の方々が、いろいろ発見することで学んでもらえれば、僕たち満足ですから」
その日の朝、ホストファミリーが見ている中で、地球一家6人は部屋の掃除を始めた。
「皆さん、朝から忙しいでしょうから、せめてこれくらいは」と母。
「朝から掃除しておけば、その日一日はきれいですからね」とジュン。
「そうだ。もう一度隣の家に行って、謝っておこう。昨日はお説教じみたことを言ってしまったから」
父はそう言って、玄関を飛び出した。
隣の家のチャイムの音が鳴り響き、男性がドアを開けると、父が立っていた。
「昨日は失礼しました。この星が呪われているとは知らなかったもので。あなたが掃除は時間の無駄だとおっしゃったことはある意味正しかったと……」
父は、話しながら部屋の中を見て驚いた。掃除した後と変わらないくらいにきれいになっていたのだ。
「あれ、あれ? 部屋がまだきれいだ! この家は呪われていなかったのか」
「いや、ほかの家と同じです。呪われています。今朝起きたら、元どおりの汚い部屋になっていました」
「でも、今はこんなにきれいに……」
「今、僕が掃除したんです。一人で」
「それはまた、どうして?」
「掃除は心を磨くものだと教えてくださったからです。僕ははっと目覚めました。そして今日掃除してみて、それを確信しました。部屋は毎日元に戻ってしまいますが、心はどんどんきれいになっていく気がします。僕は毎日、心を磨いていきたいです」
「すばらしい心がけです! あなたは地球人と違って、掃除しても心を磨くことしかできません。にもかかわらず、掃除する決意をされたとは!」
父と男性は、目を合わせてほほえんだ。
ホストハウスでは、地球一家による掃除が続く。母がHMに尋ねた。
「そういえば、朝に掃除をする時間がないのはわかるんですが、どうして毎日、夜に掃除なさるんですか? 一夜明けたらどうせ元どおりなのに」
「私たち、掃除することで心が磨かれているように感じるんですよ。理由はそれだけです」
「すばらしいわ! 皆さんは、掃除しても心を磨くことしかできません。それでも掃除する習慣を持っているなんて!」
その時、リコがゴホゴホとせきこむ声がした。リコが台所の引き戸を開けたため、顔がすすで真っ黒になっていた。開けてはいけないと言ったのに。リコの黒い顔を見てみんなで笑った。
地球一家6人がホストハウスに到着。リコが玄関のドアを開けた。
「おじゃまします」
リコが靴を脱いで中に入ろうとすると、床がひどく汚れていた。母が注意したが一歩遅かったため、リコの足の裏は真っ黒になった。
HM(ホストマザー)、娘、息子の3人に迎えられ、6人はリビングのテーブルに着席した。部屋の中は、ほこりにまみれているのが明らかにわかる状態で、隅のほうにはクモの巣まで見える。6人が目をチラチラさせながら汚れた部屋を観察していると、HMがまず謝った。
「何をお考えか、わかっているわ。家の中がとても汚いでしょ。本当にすみません」
6人は、別に気にしていないように装った。
「ごめんなさい。私たち、昼間はバタバタしていて、掃除の時間がとれないのよ。だから我が家では、寝る前の10分に全員で掃除することに決めているの」
全員で? 寝る前に毎日10分間?
地球一家6人は客間に案内されたが、この部屋もやはり汚い。まるで何年間も掃除を怠っているかのようだ。とても毎晩みんなで掃除しているとは信じ難い。単に掃除の時間を設けているだけなのか。掃除のやり方がいけないのかもしれない。自分たちに何か協力できることはないかと、地球一家は考え始めた。
寝る時間が近づいた頃、地球一家6人はリビングに戻った。母がHMに尋ねる。
「寝る前に掃除をするとおっしゃっていましたけど、今日は掃除はされないんですか?」
「そういえばもうこんな時間ね。ちょうど始めようと思っていたところですのよ」
「あら、そうですか。よろしければ、私たちもお手伝いさせていただけませんか? 一晩泊めていただいて、汚すことになりますから」
「それは助かるわ。じゃあ、始めましょうか」
HMは、二人の子供にも声をかけた。
「みんな、来て。地球の皆さんが、掃除を手伝って下さるって」
地球一家6人とホストファミリー3人は、用意された掃除道具の前に立った。
「ちょっと人数が多すぎるわね。そうだ。どなたか一人、隣の家の掃除を手伝いに行っていただけないかしら? 親戚の男性が一人暮らししているの」
HMがそう言うと、父が手を上げた。
「わかりました。じゃあ、そちらは私が引き受けましょう。さっそく行ってきます」
父が家を出た後、総勢8人は掃除機、ほうき、雑巾などを使って掃除を始めた。掃除のやり方は、どうやら地球の方法と大差ないようだ。
雑巾がけをしながら、ジュンはホストの娘に尋ねた。
「ねえ、みんな、学校では掃除はやっているの?」
「毎朝、業者がやるから、子供はしなくていいんだ。地球ではどう?」
「うーん、国によって違うし、僕たちの国でも学校によって違うかな。僕の学校は、業者がやるから子供は掃除しないけど、タクの学校では、自分たちで掃除するんだよな」
「うん。僕たちは当番制で、一週間に一回当番が回ってくるよ。ミサは?」
「私の学校では、特に当番は決まっていないわ。帰る前に、一応全員で掃除することになっているけど、まあ、汚れていないと思ったら、やらずに帰るわね」
「そうすると、毎日が掃除当番のようなもので、大変ですね」
HMが同情した。その時、台所でリコがゴホゴホとせきこむ声が聞こえた。台所の引き戸を開けた時に、黒いすすが大量に飛び出したらしい。リコの顔が真っ黒になっている。HMがリコの顔を拭いた。
「ごめんなさい、注意するのを忘れていたわ。そこは一番すすがたまりやすいの」
さて、その頃、隣の家ではホストの親戚の男性がソファに座ったままヘッドホンで音楽を聞いていた。部屋の中は、ホストハウスと同様にほこりにまみれている。そこへ、父が雑巾とほうきを持って現れた。
「さあ、一緒に掃除を始めませんか?」
「僕はいいです。掃除なんて無駄なことに時間を使いたくないんです」
「無駄なことかな?」
「どう考えても時間の無駄ですよ。僕は今まで一度も掃除したことがありません」
「一度もないのか。まあ、この部屋を見ればそれがわかりますよ」
父は、一人で雑巾がけを始めた。座ったまま動かない男性に向かって父は語った。
「私の4人の子供たちのうち3人は、学校で掃除の時間があります。掃除なんて業者がやればいいと思うでしょう。そうじゃないんです。子供たちは、掃除することを通して、心を一つのことに集中させることや、物事に注意して丁寧に取り組むことを学ぶんです。つまり掃除は、教室だけでなく、心をきれいにするんですよ……。おっと、大人のあなたに子供の話をして申し訳ありません。でも、掃除を通じて心を磨くのは、大人も子供も同じですよ」
父は、雑巾がけを止めて立ち上がった。
「さあ、終わった。ほら、きれいになったでしょう」
その頃、ホストハウスでも掃除が終わり、全ての部屋がピカピカになっていた。HMは頭を下げた。
「皆さんのおかげで、とてもはかどったわ。お疲れ様でした」
父が玄関から入ってきた。
「ただいま。なんだかんだで、僕一人で掃除をやらされてしまいましたよ」
「あら、それはお気の毒に」とHM。
地球一家6人は、就寝のため客間に戻った。戻る前に、母は大きめの画用紙一枚とサインペンを借りてきた。ジュンが不思議そうに尋ねる。
「お母さん、画用紙なんかもらって、何を作るの?」
「この家の掃除当番表よ。ミサとタクの学校の掃除当番の話を聞いて、ひらめいたのよ。私、保護者会で最近、両方の教室を見てきたけど、タクの教室のほうが何倍もきれいだったの。タクは一週間に一回掃除当番が回ってくるだけだけど、ミサは毎日掃除することになっているから、ミサの教室のほうが5倍くらいきれいでいいはずよね。でも、どうしてそうじゃないか、わかる?」
「ミサたちは掃除をやっていないからじゃないかな」とタク。
「うん、僕もそう思った。毎日全員で掃除をすると言われても、昨日やったからいいや、とか、どうせ誰かやるからいいやと思って、帰っちゃうな」とジュン。
「そのとおりね。一日でそんなに汚れるはずがないと思って、結局毎日やらずに帰っちゃう。そのうちに、どんどん教室が汚くなっていたんだな」とミサ。
「この家も同じことだと思うの。全員で毎日やると決めたから、結局誰もやらない。本当に毎日掃除していたら、こんなに家が汚れるはずがないもの」
母がそう言うと、父も同意した。
「お母さんの言うとおりだ。さっき隣の家に行ってきたけど、掃除する前のこの家と同じくらいの汚さだったよ。隣の家は、一度も掃除したことがないと言っていた。ということは、この家も、毎日掃除していると言いながら、実は一度も掃除してないのと同じことなんだな」
「今日は僕たちが泊まるからいいところを見せようとしただけで、普段はきっと掃除してないんだな」とジュン。
「全員で毎日やると決めたんじゃ、誰も掃除しない。そこで、当番制にすることを提案するわけね、お母さん」とミサ。
「そういうこと。掃除は毎週日曜日だけと決めて、当番が決まってさえいれば、ちゃんと掃除するでしょ」と母。
「でも、当番表まで作ってあげるのは、ちょっとお節介じゃない?」
ジュンが反対しようとしたが、父が母の意見に乗った。
「いや、僕は賛成だ。今度の旅行で我々地球人は、違う文化を発見することで、いろんなことを学んでいる。同じように、ホストの人たちも、地球人が宿泊することによって、学ぶべきことが多いと思うよ。お互いが刺激し合って、進歩するんだ」
「リコも手伝う」
リコが手を上げると、母はうれしそうに答えた。
「じゃ、リコは学校で掲示係をやっているから、それと同じように、明日の朝、この当番表を食卓の壁に張り出してよ。みんなへの説明はお母さんからするから」
「うん、わかった」
そして翌朝になり、客間で一番先に目覚めたミサが、驚いた様子で全員を起こした。部屋を見回すと、掃除する前のような汚い部屋に戻っていたのだ。
リビングに入ると、やはり元どおり汚い部屋になっている。HMが入ってきた。
「おはようございます。起きてびっくりしたでしょ。せっかく掃除を手伝ってもらったけど、一晩でこんな状態になるの。毎日こんなだから、嫌になっちゃう」
「まさか、この家だけが、こうなるんですか?」とミサ。
「この家が呪われた家ってこと? まさか。この星では、どこの家もそうよ。もしかすると、星ごと呪われているのかもしれないわね」
その時、リコが掃除当番表を持って部屋に入り、当番表を壁に張ろうとした。母は慌ててリコを止め、当番表を自分の後ろに隠した。
しばらくして、母は家の外にあるゴミ集積所に掃除当番表を捨てた。振り返ると、ホストの息子が立っている。
「わざわざ外に捨てに行かなくても、ゴミ箱に捨てておけばいいのに。掃除当番表を作ってくれたんでしょ。僕たちみんな、すぐわかりましたよ」
「ごめんなさい。余計なことを考えて」
「いいですよ。全然気にしていませんから。地球の方々が、いろいろ発見することで学んでもらえれば、僕たち満足ですから」
その日の朝、ホストファミリーが見ている中で、地球一家6人は部屋の掃除を始めた。
「皆さん、朝から忙しいでしょうから、せめてこれくらいは」と母。
「朝から掃除しておけば、その日一日はきれいですからね」とジュン。
「そうだ。もう一度隣の家に行って、謝っておこう。昨日はお説教じみたことを言ってしまったから」
父はそう言って、玄関を飛び出した。
隣の家のチャイムの音が鳴り響き、男性がドアを開けると、父が立っていた。
「昨日は失礼しました。この星が呪われているとは知らなかったもので。あなたが掃除は時間の無駄だとおっしゃったことはある意味正しかったと……」
父は、話しながら部屋の中を見て驚いた。掃除した後と変わらないくらいにきれいになっていたのだ。
「あれ、あれ? 部屋がまだきれいだ! この家は呪われていなかったのか」
「いや、ほかの家と同じです。呪われています。今朝起きたら、元どおりの汚い部屋になっていました」
「でも、今はこんなにきれいに……」
「今、僕が掃除したんです。一人で」
「それはまた、どうして?」
「掃除は心を磨くものだと教えてくださったからです。僕ははっと目覚めました。そして今日掃除してみて、それを確信しました。部屋は毎日元に戻ってしまいますが、心はどんどんきれいになっていく気がします。僕は毎日、心を磨いていきたいです」
「すばらしい心がけです! あなたは地球人と違って、掃除しても心を磨くことしかできません。にもかかわらず、掃除する決意をされたとは!」
父と男性は、目を合わせてほほえんだ。
ホストハウスでは、地球一家による掃除が続く。母がHMに尋ねた。
「そういえば、朝に掃除をする時間がないのはわかるんですが、どうして毎日、夜に掃除なさるんですか? 一夜明けたらどうせ元どおりなのに」
「私たち、掃除することで心が磨かれているように感じるんですよ。理由はそれだけです」
「すばらしいわ! 皆さんは、掃除しても心を磨くことしかできません。それでも掃除する習慣を持っているなんて!」
その時、リコがゴホゴホとせきこむ声がした。リコが台所の引き戸を開けたため、顔がすすで真っ黒になっていた。開けてはいけないと言ったのに。リコの黒い顔を見てみんなで笑った。
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