3 / 9
第1章「海援隊編(黎明)」
第2話 鎖を断つ灯火
しおりを挟む
闘技場の喧騒が遠ざかり、夜の牢屋には静寂が広がっていた。
冷たい鉄の匂いと、鎖の擦れる音だけが響く。
リュオムは壁際に腰を下ろし、深く息を吐いた。
胸の竜魔紋はまだ熱を帯びている。戦いの余韻が、肉体の奥底に残っていた。
「……人間なのに、まだ笑ってる」
暗がりから声がした。獣耳の少女――ミラだ。
瞳だけが闇の中で光り、こちらをじっと見つめていた。
「笑わんと、息が詰まるき」
「普通なら、次は殺されるかもしれないって怯えるのに」
「怯えちゅう。けんど、怯えてうずくまっちょったら、鎖は外れんろう?」
ミラは唇を噛み、やがて小さく笑った。
「……ほんと、変わってる」
その時、牢の奥に光が差した。
数珠を手にした僧衣の男――シン=トナリが現れた。
淡い光球を掌に宿し、リュオムへ差し出す。
「拙僧の術で編んだ小さな灯火です。闇の中でも、進むべき道を示すでしょう」
リュオムは光球を受け取り、胸の奥に温もりを覚えた。
「……おまんは昔から、頼りになるのう」
「昔……そうでしたね。ならば今も、共に歩みましょう」
二人の言葉に、ミラは苛立つように声を荒げた。
「無駄よ! 奴隷は逃げられない。逃げても、殺される」
だがその目には、希望を押し殺すような震えがあった。
「鎖を断てば、道は開ける。……おまんは信じるか?」
リュオムの問いに、ミラはしばし黙り、やがて小さく頷いた。
夜更け。
牢屋の見張りが気を緩めた頃、三人は動いた。
シンが数珠を鳴らし、鎖を縛る呪符を淡く光らせる。金属がきしみ、力が弱まった。
ミラが耳を動かし、兵の足音が遠ざかるのを確かめる。
リュオムが鎖を引き裂くと、乾いた音を立てて鉄が弾け飛んだ。
「……ほんとに外れた」
ミラの瞳が驚きに揺れる。
「わしらでやれば、できんことはないぜよ」
三人は闇に紛れ、奴隷市の裏通路を駆け抜けた。
だが、背後から怒声が上がる。
「逃げたぞ! 捕らえろ!」
追っ手の兵たちが駆け寄り、剣を振るう。
リュオムは竜魔紋の熱を感じ、無意識に叫んだ。
「ほいっ!」
木剣が雷鳴を裂くように閃き、兵の剣をはじき飛ばす。
竜の眼が冴え渡り、敵の動きが手に取るように見えた。
ミラは小さな短剣を抜き、果敢に敵へ飛びかかる。
シンは結界を展開し、仲間を守りながら進む。
三人の動きは不思議と噛み合い、やがて追っ手を振り切った。
市外れの廃屋に転がり込み、ようやく足を止める。
荒い息をつくミラが、リュオムを見上げて言った。
「ねぇ……本気で隊を作るの?」
「本気ぜよ」
リュオムは夜明け前の空を見上げる。
闇の向こう、星がひとつ輝いていた。
「誰ひとり、鎖に縛られん隊を……海援隊をな」
シンは静かに頷き、ミラの瞳は大きく揺れた。
その瞬間、三人の間に確かな絆が芽生えた。
遠い空の彼方で、竜魔紋がかすかに脈打つ。
新たな旅路の始まりを告げるかのように。
冷たい鉄の匂いと、鎖の擦れる音だけが響く。
リュオムは壁際に腰を下ろし、深く息を吐いた。
胸の竜魔紋はまだ熱を帯びている。戦いの余韻が、肉体の奥底に残っていた。
「……人間なのに、まだ笑ってる」
暗がりから声がした。獣耳の少女――ミラだ。
瞳だけが闇の中で光り、こちらをじっと見つめていた。
「笑わんと、息が詰まるき」
「普通なら、次は殺されるかもしれないって怯えるのに」
「怯えちゅう。けんど、怯えてうずくまっちょったら、鎖は外れんろう?」
ミラは唇を噛み、やがて小さく笑った。
「……ほんと、変わってる」
その時、牢の奥に光が差した。
数珠を手にした僧衣の男――シン=トナリが現れた。
淡い光球を掌に宿し、リュオムへ差し出す。
「拙僧の術で編んだ小さな灯火です。闇の中でも、進むべき道を示すでしょう」
リュオムは光球を受け取り、胸の奥に温もりを覚えた。
「……おまんは昔から、頼りになるのう」
「昔……そうでしたね。ならば今も、共に歩みましょう」
二人の言葉に、ミラは苛立つように声を荒げた。
「無駄よ! 奴隷は逃げられない。逃げても、殺される」
だがその目には、希望を押し殺すような震えがあった。
「鎖を断てば、道は開ける。……おまんは信じるか?」
リュオムの問いに、ミラはしばし黙り、やがて小さく頷いた。
夜更け。
牢屋の見張りが気を緩めた頃、三人は動いた。
シンが数珠を鳴らし、鎖を縛る呪符を淡く光らせる。金属がきしみ、力が弱まった。
ミラが耳を動かし、兵の足音が遠ざかるのを確かめる。
リュオムが鎖を引き裂くと、乾いた音を立てて鉄が弾け飛んだ。
「……ほんとに外れた」
ミラの瞳が驚きに揺れる。
「わしらでやれば、できんことはないぜよ」
三人は闇に紛れ、奴隷市の裏通路を駆け抜けた。
だが、背後から怒声が上がる。
「逃げたぞ! 捕らえろ!」
追っ手の兵たちが駆け寄り、剣を振るう。
リュオムは竜魔紋の熱を感じ、無意識に叫んだ。
「ほいっ!」
木剣が雷鳴を裂くように閃き、兵の剣をはじき飛ばす。
竜の眼が冴え渡り、敵の動きが手に取るように見えた。
ミラは小さな短剣を抜き、果敢に敵へ飛びかかる。
シンは結界を展開し、仲間を守りながら進む。
三人の動きは不思議と噛み合い、やがて追っ手を振り切った。
市外れの廃屋に転がり込み、ようやく足を止める。
荒い息をつくミラが、リュオムを見上げて言った。
「ねぇ……本気で隊を作るの?」
「本気ぜよ」
リュオムは夜明け前の空を見上げる。
闇の向こう、星がひとつ輝いていた。
「誰ひとり、鎖に縛られん隊を……海援隊をな」
シンは静かに頷き、ミラの瞳は大きく揺れた。
その瞬間、三人の間に確かな絆が芽生えた。
遠い空の彼方で、竜魔紋がかすかに脈打つ。
新たな旅路の始まりを告げるかのように。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる