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第1章「海援隊編(黎明)」
第4話 剣聖との邂逅
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奴隷市を抜け出した三人は、市外れの森へと足を踏み入れていた。
夜通し走った身体は重く、空腹が腹を締めつける。
ミラは苛立ったように耳を揺らし、足を止めた。
「ねぇ……これからどこ行くの? 食べ物もろくにないのに」
「足を止めたら追っ手に呑まれるきに。進むしかないぜよ」
リュオムは笑って答えたが、その声にも疲労の色が滲んでいた。
シン=トナリは数珠を握り、静かに祈るように歩みを続ける。
その時だった。
――ヒュッ。
空を裂く音が響き、リュオムの手から木剣が弾き飛ばされた。
咄嗟に振り向くと、樹上に弓を構える影があった。
「この森を荒らす者、何者だ」
低く響く声とともに、長身のエルフ剣士が姿を現した。
銀混じりの黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を宿している。
腰には一本の長剣。その立ち姿だけで、圧倒的な風格を放っていた。
「……強い」
ミラが呟き、耳を震わせた。
「わしらは逃げの身ぜよ。害意はない」
リュオムは両手を広げて言った。
だが男は微動だにせず、冷ややかな目で三人を見下ろす。
「弱き者を導こうとする眼……だが、未熟だ。己を知らぬ者に、誰を導ける」
「ほう……言うやないか」
リュオムは笑い、弾かれた木剣を拾い上げる。
「試してくれるがか」
男――シュウザ=チバリスはゆるりと剣を抜いた。
金属の澄んだ音が、森の空気を張り詰めさせる。
次の瞬間、リュオムは砂を蹴った。
木剣が閃き、剣が打ち合う。
だが、一合でわかった。力の差は歴然だった。
シュウザの剣は無駄がなく、全てを見透かすような鋭さがあった。
リュオムが竜魔紋を使おうとした瞬間、彼はすかさず剣を止める。
「力に溺れるな。足元を見失うぞ」
リュオムは押し込まれ、地に膝をついた。
しかし顔には笑みを浮かべていた。
「参ったぜよ。けんど……笑うしかないき」
「負けてなお笑うか。……珍しい人間だ」
剣を収めたシュウザの眼差しが、わずかに和らいだ。
彼の庵に案内された三人は、粗末ながら整った暮らしぶりに驚かされた。
そこでは数人の若者が木剣を振っていた。
シュウザは彼らに型を教え、時に叱咤し、時に笑みを浮かべて導いていた。
「師匠……この人たちは?」
弟子の一人が尋ねると、シュウザは「旅の流れ者だ」とだけ答えた。
稽古を見ていたミラが、やがて前に出た。
「……あたしにも剣を教えてよ」
その声は震えていたが、瞳は真剣だった。
シュウザは黙って見つめ、やがて頷いた。
「いいだろう。ただし、剣は命を断つものではなく、命を守るものと心得ろ」
夜。焚き火の灯りの中で、リュオムとシュウザは向かい合っていた。
リュオムが笑いながら志を語る。
「この世界でも海援隊を作るぜよ。誰ひとり鎖に縛られん隊を」
「馬鹿者め。だが……悪くはない志だ」
炎に照らされたシュウザの横顔は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
ふと、低く呟く。
「……ワームを抜けた者は、皆どこか似ている」
リュオムは息を呑んだ。
だが彼はそれ以上は語らず、焚き火の炎に視線を落とした。
森の夜空には、竜のかたちを描くような星々が瞬いていた。
その下で、新たな絆が芽生えようとしていた。
夜通し走った身体は重く、空腹が腹を締めつける。
ミラは苛立ったように耳を揺らし、足を止めた。
「ねぇ……これからどこ行くの? 食べ物もろくにないのに」
「足を止めたら追っ手に呑まれるきに。進むしかないぜよ」
リュオムは笑って答えたが、その声にも疲労の色が滲んでいた。
シン=トナリは数珠を握り、静かに祈るように歩みを続ける。
その時だった。
――ヒュッ。
空を裂く音が響き、リュオムの手から木剣が弾き飛ばされた。
咄嗟に振り向くと、樹上に弓を構える影があった。
「この森を荒らす者、何者だ」
低く響く声とともに、長身のエルフ剣士が姿を現した。
銀混じりの黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を宿している。
腰には一本の長剣。その立ち姿だけで、圧倒的な風格を放っていた。
「……強い」
ミラが呟き、耳を震わせた。
「わしらは逃げの身ぜよ。害意はない」
リュオムは両手を広げて言った。
だが男は微動だにせず、冷ややかな目で三人を見下ろす。
「弱き者を導こうとする眼……だが、未熟だ。己を知らぬ者に、誰を導ける」
「ほう……言うやないか」
リュオムは笑い、弾かれた木剣を拾い上げる。
「試してくれるがか」
男――シュウザ=チバリスはゆるりと剣を抜いた。
金属の澄んだ音が、森の空気を張り詰めさせる。
次の瞬間、リュオムは砂を蹴った。
木剣が閃き、剣が打ち合う。
だが、一合でわかった。力の差は歴然だった。
シュウザの剣は無駄がなく、全てを見透かすような鋭さがあった。
リュオムが竜魔紋を使おうとした瞬間、彼はすかさず剣を止める。
「力に溺れるな。足元を見失うぞ」
リュオムは押し込まれ、地に膝をついた。
しかし顔には笑みを浮かべていた。
「参ったぜよ。けんど……笑うしかないき」
「負けてなお笑うか。……珍しい人間だ」
剣を収めたシュウザの眼差しが、わずかに和らいだ。
彼の庵に案内された三人は、粗末ながら整った暮らしぶりに驚かされた。
そこでは数人の若者が木剣を振っていた。
シュウザは彼らに型を教え、時に叱咤し、時に笑みを浮かべて導いていた。
「師匠……この人たちは?」
弟子の一人が尋ねると、シュウザは「旅の流れ者だ」とだけ答えた。
稽古を見ていたミラが、やがて前に出た。
「……あたしにも剣を教えてよ」
その声は震えていたが、瞳は真剣だった。
シュウザは黙って見つめ、やがて頷いた。
「いいだろう。ただし、剣は命を断つものではなく、命を守るものと心得ろ」
夜。焚き火の灯りの中で、リュオムとシュウザは向かい合っていた。
リュオムが笑いながら志を語る。
「この世界でも海援隊を作るぜよ。誰ひとり鎖に縛られん隊を」
「馬鹿者め。だが……悪くはない志だ」
炎に照らされたシュウザの横顔は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
ふと、低く呟く。
「……ワームを抜けた者は、皆どこか似ている」
リュオムは息を呑んだ。
だが彼はそれ以上は語らず、焚き火の炎に視線を落とした。
森の夜空には、竜のかたちを描くような星々が瞬いていた。
その下で、新たな絆が芽生えようとしていた。
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