『異世界維新録 ― 海援隊Re:Birth』

Ilysiasnorm

文字の大きさ
5 / 9
第1章「海援隊編(黎明)」

第4話 剣聖との邂逅

しおりを挟む
奴隷市を抜け出した三人は、市外れの森へと足を踏み入れていた。
 夜通し走った身体は重く、空腹が腹を締めつける。
 ミラは苛立ったように耳を揺らし、足を止めた。

「ねぇ……これからどこ行くの? 食べ物もろくにないのに」
「足を止めたら追っ手に呑まれるきに。進むしかないぜよ」
 リュオムは笑って答えたが、その声にも疲労の色が滲んでいた。
 シン=トナリは数珠を握り、静かに祈るように歩みを続ける。

 その時だった。

 ――ヒュッ。

 空を裂く音が響き、リュオムの手から木剣が弾き飛ばされた。
 咄嗟に振り向くと、樹上に弓を構える影があった。

「この森を荒らす者、何者だ」

 低く響く声とともに、長身のエルフ剣士が姿を現した。
 銀混じりの黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を宿している。
 腰には一本の長剣。その立ち姿だけで、圧倒的な風格を放っていた。

「……強い」
 ミラが呟き、耳を震わせた。

「わしらは逃げの身ぜよ。害意はない」
 リュオムは両手を広げて言った。
 だが男は微動だにせず、冷ややかな目で三人を見下ろす。

「弱き者を導こうとする眼……だが、未熟だ。己を知らぬ者に、誰を導ける」
「ほう……言うやないか」
 リュオムは笑い、弾かれた木剣を拾い上げる。
「試してくれるがか」

 男――シュウザ=チバリスはゆるりと剣を抜いた。
 金属の澄んだ音が、森の空気を張り詰めさせる。

 次の瞬間、リュオムは砂を蹴った。
 木剣が閃き、剣が打ち合う。
 だが、一合でわかった。力の差は歴然だった。

 シュウザの剣は無駄がなく、全てを見透かすような鋭さがあった。
 リュオムが竜魔紋を使おうとした瞬間、彼はすかさず剣を止める。

「力に溺れるな。足元を見失うぞ」

 リュオムは押し込まれ、地に膝をついた。
 しかし顔には笑みを浮かべていた。

「参ったぜよ。けんど……笑うしかないき」
「負けてなお笑うか。……珍しい人間だ」

 剣を収めたシュウザの眼差しが、わずかに和らいだ。

 彼の庵に案内された三人は、粗末ながら整った暮らしぶりに驚かされた。
 そこでは数人の若者が木剣を振っていた。
 シュウザは彼らに型を教え、時に叱咤し、時に笑みを浮かべて導いていた。

「師匠……この人たちは?」
 弟子の一人が尋ねると、シュウザは「旅の流れ者だ」とだけ答えた。

 稽古を見ていたミラが、やがて前に出た。
「……あたしにも剣を教えてよ」
 その声は震えていたが、瞳は真剣だった。
 シュウザは黙って見つめ、やがて頷いた。
「いいだろう。ただし、剣は命を断つものではなく、命を守るものと心得ろ」

 夜。焚き火の灯りの中で、リュオムとシュウザは向かい合っていた。
 リュオムが笑いながら志を語る。
「この世界でも海援隊を作るぜよ。誰ひとり鎖に縛られん隊を」
「馬鹿者め。だが……悪くはない志だ」

 炎に照らされたシュウザの横顔は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
 ふと、低く呟く。

「……ワームを抜けた者は、皆どこか似ている」

 リュオムは息を呑んだ。
 だが彼はそれ以上は語らず、焚き火の炎に視線を落とした。

 森の夜空には、竜のかたちを描くような星々が瞬いていた。
 その下で、新たな絆が芽生えようとしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...