5 / 11
第1章「海援隊編(黎明)」
第4話 剣聖との邂逅
しおりを挟む
奴隷市を抜け出した三人は、市外れの森へと足を踏み入れていた。
夜通し走った身体は重く、空腹が腹を締めつける。
ミラは苛立ったように耳を揺らし、足を止めた。
「ねぇ……これからどこ行くの? 食べ物もろくにないのに」
「足を止めたら追っ手に呑まれるきに。進むしかないぜよ」
リュオムは笑って答えたが、その声にも疲労の色が滲んでいた。
シン=トナリは数珠を握り、静かに祈るように歩みを続ける。
その時だった。
――ヒュッ。
空を裂く音が響き、リュオムの手から木剣が弾き飛ばされた。
咄嗟に振り向くと、樹上に弓を構える影があった。
「この森を荒らす者、何者だ」
低く響く声とともに、長身のエルフ剣士が姿を現した。
銀混じりの黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を宿している。
腰には一本の長剣。その立ち姿だけで、圧倒的な風格を放っていた。
「……強い」
ミラが呟き、耳を震わせた。
「わしらは逃げの身ぜよ。害意はない」
リュオムは両手を広げて言った。
だが男は微動だにせず、冷ややかな目で三人を見下ろす。
「弱き者を導こうとする眼……だが、未熟だ。己を知らぬ者に、誰を導ける」
「ほう……言うやないか」
リュオムは笑い、弾かれた木剣を拾い上げる。
「試してくれるがか」
男――シュウザ=チバリスはゆるりと剣を抜いた。
金属の澄んだ音が、森の空気を張り詰めさせる。
次の瞬間、リュオムは砂を蹴った。
木剣が閃き、剣が打ち合う。
だが、一合でわかった。力の差は歴然だった。
シュウザの剣は無駄がなく、全てを見透かすような鋭さがあった。
リュオムが竜魔紋を使おうとした瞬間、彼はすかさず剣を止める。
「力に溺れるな。足元を見失うぞ」
リュオムは押し込まれ、地に膝をついた。
しかし顔には笑みを浮かべていた。
「参ったぜよ。けんど……笑うしかないき」
「負けてなお笑うか。……珍しい人間だ」
剣を収めたシュウザの眼差しが、わずかに和らいだ。
彼の庵に案内された三人は、粗末ながら整った暮らしぶりに驚かされた。
そこでは数人の若者が木剣を振っていた。
シュウザは彼らに型を教え、時に叱咤し、時に笑みを浮かべて導いていた。
「師匠……この人たちは?」
弟子の一人が尋ねると、シュウザは「旅の流れ者だ」とだけ答えた。
稽古を見ていたミラが、やがて前に出た。
「……あたしにも剣を教えてよ」
その声は震えていたが、瞳は真剣だった。
シュウザは黙って見つめ、やがて頷いた。
「いいだろう。ただし、剣は命を断つものではなく、命を守るものと心得ろ」
夜。焚き火の灯りの中で、リュオムとシュウザは向かい合っていた。
リュオムが笑いながら志を語る。
「この世界でも海援隊を作るぜよ。誰ひとり鎖に縛られん隊を」
「馬鹿者め。だが……悪くはない志だ」
炎に照らされたシュウザの横顔は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
ふと、低く呟く。
「……ワームを抜けた者は、皆どこか似ている」
リュオムは息を呑んだ。
だが彼はそれ以上は語らず、焚き火の炎に視線を落とした。
森の夜空には、竜のかたちを描くような星々が瞬いていた。
その下で、新たな絆が芽生えようとしていた。
夜通し走った身体は重く、空腹が腹を締めつける。
ミラは苛立ったように耳を揺らし、足を止めた。
「ねぇ……これからどこ行くの? 食べ物もろくにないのに」
「足を止めたら追っ手に呑まれるきに。進むしかないぜよ」
リュオムは笑って答えたが、その声にも疲労の色が滲んでいた。
シン=トナリは数珠を握り、静かに祈るように歩みを続ける。
その時だった。
――ヒュッ。
空を裂く音が響き、リュオムの手から木剣が弾き飛ばされた。
咄嗟に振り向くと、樹上に弓を構える影があった。
「この森を荒らす者、何者だ」
低く響く声とともに、長身のエルフ剣士が姿を現した。
銀混じりの黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を宿している。
腰には一本の長剣。その立ち姿だけで、圧倒的な風格を放っていた。
「……強い」
ミラが呟き、耳を震わせた。
「わしらは逃げの身ぜよ。害意はない」
リュオムは両手を広げて言った。
だが男は微動だにせず、冷ややかな目で三人を見下ろす。
「弱き者を導こうとする眼……だが、未熟だ。己を知らぬ者に、誰を導ける」
「ほう……言うやないか」
リュオムは笑い、弾かれた木剣を拾い上げる。
「試してくれるがか」
男――シュウザ=チバリスはゆるりと剣を抜いた。
金属の澄んだ音が、森の空気を張り詰めさせる。
次の瞬間、リュオムは砂を蹴った。
木剣が閃き、剣が打ち合う。
だが、一合でわかった。力の差は歴然だった。
シュウザの剣は無駄がなく、全てを見透かすような鋭さがあった。
リュオムが竜魔紋を使おうとした瞬間、彼はすかさず剣を止める。
「力に溺れるな。足元を見失うぞ」
リュオムは押し込まれ、地に膝をついた。
しかし顔には笑みを浮かべていた。
「参ったぜよ。けんど……笑うしかないき」
「負けてなお笑うか。……珍しい人間だ」
剣を収めたシュウザの眼差しが、わずかに和らいだ。
彼の庵に案内された三人は、粗末ながら整った暮らしぶりに驚かされた。
そこでは数人の若者が木剣を振っていた。
シュウザは彼らに型を教え、時に叱咤し、時に笑みを浮かべて導いていた。
「師匠……この人たちは?」
弟子の一人が尋ねると、シュウザは「旅の流れ者だ」とだけ答えた。
稽古を見ていたミラが、やがて前に出た。
「……あたしにも剣を教えてよ」
その声は震えていたが、瞳は真剣だった。
シュウザは黙って見つめ、やがて頷いた。
「いいだろう。ただし、剣は命を断つものではなく、命を守るものと心得ろ」
夜。焚き火の灯りの中で、リュオムとシュウザは向かい合っていた。
リュオムが笑いながら志を語る。
「この世界でも海援隊を作るぜよ。誰ひとり鎖に縛られん隊を」
「馬鹿者め。だが……悪くはない志だ」
炎に照らされたシュウザの横顔は、どこか遠い過去を見つめているようだった。
ふと、低く呟く。
「……ワームを抜けた者は、皆どこか似ている」
リュオムは息を呑んだ。
だが彼はそれ以上は語らず、焚き火の炎に視線を落とした。
森の夜空には、竜のかたちを描くような星々が瞬いていた。
その下で、新たな絆が芽生えようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる